side A 平たく言えば一目惚れ
アレックス視点です。
好感度? 何それ美味しいの? と言わんばかり……。
生まれた時から、俺は優秀で完璧だった。
何をやっても人より飲み込みが早く、レベルの高いことがやれてきた。
血筋、家柄、容姿、才能。
どれを取っても、俺には欠けているところなどない。
…………はずだった。
何かが足りない、と感じ始めたのはいつからだったか。
どんなに周囲に持て囃されても、満たされなくなったのはいつからだろう。
どうすれば俺は満足できる?
俺に未だ足りないものとは何だ?
使い魔召喚の日が決まったのは、そんな疑問にも悩むのが面倒になり始めてきた頃のことだ。
はっきり言って、使い魔なんて抱え込むのは面倒でしかないと思っていた。
だがその一方で、自分のプライドと面子にかけて、何としても大物を呼び出さねばならないという思いもあった。
自分が召喚したものを見た瞬間、呼吸を忘れた。
「人型……?」
どう見ても人間に見えるソレは、肩までかかるくらいの長さの真っ黒な髪に、少し黄色みがかった肌の色をしていた。瞳の色は、閉じられているために見えない。
気持ちよさそうな寝息と、規則的に上下する胸の動きで、確かに生きているのだということが分かる。
そして体の線の細さから見て、どうやら女であるらしいということも知れた。
そのことを意識した瞬間、俺の中の何かが疼いた。
彼女の頬に、そっと手を沿わす。
その瞬間、彼女の記憶らしき膨大な情報が、俺の中に流れ込んできた。
その情報から、俺は彼女が異世界の住人であることを知った。
俺は逡巡した。
異世界人であるなら、当然、元の世界に帰してやるべきである。
今すぐ召喚の儀を中止し、無効を宣言すればそれだけで、彼女は元の世界に戻れるはずだ。
だがそうすると、俺の使い魔召喚は失敗に終わる。それは、俺のプライドが許さない。
だが、在るべき場所へ彼女を帰さないというのも、人の道から外れている。
一度契約した者を、異世界に帰す方法なんて聞いたことが無い。
――それも、俺の貴族としての誇りが許さない。
しかし、そうしたプライドや誇りとは別に、彼女に対する純粋な興味もまた、俺の中にはあったのだ。
どうにも出来ずにじっと彼女を見ていると、小さく身じろぎして、彼女が目を開けた。
髪の色と同じ、漆黒の瞳。
囚われた、と思った。その瞬間、腹は括れた。
俺は彼女と契約しよう。
縛りつけてでもいい、彼女を俺の傍に。
プライドも誇りも、どうだってよくなっていた。
俺はただ、自分の欲望のままに、彼女を使い魔にしてしまったのだった。
こんな面倒臭そうなのに捕まってしまったメグの運命や如何に。