表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/65

25 曇りのち嵐

残酷描写あり。

「何やってんだよテメェ……」

「お、落ち着いてください、ご主人様」

 一度蹴っているのに、猶も殴りかかろうとするアレックス様を、必死で宥めます。


「本当に変わったよね、アレックス。昔はもっと冷めた奴じゃなかったかな?」

 ご主人様はスイアーブさんの言葉は無視して、私の方を向きました。


「――何もされてないだろうな」

「当たり前ですよ! ご主人様じゃないんですから!!」


 ――ちょっと危なかった気もしますけど。


「二人とも、下らないことで喧嘩しないでくださいね」

 私の言葉に、ご主人様の眉間の皺は一段と深くなりました。

「……『下らない』? お前のことだろ」

「私のことだから、下らないんですよ! 今はそれどころじゃないでしょう!」

 魔王退治のパーティがワケ分かんない理由で仲間割れとか、冗談はよしこちゃんなんですよ!!


「なんで君たちがケンカになるのかな?」

「お前のせいだろスイアーブ!!」

「だからやめて下さいってば!!」


 と、そこに、ソリアム君のよく通る声が。

「敵襲――――!!」

「夜陰に乗じてきやがったか。仕方ない、スイアーブ、一時休戦だ」



 他の三人とは少し離れているので、私も戦わなくてはいけないようです。

 あっという間に、私達を取り囲む闇の者の数は増えていました。式神を使いましょう。

 足下の落ち葉を拾って、魔力を注ぎ込みます。

「急急如律令!」

 大量の矢に変えて、闇に囚われた異形の魔物たちに降らせてやりました。


「!」

 一際強い闇の気を、森の奥から感じます!

 考えるより先に、駈け出していました。

「メグ! あまり離れるな!」

「大丈夫です!」


 ――木生火。木よ、火を生みだし、焼き尽くして!

 炎に包まれる黒い姿に、やったと思ってホッとした一瞬。


 黒い触手のようなものが、炎に包まれているはずの魔物から伸びてきました。


 隙を突かれ、そいつに腕を掴まれた刹那。

 脳裏に、膨大な情報が流れ込んできました。


 それは、ジャックさんが十二年前に見たという光景にも似た映像で。

 泣き叫ぶ人の顔、自ら武器を取り敵に突っ込んでいく人の姿、草むらに転がる腕、膝から下を失った身体、剣の突き立った亡骸、そして大量の血……。

 ――痛い、痛いよーっ!

 ――苦……し、い

 ――助ケテ!

 ――ユルサナイ

 ――コロシテヤル

 ――オマエラサエ、イナケレバ。


 たくさんの負の感情、様々な人の怨嗟の声。心にずしりと重みを感じます。

 その重さに耐えかねて、私は意識を手放していました。


「メグ!!」

 意識が途切れる寸前に、切羽詰まったご主人様の声が、聞こえた気がしました。




 眠りの中で、プツリと、何かが切れる音を聞きました。

 そして私の体は、縛られていた何物かから解放され――。

 私はまた、どこかが満たされない自分へと、戻ってしまったのです。


「冗談はよしこちゃん」だと……? 死語だよメグ!


次はアレックス視点です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ