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23 危険な夜のご主人様

アレックスが暴走しております。いろいろ溜めてるんですよきっと……。

 ご主人様たちの食糧の調達など、いろいろやってたら、あっという間に就寝時間です。家具も何もない家なので、床に寝袋を敷いて寝ます。

 夜の間も念のため交代で見張りをするので、自分の番が来るまで眠れるうちに眠っておかなければならないのです、が。


 あのう、ご主人様。……私はあなたの抱き枕ですか? もうがっちり抱きしめられてて動けません。ちょっと苦しいです。フレイムさんのおかげで暖房が効いてるので、ちょっと暑苦しくもあります。放して下さい。


「我慢しろ。危険な状況にいるんだってことを忘れるな」

 そりゃー私は役立たずですけど、ここまでしなくても。

「『危険』はそれだけじゃないだろ」

 それでも、大丈夫ですのに。式神を使えば――。

「いちいちそんなことしてたら消耗するだけだろ。先は長い。こうしてるのが一番良いんだ。分かったな」


 いや、あの、でも、隣でソリアム君が、

「アレックス様から離れろ痴女。恥知らずの売女め。お前は娼婦か」

と、うるさいです。

 そして私の心臓もさっきからバクバクうるさいです。そりゃそうですよ、こんだけ密着してたら、あーご主人様って意外と胸板厚いんだなーとか、気が付かないで良い事まで分かってしまいます!!


 ご主人様、どっちも聞こえてて無視ですか?

 この状況、いろんな意味でとってもストレスなんですけれども。

 …………眠れません。



 結局まんじりともしないまま、見張りの番が回ってきてしまいました。

 空は厚い雲に覆われていて、月も星も見えません。嫌な天気ですね。晩秋の夜なので空気も冷たいです。


 それで、あのう、ご主人様。……どうして私を膝の上に座らせるのですか?

「この方が暖かいだろ? それに、眠気も醒めるんじゃないか?」

 確かに暖かいですし、私は眠りたくても眠れなくなりますが!

 ですが、腰に手を回されて動けないのでは、何かあった時に困るんじゃ……。

「大丈夫だ。――守るから」


 薄明かりの中でも、ご主人様が優しい目で私を見ているらしいことは伝わってきます。

 それが、なんだかいたたまれなくなってきます。ご主人様は私が帰る方法を見つけるまでの居場所を与えてくれて、危険な時はいつも守ってくれています。それなのに、私は何も返せるものがありません。


 しゅんとしてしまったのをホームシックと捉えたのか、ご主人様は

「――恋しいか?」

と、訊きました。

 唐突だったので、思わず「へ?」と、間抜けな声を出していました。


「帰りたいか? 元の世界に」

 心なしか、ご主人様の視線の温度が下がった気がします。

「そう……ですね。帰りたいです。急にいなくなって、家族も友達も心配してるでしょうし」


 ただし、元の時間に帰れれば、問題は無いんですけどね。二か月ほど、私の時間は肉体的にも体感的にも進んでしまっていますが……。


「――そうか」

「でも、この世界のこと、もっと知りたいなって思う気持ちも、無くはないんです。それに、帰っちゃったら、ご主人様にも二度と会えなくなるって思ったら……」

「思ったら?」

「やっぱり、さみしいです」


 ああ、あと、せっかく出会えた他の人たちとも、きっともう一生お別れになるんですよね――なんて、感傷に浸っていたら。

「俺も、お前が居ないと――」

 ご主人様は無駄に良い声で、耳元で囁いて……するりと首筋に顔をうずめ――って、ちょっと、やめてください――!


「……あ……っ」

 吐息がかかってくすぐったいです! 身を捩って逃げようとしても放してもらえず、というよりむしろ拘束はきつくなって、

「――――っ!」

 なななんで吸いつくのですか!? あの、舐めるのもやめて――

「や、……やめ……っ、あっ」

 変なトコ触らないでください!! っていうかなんでいきなりこんなことに――!?


「お前が、そんな顔するから悪いんだ」

 え、私、どんな顔してました?

 ……ご主人様の方こそそんな顔しないでください、それ以上触られたら――。


 ダメダメダメダメダメですよ私! なんか変な気持ちになっちゃいますけど、このまま流されるのだけは絶対ダメです――!


 助けて雛ちゃーん!!!


「ぬぅわあ――――っ! UFO!!」

「……意味が分からん」

 うはーぁ……もう涙目ですよ私。


 私の叫びに反応したらしいソリアム君が、家の中から顔を見せたので、ようやくご主人様の攻勢は止まりました。


 あー……。びっくりしました……。

 ジャックさんが居なくなってからしばらく、夜の危険なご主人様は鳴りをひそめていたので、油断してました。


 そして私はソリアム君に、「アレックス様を誘惑するな馬鹿」とか「そもそもお前のような雌豚がアレックス様の傍にいるなどおこがましいにも程があるんだ。立場を弁えろ」と罵倒され、説教? される羽目になりました。


 あの、ソリアム君、被害者はこっちなんですけどね? ……まあいいか、助かりましたし。


『ジャックさんが居なくなってからしばらく、夜の危険なご主人様は鳴りをひそめていた』――閑話のあの件は無かったこと扱いですか!?


アレックスはメグが助けを呼べる状況でしか手を出さないあたり、かろうじてまだ理性が生きてる、のか?

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