20 王国の現状と目指すべき未来
前回の続きです。
「殿下は、この国をどんなふうにしたいですか?」
その問いに答えた殿下は、饒舌でした。
「この国を良くするためには、法の整備、インフラの整備に……他にもまだまだ出来ることがあるのだ――」
そして最後に、
「この国に暮らす人々の平和な生活を護りたいのだ」
と、仰っていました。
強い意志を秘めた目は、まっすぐに未来を見据えていました。
私、自分が疑われたからって、ちょっと意地悪なことを言い過ぎたかも知れません。
殿下は、ちゃんと信頼できる人たちが守ってくれますよ。
裏切る人以上に、この殿下を信じて守ろうとする人は多いんじゃないかと思いました。
王となる人間は生まれつき孤独かもしれませんが、それでも、殿下はひとりなんかには決してならない人です。
殿下には、自分を支えてくれている人たちの顔が、今はちゃんと見えていなくても。
この方が王となる運命のもとに生まれたことは、きっと必然だったんです。
「その責任感と正義感があれば大丈夫ですよ。
あなたのその心に、忠誠を誓い未来を託している人たちはいっぱいいますよ。多分、あなたが思ってるより、たくさん。
――と、出過ぎたことを申し上げました。馬鹿な使い魔の戯言だと思ってお聞き流しください」
「ふん、本当に生意気な使い魔だな」
殿下の私への視線が、少しだけ柔らかくなった気がしました。
*
それにしてもこの殿下、視察に来たと言ったくせに全然部屋から出ようとしません。
ずーっと書類とにらめっこです。
そのことをなるべく遠まわしに指摘してみると、
「アンヤージ関連の事件は我に一切が任されている。その報告にも目を通さねばならんのだ。
緊急の件も中にはあるのでな」
またアンヤージですか。
「アンヤージが魔王を崇拝する悪しき魔法使いの一族、というのは聞いたことがあるんですが、具体的にはどんな悪い事をするんですか?」
殺人、強盗、傷害、婦女暴行、窃盗、とかでしょうか? でもそれ、あんまり魔法は関係ない気もしますね。現代日本でも起きてることですし。
魔王の崇拝自体が悪いのでしょうか。でも、それって人の心の問題ですから、どうしようもない気もしますけど……。
――私は未だかつて、訓練でも会ったこと無いんですよね、アンヤージ。
「魔王の崇拝、そして、儀式と称してこの国土全体に怪しげな術を施そうとしている」
怪しげな術? 「儀式」という響きが既に怪しげですけどね。
「それが何を意味するか分からないから不気味なのだ。
だが最も忌むべきは、奴らが、我らがフェレスの神を信仰していないことにあろう」
フェレスの神……。確か歴史書にも出てきた気がしますが、それがこの国の唯一神でしたっけ。
「フェレスの神は、我が国の初代国王にして征服王と呼ばれしフェレス一世を守護した、我らが“父”だ。その“父”を信じない、あまつさえ魔王などというものを信ずる者たちは、国賊に値する」
うーん、あれですかね、日本で言えば戦前の国家神道的な……。政教分離がなってない、どころかこれは政治のための宗教、いや宗教のための政治の匂いがしますよ。
とはいえ、私は宗教に対する深い理解なんて持ち合わせていませんし、政治に関しても完全に専門外です。日本でもまだ選挙権すらないですし。……でも。
「何を信じようがその人の自由、で穏便に済まないものですかね……?」
異教徒、異民族同士が喧嘩せずにやっていくためには、各々の権利を認めるしかありません。それは、私が元居た世界を眺めてみても言えることでした。
「自由、か。そのようなものを認めて、この国の安寧が保てるか?
国内では闇の者たちが勢力を強め、国外では我が国を狙う者どもがその隙を窺っているという、この状況で」
「え? 今この国、そんなことになってるんですか?」
私は基本的に寮を含むこの学校の敷地からは出ませんし、出る時も魔物退治に森の中に出かけるくらいで、用が済んだらすぐに帰ってきてしまいます。
なので、外の人たちの暮らしとか、国内外の情勢なんかは、全く分かりません。
いつでも日本に帰る気満々な私は、もとより知るつもりも無かったですし。
でも、王子が目の前に現れちゃったし、これからは嫌でも耳に入ってきそうですね。
殿下「お前、アホだが人を見る目はあるようだな」
メグ(なんかこの方、ご主人様と似てますよね……)
それもそのはず、実は殿下とアレックスは親戚で、旧知の間柄という設定です。