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めぐる世界の光と闇と  作者: 弦巻桧
番外編・後日談
39/65

backstage

三人称、雛子視点です。

 大学に入って地元を離れ、守屋雛子は友人作りに苦労していた。


 雛子の関西弁は、標準語の女の子たちに混じると、どぎつく聞こえる。その上雛子は、言いたいことをポンポン言ってしまう性格だ。

 そのため周囲の女の子たちは、次第に雛子には声を掛けなくなっていった。の、だが……。


 一人だけ、空気を読めない奴がいた。

 松影めぐるである。


 彼女は、大学構内にある何代目だかの学長の像を小一時間じーっと眺めていたり、門の近くに立っている木によじ登ろうとしていたり――雛子が見かける度に、突っ込まずにはいられない奇行を見せる人物であった。


 彼女は行動や発言こそおかしいが、ふにゃりと笑うだけで周囲を和ませてしまう、不思議な魅力のある子だった。


 そんな彼女に、雛子はなぜか懐かれた。おそらく、見かける度に突っ込んでいたことで、彼女の中では友達認定されたのだろう。多少キツイ事を言った後でも楽しそうに、「雛ちゃん雛ちゃん」と声を掛けてくる。後をついてくる。


 ――「雛ちゃん」って。むしろあんたが雛みたいやし。

 危なっかしい彼女から目を離せず、雛子もついつい手を焼かずにはいられなかったのだった。



     *



 雛子は、日本人の母と異世界人の父を持つ。

 そのせいなのかは分からないが、雛子には、異なる世界に「引っ張られる」人間を嗅ぎ分ける能力があった。

 それは目に見える確たる証拠など無く、あくまで勘にすぎないものなのだが、雛子は今まで一度も外したことが無かった。


 今やすっかり仲良くなってしまった松影めぐるにも、当初から「引っ張られている」感じがあった。しかも、彼女を引っ張る目に見えない糸のようなものは、日に日に太くなっているようである。


 ――メグが次元の間で迷子になったり、飛ばされた世界で酷い目に遭ったりしたら……。ああ、心配や。この子めちゃめちゃ天然入ってるし、鈍臭どんくさいんやもん。


 雛子はお節介かもしれないと思いつつ、ある日こっそり発信機を飲ませた。

 この発信機は雛子の父の世界で開発されたもので、次元を超えてその人の居場所を特定できる優れものだった。米粒サイズなので、食べ物の中に仕込むのも簡単だ。本当は皮膚の中に埋め込むのが、最も効果が持続する。だが経口でも、一度体内に入れば一年間は持つのだ。


 発信機を飲ませてからしばらく、雛子の携帯に送られてくる信号は、きちんとメグがこの世界に居ることを示していた。


 それでもやはり、彼女に感じる「引っ張られている」という印象は、日増しに強くなる。雛子は信じてもらえないだろうと覚悟しつつも、自分が日本人と異世界人とのハーフであることを彼女に明かし、最低限の忠告はしたのだが……。



 雛子の携帯が、発信機からの信号を消失ロストしたのは、その日の丑三つ時であった。


 即座に兄に連絡を取り、発信機の固有番号を伝え、彼女の居場所を探させた。


 ようやく居場所を探り当て、そこにたどり着いた時、メグはずいぶん疲弊した顔で眠っていた。

 雛子はそこで、これまで彼女が体験してきたことを、ジャックと名乗る男から聞き出した。


 その内容から推測するに、発信機が正常に働かなくなったのは、彼女が結ばされた「契約」の影響だ。

今はそれが無効になったため、再び発信機の信号を捕える事が出来るようになったのだろう。


 雛子は、強引にメグをこの世界にとどめようとし、危険にさらしたアレックスを恨んだ。しかしアホでお人よしなメグのことだから、きっと彼を放って何も言わずに帰ってくることも出来ないだろう。

 雛子は、彼女に帰る手段だけを残し、先に日本に戻ってきた。


 彼女はいずれ、きちんとこちらにも帰ってくるだろう。雛子も、事情を知らないメグの家族も、彼女がいなくなれば悲しむことを、知らないはずはないのだから。



 メグは戻ってきた。

 戻ってきた彼女には、あの世界に「引っ張られている」という感じは薄くなっていた。

 今の彼女からはむしろ、あの世界に「属している」という印象を受ける。


 ――あーあ、捕まってもーたんやなあ。


 こちらとあちら、二つの世界のどちらにも属し、それでいてどちらにも完全に属することが出来ない。だが、どちらの世界の掟にも縛られている。――そんな宙ぶらりん、かつ板挟みの窮屈な思いをする人間は、自分たちくらいでいいと思っていたのに。


 ――探したんが裏目に出たかなぁ。


 しかし、「どちらの世界にも『おかえり』と言ってくれる人が居るのが嬉しい」と笑うメグを見ていると、これで良かったという気もしてくる。


 ――嬉しそうやから、まあええか。



     *



 いつか、どちらか一つの世界を選ぶ必要に迫られた時。

 きっと彼女は、迷わずあちらを選ぶのだろう。

 あの男の居る場所を、終の棲家と決めるのだろう。


 だがそれまでは――彼女のこの世界への未練が消えるまでは、彼女とこの世界をつなぐ手助けをし続けよう。

 メグは雛子にとっても、非常に稀有な、大事な友人なのだから。


「守屋」は、雛子の母方の姓です。雛子は基本的には、日本生まれ日本育ち。



今後も番外編や後日談を、いくつか更新する予定です。

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