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最弱転生~知識だけが俺の剣~  作者: 生クリーム王子


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第12話「王都の影、そして役割」

 カイが話し始めたのは、蝋燭を一本追加で灯してからだった。

 テーブルの上に地図を広げ、赤と黒の印を指でなぞりながら、低い声で話した。外に聞こえないよう、意識的に音量を落としていた。

「俺の名前はカイ・アルノードだ」

 レンは黙って聞いた。

「王都の第三騎士団に所属している。表向きは休暇中の一般騎士だが、実際は王直属の諜報部隊から派遣されている」

「諜報部隊」

「魔力脈の異常を追っている。三ヶ月前から各地で報告が上がり始めた。最初は小さな乱れだった。だが収束点と時期が一致しすぎている。自然現象ではない」

 レンは地図を見た。

 印の分布を改めて分析する。発生地点の間隔、時系列の順序、収束方向のベクトル。どれも偶然の産物ではない精度で並んでいる。

「人為的に引き起こされていると」

「そう考えている。ただ、方法がわからない。魔力脈は地下深くを走っている。通常の魔法でアクセスできる深度ではない」

「今日のヴェインイーターは」

「おそらく誘導されていた」とカイは言った。「あの魔物は本来、もっと深い森に生息する。人里近くには来ない。何かに引き寄せられるか、追い立てられなければ第三区画には現れない」

 レンは一つの仮説を立てた。

「魔力脈を人工的に操作している者がいる。その過程で魔力の流れが乱れ、乱れに引き寄せられた魔物が異常行動を取っている。結果として各地で魔物被害が増えている」

「正確だ」とカイは言った。目が細くなった。「俺が三週間かけて出した結論と同じだ。お前は話を聞いて三分で辿り着いた」

「情報が揃っていたからです。あなたが三週間かけて集めた情報があったから考えられた。私一人では無理でした」

 カイは少しの間、レンを見た。それから視線を地図に戻した。


「収束点が王都の真下だとすると」とレンは続けた。「目的は何だと思いますか」

「三つの可能性を考えている」とカイは言った。「一つ、王都の魔力基盤を破壊する。王都は地下魔力脈の上に建設されている。脈が崩壊すれば、城壁の結界が消える。無防備になる」

「二つ目は」

「王家に眠る封印の解除だ。王都の地下には、建国時に封じられた何かがあると文献にある。詳細は王家の機密だが、魔力脈を操作すれば封印に干渉できる可能性がある」

「三つ目」

「魔力脈そのものを兵器として使う。収束点で大量の魔力を一気に解放すれば、王都ごと消滅する規模の爆発が起きる可能性がある」

 沈黙があった。

 蝋燭の炎が、揺れた。

「三ヶ月後に収束する」とレンは言った。「今から動けば、間に合う可能性がある」

「そのために来た」とカイは言った。「俺には戦う力がある。だが魔力脈の操作を止める方法がわからない。魔法師ギルドに相談したが、門前払いだった。王都の魔法師たちは、魔力脈の異常を認めようとしない」

「既得権益の問題ですか」

「それもある。だが、もう一つの可能性がある」

 カイの声が、一段低くなった。

「魔法師ギルドの内部に、協力者がいる可能性だ」

 レンは昨日のセルディオを思い出した。査問官。王都魔法師ギルドの理論審査部門主任。レンの理論を封じた男。

「セルディオという人物を知っていますか」

 カイの目が、わずかに動いた。

「知っている。なぜその名前を」

「十日前に来ました。私の圧縮詠唱理論の公表を禁じました」

 カイはしばらく黙った。

「そうか」と静かに言った。「繋がっているかもしれない」


 話が一段落したのは、深夜を過ぎた頃だった。

 カイが立ち上がり、地図を畳んだ。

「協力を頼む。強制はしない。お前にとってこれは関係のない話だ」

 レンは少し考えた。

 関係のない話、という言葉が引っかかった。

 この世界に来て十一日が経つ。死んで、転生して、草むしりから始めて、魔法の理論を組み立てて、権威に封じられて、魔物を倒した。毎日何かが変わり、毎日何かを積み上げた。

 関係のない話、などというものが、果たして存在するのだろうか。

「一つ条件があります」とレンは言った。

「聞こう」

「情報を隠さないでください。私が判断するために必要な情報は、全て共有してほしい。私はあなたほど戦えない。その分、考える材料が多く必要です」

 カイは少しの間、レンを見た。

「わかった」

「それともう一つ」

「まだあるか」

「王都に行く前に、魔法師ギルドの審査を突破する方法を考えたい。封じられたままでは動きが制限される。圧縮詠唱理論を正式に認めさせることができれば、王都でも使える手が増えます」

 カイは眉を上げた。

「三ヶ月の審査期間を、どう突破する」

「審査を待つのではなく、審査が必要ない状況を作る方法があります」

「具体的には」

「まだ設計中です。三日ください」

 カイはしばらくレンを見てから、小さく笑った。

 今日初めて見る表情だった。作った笑いではなく、素に近い笑いだった。

「三日だな」

「はい」


 カイが部屋を出た後、レンは一人になった。

 窓の外を見た。二つの月が中天にある。青と橙が並んで、村を照らしていた。

 十二日前、この月を初めて見たとき、レンは一人で森の中にいた。何も持っていなかった。知識だけがあった。

 今は違う。

 カイがいる。ゴードンがいる。バルトがいる。アリアがいる。まだ深くは知らない。信用しきれているわけでもない。だが確実に、隣にいる人間が増えた。

 そしてこの世界には、三ヶ月後に何かが起きようとしている。

 俺がここにいる理由が、あるとしたら。

 その思考が、初めて頭に浮かんだ。

 転生に意味があるかどうかはわからない。神様も女神も現れなかった。チートも与えられなかった。ただ森に放り出されただけかもしれない。

 だが。

 もし意味があるとしたら。

 知識を持ったまま、この世界に来た意味があるとしたら。

 レンは研究ノートを開いた。新しいページに、一行だけ書いた。

 魔力脈操作の理論的解明と、阻止方法の設計。

 蝋燭の炎が、静かに揺れた。

 最弱の転生者が、初めて世界の問題と向き合った夜だった。

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