30 魔王の取扱説明
チヨコさんの説明は続きます。
「魔王は、鎮め、封じてしまわねばなりません。でも、今は魔王の力が強くなりすぎていて、そのままでは封じられません。力を削がなくては。
それに、その封印を行う土地にも、問題があるのです」
どこでも良いってわけじゃないんですね。
「封印に最も適した土地には、今はフェレスの神の神殿があります。そこが、元々アルハラの王宮の在った場所と言われています。
神聖なる地と言われるがゆえに、現在はアンヤージの立ち入りが禁じられてしまいました。不浄の魔王を誘い込み、封じるなど以っての外でしょうね」
それはアン男、もといカルロス殿下にどうにかさせるしかないでしょうが、気が進みませんね。あの人、私を疑ってましたし。
「封印ってどうすればいいんですか?」
「魔王は強大な陰の気を帯びていますから、それに匹敵する陽の気で押さえこみます。フェレス神の神殿のすぐ近くに安倍の墓があったはずですから、その墓石の中に魔王を移し、閉じ込めるのです」
ううーむ、……あれ?
「もしかして、もともと鬼になった安倍はその中に封じられていて……それが手入れされなくなって封印が緩んで、気づいたら『魔王』の核になっていた――ってことですか」
「そうです。それも単に封印が解けて出てきてしまっただけなら、我々の手に負えなくなるくらい強くなってしまうことは無かったはずです。
この国の抱えるアンバランスな気の状態や、この地でかつて流された血の記憶と相まった結果、国中の者たちに危害を加えることになってしまった――」
結論。――先祖供養って、大事ですね。
たとえ直接の先祖でなくても、かつて同じ場所に生きた人々の歴史や記憶を無視してしまったら報いがある、ということなのかもしれません。
さて、これでようやく、ご主人様のところに向かえます。
まず、ご主人様の居場所を探します。ベッドの上に座ったまま、魔力の媒介にする紙を並べます。
一枚一枚、丁寧に鳥の名前を書き込んでいきます。よもやこんな所で漢字の能力を問われようとは……。そしてそれらに一斉に魔力を込めます。
王都の北部を中心に、式神出血大サービスです。いつもより多めに出しております。
――いました!
ご主人様たち御一行様は、私が戦線離脱した場所から少し西に移動していたようです。
式神を全て呼び戻して、ちょっと休憩。さすがにちょっと疲れました。
――よーし。
気合を入れ直して、再び式神を出します。大型の鳥にしてみました。いっそ龍にでもしちゃおうかな、と思ったけど、エリーちゃんに止められたのでやめました。
私が次々に式神を出しているのを見たチヨコさんは、
「メグさんの魔力も、なかなか天井知らずというか……常識外れですね」
と、驚いていました。
およ? もしかして私ってチートだったんですかね?
(使い魔契約が元々の能力にある程度、枷を嵌めるものだとはいえ……自覚が無かったというのも驚きじゃな。主人があの学校でトップクラスにいるなら、そなたも必然的にそうなるじゃろ)
と、エリーちゃんも言います。へー、アレックス様って凄かったんですねー。
「それじゃ、いろいろありがとうございました。私、行きます」
エリーちゃんたちにも一緒に来てもらえればいいのですが。チヨコさんにはここを離れられない事情がおありのようですし、エリーちゃんとジャックさんはそんな彼女を護らなくちゃいけないので、無理だそうです。
(達者での)
「頑張って。力になれなくてごめんね」
いえいえそんな、気にしないでくださいジャックさん。
「全てをお任せしてしまうのは大変心苦しいのですが、よろしくお願いしますね」
演歌歌手ばりのお辞儀をするチヨコさん。うわわ、顔上げてください。
式神に跨って、飛翔。下を見ると、エリーちゃんとジャックさんはひらひらと手を振っていて、チヨコさんはまだお辞儀を繰り返していました。……もういいですよ。
ああ、そういえば訊き忘れましたけど、チヨコさんってもしかしてスイアーブさんの初恋の方だったのでしょうか? 美人さんでしたし……。
メグの潜在能力値はもともと高いんです。が、運動神経の無さが足を引っ張るので、あまり戦闘員向きではないと思います。