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21 今さらなイベント発生

 殿下の滞在している部屋には、西日が差し込み始めていました。

 この世界でも、夕焼けは真っ赤です。殿下の髪と同じく、燃えるような赤――。


 カルロス殿下は、ソファに深く腰掛け、重々しい口調で言います。

「最近この国、特に王都で闇の者たちの出現が頻繁になっている。

 そして善良な市民たちの生命を脅かしている。これは、非常事態だ」


「それが、全部アンヤージのせいだって言うんですか?」

「そうだという意見もあれば、奴らの信仰する“魔王”の活動が活発になっているからだとも言われている。

 ――闇の者の中でも一際強い力を持つ異形の存在が先日確認されてな。我らはそれを、“魔王”であると断定した」


 その時ちょうど、授業を終えたらしいご主人様が部屋に入ってきました。おかえりなさいませー。

「良いところに来たな。アレックスも聞け。

 我がここへ視察に訪れたのは、お前らに関する噂の真偽を確認するためだけではない。

 この学校の生徒たちを選抜し、魔王征伐隊を結成するためだ」


「学生にやらせるんですか?」


「正規の魔法使いたちは、既に各地で自分の持ち場がある。

 国内外の情勢が安定しない今、どこかを削って魔王征伐に投入することは困難だ。

 ――まして、魔王なるものは得体が知れない」


 この国の事情には、何とも自転車操業の感がありますが。それってもしかして、……特攻隊扱い?


「仕方が無い。最初からみんな、覚悟の上で入学して来ている。危急の際には国の盾になる、と」


 そう言うご主人様の姿が、とても凛凛しく見えました。

 哀しい覚悟なのに、何故でしょう不覚にもちょっとときめきました。


 そういえばこの世界の魔法使いは、公務員みたいなものだったんでしたね。

 官僚であり、警察官であり、消防官であり。

 そして時には、自衛官でもあるのです。



「ところで、お前らに関する噂だが、――やはり白だな」

 え? やはりって……。

「我はもとより、自らの利益しか考えない輩は信用しない。

 そのような者どもが吹聴する噂に対しても然りだ。

 そもそも、アレックスが我の足を掬おうとするなら、もっと上手くやるだろうしな」


「当然でしょう」

 それ肯定していいんですか!? ご主人様!!

「ジャックに関しても、自ら辞めていったものを追う人的余裕はないし、暴れているという話も聞こえてこない分には放っておいて問題なかろう。

 だが、我は使い魔の出自に関しては疑いを解いてはおらんから、そのつもりでな」

 そのつもりって……どのつもりですか。

「大丈夫ですよ、殿下。彼女は私がしっかり捕まえておきますから」

 に、にこやかに妙な宣言しないでください、ご主人様……。




 数日後、殿下の口から直々に魔王征伐隊の結成が宣言され、選抜者が発表されました。

 そのメンバーには、アレックス様も入っています。

 ああこれ、もちろん私もついて行くんですよね……。憂鬱です。


 ところで。

「魔王って、どこに居るんですか?」

「分からない」

 即答されました。……大丈夫なんですか?

「とりあえず、闇の者たちの出現頻度が高い場所から、虱潰しで行くことになるだろう」

 ああ、……気が重いです。



 寮の一室に、征伐隊のメンバーが集められることになりました。顔合わせと打ち合わせをするそうです。

 居る必要があるのかは分かりませんが、私もご主人様に続いてその部屋に入りました。すると、

(メグしゃーん!!)

 大きな犬? が私に飛びかかってきました。


 悪意を感じなかったので咄嗟に逃げることが出来ず、私はその犬? に押し倒される格好になりました。

(メグしゃーん!)

 私の顔をペロペロ舐めるその犬? の声にはどこかで聞き覚えが……。ってあれ? もしかして。

「フォックスさん?」

(そうでしゅ! おおきくなったのでしゅ!)

 いつの間に!? 前見た時の三倍くらいになってますよ!


「わー、やめて~くすぐったいよ~」

 フォックスさんと戯れていると、突然、フォックスさんの体が真横へ吹っ飛んで行きました。

 何事かと思ってみれば、そこには肩をいからせたアレックス様がいました。


「人の女に手ェ出してんじゃねぇ! この犬風情が!!」

 ご主人様、この子は犬じゃありません。手を出すなと言いながらあなたが足を出してどうします。

 それに種族間差別発言はよした方が……。


「……ああ? ――『人の女』を、そう取るか……」

 なんで項垂れるのですか? アレックス様。

「あのな、あいつ……フォックスか。あれは両性具有なんだぞ」

 ……それが何か?


 私の腕を掴んで起きあがらせたご主人様は、呆れたような顔をしていました。

 そして、後ろから現れたスイアーブさんを睨みつけます。

「オイコラ、スイアーブ。てめえの使い魔くらいきっちり躾やがれ」


「仕方ないんだよ」

 ご主人様にガンつけられてもなんのその。スイアーブさんは私の手を取りながら、にっこり笑います。

「僕がメグに寄せている好意は、少なからずこの子にも伝わってしまうようだね。

 メグ、驚かせてごめんね」


 ご主人様はそんなスイアーブさんの手を叩き落としました。……痛そうです。

「主従揃って始末に負えんな。色ボケ野郎共めが」

「それを君に言われたくないなあ」


 えー、なんか火花散ってます!? 止める人いません。私には怖くて無理です。

 わーん、戻ってきてくださいジャックさーん!!


というわけで、魔王退治に行くことになってしまいました。

ご都合主義……。まあ誰もリアリティーなんて期待してないと思いますが。

設定もいろいろ詰めが甘いですが、気にせずサクサク進めてしまいます。


(魔王を倒すのは勇者じゃないのか? と思われるかもしれませんが、実は魔王というのは便宜上の呼称みたいなものなので、それもあまり気にせずに……)

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