14 カマイタチと式神
事件は、みんなで手分けして、闇の者たちの気配を探っていた時に起きました。
突然、腕にピリッとした感覚が走りました。
「痛っ」
見ると、切り傷が出来ていました。
「メグ!?」
心配して駆け付けてくださるご主人様――の顔にも、同じ切り傷が!
「ああっ! ご主人様の唯一の美点に傷があ!」
「唯一言うな!!」
ごめんなさい。つい本音が、いえ、失言でした。
「でもなんで? 何もしてないのに傷が」
ご主人様は私の腕の傷口を見ながら、ボソリと言いました。
「……おそらく、カマイタチだろう」
カマイタチ。ああ鎌鼬ね……って、え!?
「と言ってもこれは自然現象ではなく、魔法によるものだろうな。風属性の誰かの仕業だ。
――誰かが、『闇』に堕ちたんだ」
その時、突然また強い風が吹いて、森の木々たちにたくさんの切り傷が刻まれます。
私はご主人様が咄嗟に展開した風の盾のおかげで、これ以上傷を増やさずに済みました。
「……ふー。危うくお嫁に行けなくなるとこでした」
顔とかズタズタになったら、本当もう目も当てられませんからね!
「お前はそんなこと気にする必要ないだろう」
何!? 元から酷い顔ですって!? ムキー!!
「なんで怒ってるんだよ」
訓練が終わった後も、怪現象のことはずっと気にかかっていました。
ご主人様も、考え込んでいる様子です。
「鎌鼬……。誰の仕業なのでしょう?」
「まさかとは思うが、スイアーブか?」
スイアーブさんは風属性。だからどうしても容疑者になっちゃうんですよね。
「でも一体、何のために?」
「……」
ご主人様、険しい顔です。眉間にも切り傷が、と思ったら皺でした。
「スイアーブさんが、あんなことをするとは思えません」
あんな繊細で美味しいスイーツを作れる人が、悪い人のはずがありません!
私はあれからも何度かお菓子をご馳走になっているので、分かりますもの!
「俺だって、あいつがそこまでする奴とは思いたくない。
だが、あの時近くに居た風属性の魔法使いはあいつだけだ」
「何かの間違いですよ、きっと! 魔法が暴発したとか」
「俺はあれを攻撃と受け取った。明確な敵意と悪意を感じたぞ」
そんな……。それは確かにそうかもしれませんが。でも!
「なんかお前、やたらと奴の肩を持つよな。
――そんなにあいつがいいか? 餌付けされりゃあ簡単に尻尾振るのかよ」
む、何ですか、それは。意味は分からないけどムカつきました。
「私は尻尾なんて生えてませんし、蒙古斑があったのも昔の話です!
アレックス様こそ、どうしてスイアーブさんのことになると、そんなにムキになるんですか」
「それをお前が言うのか。そうか――分かってないんだもんな」
あからさまに呆れたような溜息。
「まあまあまあ!! 喧嘩しないの二人とも!」
ジャックさんが仲裁に入ります。それでその場はとりあえず収まりました。
が、この時私は密かに決意していたのです。必ず犯人を見つけ出す、と。
犯人を見つける、と決意したのは良いのですが……。
手掛かりが少なすぎます。風属性の魔法使いって結構多いらしいですし。
犯人は現場に戻る、とよく言うので、私も一度ご主人様のいない間にあの森に行ってみました。
でもやっぱり、何もありませんでした。
「う~ん……。エリーちゃんは、どう思います?」
(……何も言えぬな)
「そうですかー」
アレックス様は、あれから何度かカマイタチに遭遇しているようです。
偶に体に、避け損ねた痛々しい傷跡をつけて帰ってきます。
もしかしてカマイタチは、ご主人様を狙っているのでしょうか。そうだとしたら、……心配です。
でも、アレックス様に四六時中ついていたら、邪魔ですよねー。
それどころか、あんまり外をうろつくなと言われてしまいました。
「せめてご主人様の様子だけでも分かれば……」
それこそ盗聴器とか隠しカメラ的な。
と、そこで閃いたのですよ。
私の魔法は陰陽道をベースにしたものです。だったら出来るはずですよね。
「式神!」
使い魔が式神使うってどうよ? と思わなくもありません。
が、日本一有名な猫さんだって猫を飼っていらっしゃるので良いと思います。
ご主人様の机から、紙切れとペンをお借りします。
紙に漢字で「鳥」と書きます。本当は紙を鳥型にでも切ればいいのでしょうけれど、そんな器用なことは出来ません。漢字だって元は象形文字なんですから、絵を描くのと同じくらいの効果はあるはず、です。
その紙に魔力を流れこませる、と……。
手の中でポンと音を立てて、スズメが出現しました。成功です。
「アレックス様から目を離さないでくださいね」
窓を開けてやると、スズメは一直線にご主人様のいる教室へ飛んで行きました。
次回、あっけなく犯人が判明します。