31 戦線復帰、そして決戦へ
この回と次の回は展開が早いかと思います。
それにしても絶景ですよ上から見る景色は! 高所恐怖症の方にはお勧めできませんが、何とかと煙は高いところが好きで……あれ?
もうこのままずっと飛んでいたいですけど、そうもいきません。
時たま襲ってくる闇の者たちを蹴散らしながら、最短距離を音速でアレックス様たちの所へ飛びました。
アレックス様の姿を視界に捉えた時、なぜか胸がじわっと熱くなって、視界が歪みました。
目から水が出るのは……ゴミが入ったから、です。泣いてませんよ! 嬉しいんですから、泣くワケありません。
「アレックス様!!」
震える声で呼ぶと、彼がこちらを振り仰ぎました。
私が式神を消して飛び降りると、腕を広げて抱きとめてくれました。
「メグ……本当に、メグだよな?」
「はい! 私です!」
アレックス様は、感触を確かめるようにぎゅっと私を抱きしめます。
「――よく生きてた。よく、戻ってきたな……」
表情は見えませんが、その声は、少し震えているように聞こえました。
――ああ、あいたかったです。
もう少しこのまま浸っていたいですが、そうもいきません。
離れようとしない彼を無理やり引き剥がします。不満が顔にありありと出てましたが、無視して切りだしました。
「アレックス様! 私、お話しなきゃいけないことがあります。魔王のことで――」
私とご主人様の再会を生温かい目で見守っていた皆さんにも、チヨコさんの話をかいつまんで話して、魔王封印作戦について説明しました。
悪い魔法使いとされる人物から聞いた話を、信じてもらえるのかと心配していましたが、杞憂でした。数百年は生きている猛者揃いの使い魔さん達が皆、私の話に太鼓判をくれたおかげです。
早速、作戦開始です。
まず、風の魔法でカルロス殿下と連絡を取り、フェレスの神の神殿のある土地に入ることを認めてもらわなければなりません。
さあこれが大変だぞーと思っていたのに、豈図らんや。あっさり認めてくれました。
「ただし、これは我の独断ゆえ、チャンスは一度きりだ。失敗したら作戦立案者の命は無いものと思え」
という条件付きではありましたが。
要するに、失敗したら私に全ての責任を取らせる、ということでしょう。
ご主人様は心配そうに私を見ましたが、大丈夫です。もちろんそう言われる覚悟はしてましたから。
お許しが出たので、神殿に向かいます。神殿があるのは王都の西部です。四方の山と中央部を流れる川、そしてこの神殿――かつての王宮――の位置関係……。こんなところまで平安京そっくりですね。
安倍の墓ってどこに在るんでしょう?
パルテノン神殿を思わせる形の神殿。その周りをぐるりと探索して、見つけましたよ。
神殿の裏手、草むした場所にそれはありました。そんなに立派な墓石ではなくて、本当にただの石でしたが、よく見るとちゃんと文字が書かれていました。草書体っぽいので読めませんが、日本の古語であるだろうことだけは分かります。
さて、この墓石を中心に、正五角形を描きます。そして対角線を引き、星を描きます。五芒星ですね。この陣には陽の気を増幅させる特殊な術を施しておきます。
魔王をこの陣の中に誘いこんだら、五つの頂点に魔法使い五人に立ってもらい、陽の気をぶつけてもらいます。そうして魔王を墓石の中に閉じ込めれば、封印は完了となります。
私は陰の気が強いので、他の使い魔さんたちと一緒に、魔王の体力を削りつつここまで誘導する囮担当です。
「変わった陣だな」
私が描いた五角形と星を見て、アレックス様が呟きました。
「これはですね――」
喜んで説明を始めようとした私に、彼は
「長くなるなら言わなくて良い」
と言いました。うう、残念です。
私を呑み込み、結果的には私が取り込んでしまったのは、どうやら魔王から切り離された体の一部だったようです。
なんでそれが分かるかといえば、何となく分かっちゃうからなんですよねー、魔王の居場所が。式神使って探すまでも無く、もう既に近くまで来てることが分かります。
魔法使いさん達は安倍の墓のところに残して、私は使い魔さん達と一目散に魔王のところに向かいます。
人気の無くなった村。おそらく魔王の被害のために、村人が余所へ出ていってしまった場所です。
魔王見っけ! 周りにワサワサ仲間を連れていらっしゃる!
火竜さんが火を吹き、魔王の体の一部を業火に晒します。
フォックスさんは旋風を起こし、魔王から分離した怨霊を切り刻みます。
モグラさんが魔王本体を巨大な岩の下敷きにしたところに、私が岩の隙間から木でメッタ刺しにしました。……が、どれもあんまり効いていないみたいです。
木が刺さったまま出てきた異形の者は、体に刺さった物をズッと抜き出して放り投げ、ブルブルと体を震わせ土を払います。見た目は人型なんですが、仕草はたまに動物染みたものが混じりますね。
魔王の卷族を消しながら、魔王だけを少しずつ少しずつ、神殿の方に誘導します。
が、やっぱり神聖な土地の効果なのか、怨霊共はそこから離れていこうとします。
そうはさせじと走って追おうとして……コケました。あ、足が縺れました。
起きあがろうとしたところ、目の前に魔王の姿が!
メグ、万事休す!?
メグの作戦がすんなり受け入れられてるのは、陰陽師もアルハラ人も実はさほど悪いことをしてきたわけでなく、彼らに恨みを持つ人も征伐隊にはいなかったからです。
もし一人でも恨んでいる人がいれば、もっとドロドロでぐちゃぐちゃの展開になったことでしょう。(それだともう、私の処理能力を超えて、ハッピーエンドに出来る自信がありません……。)
あと、何度か魔王と対戦して、普通に戦っても歯が立たないことが分かっていたため、理屈は分からんがやってみようぜって感じかな。彼らはそんなこと、メグには言わないですけどね。
次回で魔王退治の決着はついてしまいますよ。終わりが見えてきた!