15 犯人
私がご主人様に式神をつけるようになってから、数日は何事も無く過ぎていきました。
犯人が見つからなくても、このまま何も起こらないのならそれでいいか、と思った矢先。
その日、エリーちゃんは一人で散歩に出かけていて、私は部屋でご主人様の魔導書を眺めていました。
突然、スズメがカマイタチの魔力を察知しました。
スズメが感じた魔力の気配を追って、私は寮を出て校舎へ向かいました。
魔力の出所を追って、辿り着いた教室。
重い扉を開けて中に入ってみると、そこには。……そこには。
「ジャックさん?」
ターコイズブルーの瞳に底知れない闇を宿した、ジャックさんがいました。
「ウソ、でしょ?」
(…………)
エリーちゃんの沈黙が、何よりもこの状況を肯定していました。
私はいつか、ジャックさんと話した時のことを思い出していました。
「ジャックさんは、私を恐れたり、悪いものだと思ったりはしてませんよね。
初対面の時からずっと、普通に接しててくれました。……どうしてですか?」
「どうして、かあ。大した理由はないけど。強いて言うなら、僕が庶民の生まれだからかな?」
ん?
「この学校、ほとんどが貴族の子弟とか、名家の出身なんだよ。
魔法使いは国の中枢の、重要な役職に就くことが多いからね」
へー。ということはウチのご主人様も貴族様ですか。
「そうだよ、アレックスの実家は本当に名家だよ」
ああ、だからあんなにエラそうなんですねー。
「そんな中で、僕はちょっと肩身が狭かったんだよね。
いくら魔法使いの世界は実力主義だと言っても、身分の差はどうにもならない部分があるでしょ。
馬鹿にされて悔しかったことも、差別されて仲間に入れてもらえなかったことも、何度もあった」
どこへ行っても、人がやってることは同じですなー。
「だけどアレックスは、僕を友人として扱ってくれている。
本物の貴族っていうのは、平民庶民をも大切にすることを知ってるんだなって思ったよ」
へぇー。
私は、実践訓練での二人が時たま見せる、息の合った連携プレーを思い出していました。
「だから、そんな彼が大事にしている君を、恐れたりなんてしないし、悪いものだとも思わないよ」
「大事に、されてますかね?」
「されてるよ。君もいつか、分かる時が来る」
そう、言っていたのに。
その時のジャックさんと、今のジャックさんは全く雰囲気が違っていました。
「メグ! ――と、ジャック?」
後ろに、私を追って来たらしいスズメとご主人様の姿が。
ご主人様に聞かせてはいけない。
そう思うのに、私は否定してもらいたい一心で、ジャックさんに問いかけました。
「何かの間違いですよね? ジャックさん。あなたがカマイタチの犯人、のワケはありませんよね?」
背後で、ご主人様が息を呑んだのが分かりました。
「僕だよ。僕がやったんだ」
「でも、ジャックさんは水属性で」
「実は僕、水と風の二重の属性持ちなんだ」
「……二重?」
「聞いたことが無い」
と、ご主人様も言います。
すると、ジャックさんは鼻で笑って、
「全ての能力を持つ『光』が存在するのに、どうして二重に属性を持つ者は存在しないなんて言えるんだい?」
言われてみれば、たしかにそう、ですね。
「でも、どうしてこんなことを?」
ジャックさんは、静かに語りだしました。
というわけで、犯人はジャックさんでした。登場人物が少ないし、バレバレだったかと。名前でもネタバレしてるようなものですしね。切り裂きジャックとかブラックジャックとか(後者はちょっと違うか)。
本当はアレックスとの仲が良い所を、もっとちゃんと書けば良かったんですが、アレックスは隙あらばメグに構うので、同じ部屋にいてもジャックの存在が空気になってしまう……。
次回はジャックさんの過去話と事件の動機です。