33 諸々の動機とか、動悸とか
何かが唇に触れる感触で、眠りから呼び覚まされました。
何だろう? と思って見ると、アレックス様の指でした。
ベッドの上で上体を起こした彼が、私を見つめています。
「おはよう。……良かった、いてくれて。まだ日本に帰ってなかったんだな」
日本に帰れる方法が見つかったことは彼には言っていないはずなのに、
「どうして――」
「ジャックにいろいろ聞いたから」
いつの間に!?
「まあそれはともかく。……安心した」
「――何も言わないで帰るなんて、出来るわけがないですよ」
それに、確認したいこともありましたし。
「あの時言ってたこと、本当ですか?」
――『好きな女一人守れないで、何が魔法使いだ!』って、言いましたよね? 幻聴じゃないですよね?
「『あの時』っていつ? 俺何言った?」
そう言って彼は、ニヤニヤ笑っています。絶対分かってて惚けてますよね!
「メグの方こそどうなんだ。帰る方法が分かってたのに、どうして戻ってきたんだ?」
「それは……もう一度、あなたにあいたかったから……です」
ひょえー恥ずかしくて顔が見れないです。よもやこんなセリフを言う日が、自分の人生の中で訪れようとは……!! もう自分でも真っ赤になってるのが分かるくらい顔が熱いです。それなのに、こういう時のアレックス様はいじわるです。
「どうして、あいたいと思ってくれたんだ?」
えー、それを言わせますか――!
「ア、アレックス様のことが……」
「俺のことが?」
動揺するな! ただの音の連なりだと思えばいいんですよ!
「す、き、だからです!」
言えました!
「もっと感情込めろよ。俺の目を見てもう一回」
あなたは新人女優を指導する監督ですか!
うううううー。
渋る私に、彼はさも名案を思い付いたというように、
「よし。じゃあメグの方からキスしてくれたら勘弁してやる」
ハードル上がってしまいました――!!
「あ、あの、告白の方に戻し――」
「却下」
あの、その、なんていうか、スケベ心丸出しなのもどうかと思いますよ、アレックス様。
「俺がこんだけいろいろさらけ出してるんだ。逃げられると思うなよ?」
それはあれですかー!? 知りすぎたせいで消されるという、死亡フラグ――!
「ごちゃごちゃ言ってないで早くしろ」
う、あ。
……契約なんてなくても、私はこの人の命令に弱いみたいです。
そっと唇を重ねると、離れられないように頭を掴まれて、あっという間に攻守交替していました。次第に、深いキスへと変わっていきます。
それは、今までと同じようで、どこかが違っていました。きっと、「食事」なんて理由はなく、ただ純粋に愛情からキスしたのは初めてだから、だと思います。
こころが、満たされていきます。
――私の探し物は、異世界で見つかったみたいです。
魔王が封じられた後、闇の者たちの活動は急速に穏やかになりました。やっぱり魔王のどす黒い気の影響は大きかったんですね。
とはいえ、この国の状態が今のままだと、いつまた「魔王」を生み出してしまうか分かりません。
だからカルロス殿下は、陛下にも進言して、この国の歴史の見直し、アンヤージ(陰陽師)に対する態度の軟化、彼らの使う魔法とフェレス国固有の魔法についての研究――などを始める、と約束して下さいました。
突然には無理でしょうが、これで少しずつ、この国がより良い方向へ変わっていけばと思います。
実はフェレス国側には、アンヤージを兵として使おうという思惑もあったり……。
メグの知らないところでは、権力で支配しようとするフェレス国と、文化面からの征服を図るアンヤージの攻防があったりするのかもしれません。
でも日本に帰る気満々な今のメグには、そこら辺の事情まで突っ込んでいく権利も義務もありません。
次回、いよいよ最終回です。