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閑話 私とご主人様の日常

もともと、短編第二弾用に書いてたものだったので、妙に説明的な部分があります。

9話に続いてこんな話ですいません。

 一日二回。

 持病の薬の服用頻度ではありません。

 私とご主人様の……キス、の回数、です。


 私はご主人様から与えられる魔力だけで身体を維持しています。

 この魔力の受け渡しの方法が、なんでかキスになってしまったのです。

 最初の頃は手を握り合うだけだったのに。

 魔力だけで良いのに、唾液まで交換しちゃってどうするんですか……。


 朝と夜に魔力をもらうのですが、夜のご主人様はちょっとオーラが危険です。

 キスした勢いのままに押し倒されそうになったこと数回……。

 その度に私は脳内雛ちゃんのツッコミに救われてきました。


 この日も私は、トゲトゲしたマツもどきの枝を右手に握りしめて、ご主人様と対峙しました。


「アレックス様も年頃の男性ですから、そういう欲求があるのは分かります。

 学校も寮も男ばかり、街へ出ていく暇もないとなれば、女性との接点はありません。

 だから、少しくらい見た目が悪くても中身に救いようが無くても、やることやるだけならとりあえず生物学的に雌で、手近にあれば何でもいいか~と妥協してしまうのは分かります。


 でもぶっちゃけ、勿体無いですよ! 美形は美形同士、のほうがどう考えても絵面的に綺麗ですし、しっくりきます。どうせ誑かすなら、こうキラッキラの美少女とか、妖艶なオネエサンなんかが良いと思います! というか、ご主人様なら出来ます!!

 そうして下されば、私も安心して眠れますし、ご主人様だって幸せになれるじゃないですか!」


 ……と、言えば言うほど、なんかご主人様のご機嫌が下降線です。

 それはそれは見事な右肩下がりの曲線を描くようです。


「……ああー、なんでそういう発想になるんだ? 攻め方を間違えたか」

 サラサラの髪をくしゃくしゃと掻きながら、苛立たしげに呟くご主人様。


 なぜでしょう? 褒めてるつもりなんですけどね。ていうか攻め方って何のことですか。



     *



 学生さんが忙しいのは界を問わず共通なのか、ご主人様は授業に追われる毎日、私は寮の部屋で放置される毎日です。


 せっかく異世界に来たというのだから、探検したいです。

 寮の外には広大な庭が広がっています。植物採集もしたいし昆虫採集もしたいです。

 私の中の開拓者精神フロンティア・スピリッツがうずきます。うずうずしますよ~!


 でも、どんなに頼んでもご主人様は、なかなか寮の外へ出る許可をくれません。

 曰く、「危険だから」。

 むうう、でもその危険を乗り越えてこそ、未知の発見の喜びがあるというものですぞー!




 初めて会った日から思っていましたが、うちのご主人様は、ちょっとスキンシップ過剰だと思います。

 私はそれがずっと不思議で仕方無かったんです。


 だから、ある時訊いてみたんですよ、「なんでそんなに私にべたべたするのですか~」って。

 そしたら、ご主人様はちょっと考えて、シンプルに一言。


「『開拓者精神フロンティア・スピリッツ』だ」


 何を、どこを開拓するのですか、とはなんとなく訊けませんでした。

 私の本能が「危険回避! 危機回避!」と叫んでいましたので……。


 でも、よくよく考えてみて気付いたのです。

 私は、この世界の何もかもが珍しくて喜んでいましたが、そう言えばご主人様側からしてみれば私が珍しい生物になるんですよね。


 そうか、私に対する興味は珍獣に対するそれですね。

 観察してみたい実験してみたい解剖してみたい、そんな探究心の発露が、あの過剰なスキンシップだったわけですね~!

 そう思うと、私はなんだかアレックス様に仲間意識が湧きました。

 だって、目の前に宇宙人が現れたら私だってそう思います。

 この世界の生物の遺伝子を採取したいと思ったことだって、一度や二度ではありませんでしたから!!


 思わずニコニコしてしまった私に、ご主人様は、

「お前、絶対何か変なこと考えてるだろ……」

と、呆れたような声を出しました。


 いえいえ、何も変なことなんて考えていませんよ?


「だったら俺の言葉の意味、――解ってるんだよな?」


 あれ? まだ夕方なのに、夜のご主人様が降臨なさってしまわれまし、た?


 ご主人様は私の肩を掴んでにじり寄り、

「『乗り越えてこそ、未知の発見の喜びがある』……だっけ?

 ここを越えたら、新しい世界が見えるかもしれないぜ?」


 ――私も大概「要らんこと言い」ですが、ご主人様には揚げ足取リストの称号を捧げたいと思います。


 例によって脳内雛ちゃんに叱咤された私は、例の如く褒め殺しお説教モード発動です。

「ですからどうせ誑かすなら相手は選んでくださいと私は何度も申しあげて――」


 気勢を削がれたらしいご主人様は、

「もしかして、刺激に耐性がついてきているのか? いや、……」

などと、なにやらブツブツ呟いておられました。



 何がどうなってああいう流れになったのか、ご主人様との会話を反芻しながら、私は今も首を捻っています。


言葉は文脈と使い方次第だと思います。

……にしても、口説き文句にそれはどうなんだアレックス。


メグはうっかりすると将来、マッド・サイエンティストにでもなっていそうだなあ。

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