閑話 作って遊ぼ?
当たり前のことなんですが、念のため断わらせてください。
この物語はフィクションです。実在する一切とは無関係です!
最初は完全にギャグだったのに、なんで後半こうなった……。
言うまでもないと思いますけど、感覚的に合わない予感がしたらさっさと逃げてくださいね。
エリーちゃんが居なくなってしまってから、ご主人様が留守の時間は退屈になってしまいました。
カマイタチ事件の時の、「一人で勝手に外に出るな」という命令も、未だ解除されていません。
ですから遊び相手は、式神しかいません。
私の式神は紙を媒体(あるいは核)として、魔力――「気」を込め、それを練り上げることでどんな物でも作ることが出来ます。
それは例えば生物でも、人間でも、作ることが出来るのです。
紙を取り出し、何を作ろうか考えて……思いつきました。『彼』を出してみましょう。
*
部屋に戻ると、不思議な生物が居た。
丸くて茶色の顔に、丸くて赤い鼻をした、マントの……おそらく男と思われる生物だ。
腹立たしいことに、俺のメグと気安く抱き合っている。俺は即座にそいつを敵と認定した。
二人の間に強引に割って入り、メグを敵から引き離す。ついでに一発、敵には蹴りを入れておく。
その瞬間、メグが悲鳴を上げた。
「あああ! 私の初恋の方になんてことを――!!」
――はあ!? これが!!?
蹴った瞬間、敵の正体がメグの出した「シキガミ」だと分かったので、さっさと片付けさせた。
しかしあれが初恋の相手とは、メグは一体どんな趣味をしてるんだ?
*
私の大好きな初恋の『彼』、アンパンのヒーローはご主人様のお気に召さなかったようです。
えーっと、じゃあ次は……あ、あの人はどうでしょうか。
*
扉を開けたその瞬間、俺は自分の目を疑った。
自分の部屋に麦わら帽の見知らぬ男が居て、しかも部屋の端から端へ腕を伸ばしていたのだ。
そいつもすぐにシキガミであると分かった。
俺は溜息を吐きながらメグに命じた。
「とっととしまえ」
*
麦わら海賊団のゴムゴムキャプテンさんも、ご主人様のお気に召さなかったようです。
次は誰を作りましょうか。スーパーを接頭語に持ってて、野菜の名前の、宇宙最強戦闘種族はどうでしょう。
あ、光の国から来たカラータイマー装備の宇宙人でも良いですね。
となると、昆虫顔のライダーさんや、五人セット売りの戦隊ヒーローさんたちも捨てがたい!
しばらくは毎日楽しめそうです!!
*
「どうした、アレックス。何か疲れてないか」
「ああ、実は最近、部屋に帰ると毎日違う男が居てな……」
「……は?」
「――あんな奴らより絶対俺の方が良い男だってのに、メグの奴……クソッ。
いくら俺が構ってやれないからと言ってよりにもよって――」
「…………何か知らんが、大変だな」
*
私、やっと気がつきました。どうやらご主人様は、私が出す式神が、男ばかりなのが気に入らないみたいなんです。
よーし、それじゃあ、ご主人様も気に入る、とびきり萌え萌えの女の子を作っちゃいますよ!!
目はぱっちりしてて、小顔で可愛くって、髪はピンク色とかどうでしょう。
スタイルもよくしてあげなくては! 私と違って胸も大きくて、腰もきゅっとくびれてて、お尻の形も良くて、手足が細くて……。
どんな衣装を着せましょうか。萌えといえばやっぱりメイド服ですかね。
でもウェイトレスさんなんかも可愛いですよね。制服といえば、婦人警官とかナース、キャビンアテンダントなんかも良いかも。
でもでも、やっぱりセーラー服かな。もういっそのことスクール水着とか。
いや、でもせっかくスタイル抜群なんだから、布地の少ないビキニとか……。
エロと露出のバランスを追求するなら、裸エプロンとか、男物のシャツ一枚で、ヤバそうなとこまで見えそうで見えない、とかそんなギリギリな感じとか――。
いろいろ悩んだ結果、セーラー服でいくことにしました。
機関銃も持たせたかったんですけど、細かくイメージできなかったんです……。
でもこのクオリティなら、ご主人様も萌えてくださること請け合いです!
*
部屋に戻ったら、今日もなんか居た。珍しいことに、今日のは女か。
「ご主人様ご主人様! 可愛いでしょう? 萌え萌えでしょ?」
なんか妙にはしゃいでるなあオイ。それが可愛いと思う俺も末期だが。
「力作です! これぞ萌えの結晶ですよ! 肌の質感もリアルさを追求しましたので、触っても良いですよ!!」
そう言われてもな……。
――『萌え』、か。
未だにキスしようとするたびに恥ずかしがるとことか、拒否しようとするくせに結局拒めないで頬を染めてるとことか、耳まで真っ赤になって潤んだ目で見上げてくるとことか――、メグのそういう姿の方が俺は『萌え』るんだが。
しかし、何故か期待を込めた目で見られている気がするので、おそるおそる触ってみる。
本物ではないと分かっていても、女に見えるものの体を触るのには躊躇いがあった。
だが、シキガミは無反応。直立不動のままだ。
肌の質感にリアルさを追求……ってこれ自分をサンプルにしたのか、感触がメグに似てる気がする。
まあ、メグのシキガミなんだから当然といえば当然かもしれないが。
なんてことを考えていたからかどうなのかは分からない。
突然、メグがびくりと体を震わせ、片手で口を押さえて、片腕で自分の体を抱きしめた。
俺の手がシキガミに触れる度、メグは顔を赤くして声を殺す。その反応の意味するところを察した瞬間、俺の中から躊躇いが消えた。
――これはなかなか、面白い玩具かもしれない。
*
自分で作っておきながら、やっぱりご主人様が他の女の子に触ってるとこなんて見ていたくないな、なんて考えちゃったせいだと思うんです。
気づいたら、式神と感覚が同調してしまっていました。
絶対反応しちゃいけない、ご主人様に気付かれちゃいけないと思ってたのに、ご主人様は目敏いです。あっという間に気付かれました。しかも意地が悪いことに、そこから触り方に遠慮が無くなったんです。普通は逆じゃないんですか!?
式神を消してしまえば良いんですが、そのためにもある程度は集中力が必要なんです。でもこの状況じゃ、とても集中なんて出来ません。
ううう、ご主人様、その笑い方は、ちょっと下品じゃないですか……。
やっとの思いで式神を消すと、ご主人様は「疲れただろう」と言って、私を抱きしめて魔力の補充をしてくれたのですが……。
あの、何でそんなに執拗に触るのですか?
魔力はもう十分貰ったので、いい加減放してください――!!
*
今、俺とメグの間には、厚くて高い壁がある。比喩じゃなく、本当に。
この壁は、メグが出したシキガミだ。ヌリカベというらしい。
メグは魔力の補充の後、俺を引き剥がし、即座にヌリカベを出した。
俺の気持ちには気づいていない癖に、こういう時だけは察しが良い。
当分の間、俺の恋の障害はシキガミであるようだ。
なんか色々すみません。
ご笑納いただければ幸いです。