2 使い魔って何ですか?
再び目覚めると、そこにはやっぱり金髪金眼の美青年がいました。
ただ、私がいたのは自宅のベッドでも石の台座の上でもなく、なんでか彼の腕の中でした。
て言うかこれは、いわゆるお姫様だっこというやつなのでは?
「……あの」
「目が覚めたか」
彼は、丁重に私を床に下ろしてくれました。
隣に立ってみると、彼はとっても背が高いです。多分、百九十センチ弱? それくらいはあります。
そして何より気になるのは、その珍妙な服装です。
えーっと、多分、中世西洋のお貴族様風でしょうか? 服飾のことはよく分かりませんが、コスプレかと思いましたよ。白いマントは、背中の部分に大きく幾何学模様が描かれております。
「行くぞ」
彼は私の手を引きます。
「どこへ? ……というか、ここはどこですか?」
私達が今いるのは、通路のような場所でした。
白い石の壁には、彼のマントのものと似た、幾何学模様が描かれていて、足下にはこげ茶色のじゅうたんが敷かれていました。
「それも含めて説明は後でする。とにかくついてこい」
私は素直について行くことにしました。
なんとなく彼の言うことには、従わなければいけない気がしたからです。
子供のように手を引かれる私は、おのぼりさんのようにキョロキョロしていました。
時たますれ違う人は、みんな彼と同じような格好をしていました。
しかも、会う人全員、タイプは違えど美青年です。彼もそうですが、みなさん肌が白くて比較的掘りの深い顔立ち。どう見ても、コーカソイドです。
連れてこられたのは八畳ほどの広さの部屋で、ここがどうやら彼の自室のようでした。
部屋の真ん中がカーテンで仕切ってあり、その両側にベッドと机が一つずつ。
どちらの机の上にも、分厚い本がびっしり並んでいます。
彼は誰かとこの部屋を共有しているようですが、部屋のすっきりした感じから見て、二人とも几帳面な性格らしいことが窺えます。
部屋の入り口付近にある扉は、洗面所でしょうか?
その扉の横を通り抜け、カーテンの向こう、ドアから遠い方のスペースに入ると、彼は私をベッドに座らせ、自分も隣に座りました。
「お前は、今日から俺の使い魔になった。それは分かるか?」
藪から棒、いえ寝耳に水でしょうか? 意味が分かりません。
困惑して、首をひねったり頬を抓ったりしている私に、アレックスと名乗る彼が説明してくれた事をまとめると、つまりはこういうことのようです。
ここはフェレス国、国立魔法学校の学生寮。
アレックスは魔法学校の生徒で、その授業の一環として使い魔召喚を行いました。
その結果、石の台座の上に私が現れ、契約をしました。あの早口の呪文は、どうやら契約の言葉だったようですね。
そもそも使い魔というのは、魔法使いの助手となり下僕となり、彼らを助ける存在……なのだそうです。使い魔を持つことが、一人前の魔法使いになるために、必要かつ重要なステップなのだとか。
何でしょう、理解不能な単語がたくさん出てきましたが。
何度頬を抓ってみても痛かったですし。
通路ですれ違った人、みんながエキストラなのだとしたら、ドッキリにしても手が込み過ぎていますし。
彼の話している言葉は日本語に聞こえるのに、どう見ても口の動きとは合っていませんし。
それに何よりこういう状況は、何度も本の中で読んでいますね。
要するに、つまるところ。
私は、異世界に来てしまったようです。
「使い魔って、異世界から呼び出されることがあるんですか?」
「聞いたことが無いな」
アレックスさんは私の腰に手を回しながら(何故?)、
「使い魔は通常この国の中から、召喚する者の魔力にふさわしい魔物が呼ばれるようになっている」
「じゃあ、何かの間違いじゃないでしょうか。私は普通の人間です。
おそらく、この世界とは異なる世界から来ました」
「それがどうした?」
え?
「帰りたいんですけど」
「勝手に帰ればいいだろう。使い魔は必要な時にこちらから呼び出すことが可能だからな。どこに居ようが関係ない」
「どうやって帰ればいいんですか?」
「それを俺に訊くな。知らないから」
何ですと――!? 呼び出しておいて、帰し方が分からないですって――!?
「帰り方が分からないなら、ここに居るしかないだろう」
彼は私の髪を撫でながら、耳元で囁きました。
「俺のことはアレックス様、もしくはご主人様と呼ぶように。――分かったな、メグ」
雛ちゃん、私、本当に異世界に来ちゃいましたよ。
……飛ばされないためにどうすればいいか、もっとちゃんと聞いておくべきでしたね。
自分から様付けで呼べって言うのもどうなんだろうと、書きながら思いました。
どうでもいいですが、アレックスの身長は190センチ弱なのに対して、メグは160センチ前後です。