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19 信じること 守ること

殿下のターン。

ばっさりカットしてもよかったんですが、メグが思いがけないことを喋ってるので切るに切れなくなりました。

 殿下の護衛を命じられたと言っても、授業は免除にはならないらしく、ご主人様は今日も学校へ。

 私は、殿下の部屋でご主人様の代わりに護衛、というほどのこともしてません。


 黙々と机に向かっていらっしゃる殿下、無言で直立不動の鎧の騎士さん、そして、部屋の隅で縮こまる挙動不審な私。……気まずいです。


 しかしずっと縮こまっているのも退屈なので、騎士さんの鎧を検分させてもらうことにしました。

「触ってもいいですか?」

「……」


 沈黙。それを肯定と受け取って、胴体部分をぺたぺたと触ってみます。あ、硬い。当たり前ですけど。金属なのは分かりますけど、何でしょう、鉄? 銅? 合金?

 この鎧のデザインの感じも、なんとなく中世西洋風なんですよね。

 魔法に対する抵抗性とかどうなってるんでしょうか。

 あ、腰に差してある剣、本物ですよね勿論。見せてもらいたいなー駄目かなー。


「そんなにジロジロ見てやるな。そいつが困っておるだろう」

 書類を捲る手を休めた殿下に、止められてしまいました。


 ダメですねえ私、すっかり夢中になっちゃってました。

「ごめんなさい」

 名残は尽きませんが、離れます。


「アレックスは、お前のどこが良いのだろうな」

 殿下の口調には、心底不思議だと思っているらしいことが滲み出ていました。


「よっぽど床上手とか――いや、それはないか」

 その通りですけど、何でしょうねぇこの屈辱感!


「ご主人様は、私のことを『使い魔として』大事にしてくれているんです!」

「そうは見えなかったがな」

 殿下は鼻白むと、

「だがお前らの間には、絶対的な繋がりと信頼関係を感じた。……それが少し、羨ましくもあるな」

 もしかしてこの方、ディオニス王(@ 走れメロス)ですか?


「殿下の周りって、そんなに信用できる人少ないんですか?」

 ストレートに訊き過ぎたと思いましたが、口に出してしまったものは戻せません。

 私の問いに、殿下は無表情のまま答えます。

「そうだな、何度殺されかけたか知らないぞ」


 私が元居た世界でも、「暗殺はよくあることだ」っていうのが、今でも中東のインテリジェンスの常識だと聞いたことがあります。

 王制を敷いているらしいこの国では、そんなことは言うまでも無いのでしょう。


「でも、生きてるじゃないですか。死にかける度に呼び戻してくれる人が傍に居たんじゃないですか」

「それは、我が王子だからだ。皆それぞれ、自分の立場や思惑が有って動いておる」

 そう言った殿下は、冷たい目をしていました。


 つまり、他人は信用しない――そういうことですか。


「……そう思いたければそう思っていらっしゃればいいんじゃないですかね」

「何?」

「みんながみんな、自分のためだけに動いてるわけじゃないでしょう、きっと。ああ、信用してくれない相手のために体を張らされるなんて、騎士さん達が可哀想ですね」

「――『可哀想』だと?」

 あ、怒らせてしまいましたね、って、当然ですけど。


「少なくとも私は、自分より大事だと思える相手じゃないと、守るために身体なんて張れません」


 こう言うと、冷たいと思われるかもしれません。

 でもね、私も、この世界に来るまでは、目の前に殺されそうな人がいれば、微力ながらも加勢出来るかな、って思ってたんです。完全に助けることは無理でも、何もせずに無視することなんてしない、って。


 だけどそう簡単には無理でした。それは、あの最初の実践訓練の時に思い知りました。

 だから私は、ご主人様がいつも身を挺して庇ってくれることが、嬉しいんです。お荷物になっても見捨てられなかったことが、嬉しかったんです。

 実践訓練に出るときは、今でも少し怖いです。それでも、私もご主人様の役に立ちたいって思うんです。


「殿下も自分だけが可愛いなら、今すぐ責任なんて放り出して、面倒は全部下の人に押し付けちゃえばいいじゃないですか」


 好きなだけ放蕩してた愚王は歴史上に結構いるでしょうからね。いくら王様が阿呆でも、倫理や人道に反した人でも、国のシステムがきちんと動いて、日々の平穏で豊かな暮らしさえ守られていれば、国民にとっては良い王様になるんですし。

 ――って、いくら私がこの国と関係ないからって、無責任な発言し過ぎですかね。でも、この頭の固そうなカルロス殿下が、私ごときの言葉で揺らぐとも思ってませんので、言いたい放題です。


「そんなことが出来るか。我は王太子なのだ。いずれこの国の未来を背負って立つのだぞ。――お前には良心という物が無いのか」

「その『良心』を、信じていないのは殿下じゃないんですか?」

 言葉に詰まる殿下。ああ、この人は、ディオニス王なんかじゃありませんでしたね。


「本当は分かってますよね」

 現にこの人は最初から、絶対的な絆や信頼関係の存在を疑ってはいないのですよね。


メグが言ってるのは極論だと思います。働かない王様は単なる税金泥棒ですよ。


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