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最弱転生~知識だけが俺の剣~  作者: 生クリーム王子


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第5話「魔法とは、論理である」

 三日後、レンは薬草採取クエストに挑んでいた。

 森の入口で依頼書を広げ、指定された三種の薬草の特徴を確認する。ギルドの資料室で一日かけて調べた内容が、頭の中に整然と並んでいた。


・ヒール草 :葉が楕円形、縁に細毛。湿地付近に群生。

・マナリーフ:青みがかった葉脈。魔力を帯びた土壌に生育。

・赤根草  :根が赤橙色。岩場の日陰に単生。


 三種とも、生育環境が異なる。一箇所で全て採れるわけではない。効率的なルートを組むなら、湿地→魔力帯土壌→岩場の順が最短だ。レンは昨日のうちに、村人への聞き込みで地形を把握していた。

 歩き始めながら、レンは考えていた。

 マナリーフの説明が、引っかかっていた。

 魔力を帯びた土壌に生育する。

 植物が魔力のある場所を選んで育つということは、魔力は土壌中に物理的に存在する何かだということになる。気体か、液体か、あるいは電磁場に近いものか。地球の概念で当てはめるなら、地下水脈に近い挙動をしているのかもしれない。

 そしてもう一つ、気になっていることがあった。


 資料室で過ごした一日は、収穫が大きかった。

 ギルドの資料室は小さかったが、魔法に関する基礎文献が数冊あった。司書役の老人に「読んでいいか」と聞くと「好きにしろ」と言われたので、片っ端から読んだ。

 そこで理解したのは、この世界の魔法の基本構造だった。

 魔法は「魔力」を「詠唱」によって「形」に変換する技術だ。魔力が燃料で、詠唱が回路で、現象が出力。魔力量が低ければ出力も低い。だから魔力EのレンはFランクの火花すら出せないとされている。

 だがレンには、一つの疑問があった。

 詠唱の効率は、最適化されているのか。

 文献に載っている詠唱文は、どれも古語を使った長い呪文だった。「天と地の狭間に宿る炎の精よ、我が意志に応えて顕現せよ」といった類のものだ。これで火の玉一つを出す。

 地球の物理で言えば、蒸気機関でスマートフォンを動かそうとしているようなものではないか。

 エネルギーの変換効率が、著しく悪い可能性がある。


 湿地に着いた。

 ヒール草はすぐに見つかった。群生しているので採取は早い。三十本を丁寧に根元から切り、状態を確認しながら袋に入れていく。作業しながら、頭の中では魔法の思考実験が続いていた。

 もし詠唱の本質が「魔力に方向性を与える命令文」だとしたら、言語は関係ないはずだ。古語でも現代語でも、意味が伝わればいい。いや、それどころか――命令の内容を簡略化できれば、消費魔力を削減できるのではないか。

 少ない燃料で同じ出力を得る。それはエンジニアリングの発想だ。

 レンの手が止まった。

 試してみる価値がある。


 岩場で赤根草を採取し終えた昼過ぎ、レンは人気のない場所を選んで座った。

 まず現状確認。魔力は12。最低限の魔法実験をするにも足りるかどうかわからない。だが消費量を極限まで抑えた詠唱を設計すれば、何かが起きるかもしれない。

 文献にあった火魔法の詠唱を思い出す。三十二語からなる古語の呪文。レンはそれを分解した。主語、動詞、対象、規模、方向。構造を把握すると、冗長な修飾語が全体の六割を占めていた。

 削る。

 必要な意味要素だけを残す。「火、小、前方、出現」。この四概念があれば命令として成立するはずだ。

 レンは右手を前に出し、目を閉じた。

 意識を内側に向ける。魔力というものがどこにあるのか、今まで感じたことはなかった。だが注意を向けると、胸の奥に微かな熱があった。炭火のように、ほとんど消えかけた小さな熱。

 それが魔力だと直感した。

 火。小さく。前方に。出せ。

 命令は四語だった。古語ではなく、現代語で。感情ではなく、論理として。

 一秒間、何も起きなかった。

 二秒目に、レンの指先で空気が歪んだ。

 三秒目に――火花が、一粒だけ散った。


 レンはしばらく、自分の指先を見つめた。

 火花一粒。魔力Eの人間が出せる魔法としても、最底辺の現象だ。Fランク冒険者の子供でも、もっと大きな炎が出せるだろう。

 だが、レンの中で何かが弾けた。

 出た。

 文献には「魔力12では魔法の発動は不可能に近い」と書いてあった。冒険者ギルドの受付嬢も、魔法習得は現実的ではないと言った。それが今、一粒だが覆った。

 効率化によって、限界が動いた。

 これは、大きな意味を持つ。

 魔法の詠唱を論理的に最適化すれば、最低の魔力でも現象を起こせる可能性がある。つまりこれは「魔力量」という絶対的なパラメータに対する、初めての反証だった。

 レンは手のひらを握った。

 この世界の「常識」は、最適化されていない古い技術の上に成り立っているのかもしれない。剣術も、魔法も、戦術も。誰も疑わなかっただけで、改善の余地が山ほどある。

 俺には魔力がない。体力もない。戦闘力もない。

 だが、二十四年分の「疑う力」がある。

 夕暮れの岩場で、レンは静かに立ち上がった。薬草の入った袋を肩にかけ、村への道を歩き始める。

 頭の中では、すでに次の実験の設計が始まっていた。

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