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運命の彼女を追って進学したのに、振った四人が全力で潰しに来てます  作者: 銀河猿


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第2話 一目惚れの代償

壇上での新入生代表挨拶。僕は、人生で一番の冷や汗を流しながら、なんとか最後まで言葉を紡ぎきった。

視界の端で、陽奈が、のどかが、杏が、美雪紀が、それぞれ異なる「圧」を放っていたが、僕はあえて正面一点を見つめて耐え抜いた。

挨拶を終え、席に戻った。

次に行われたのは、2年生、3年生代表による歓迎の辞。

まずは3年生代表。落ち着いた口調で、模範的な歓迎の辞が述べられる。体育館には拍手が響き、式は滞りなく進んでいった。

そして。

「続いて、2年生代表――烏月風花」

その名が呼ばれた瞬間、空気が変わった。

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。この日留高校は……」

演台に立ったのは、焦茶色の長い髪を上品に三つ編みにした女性だった。

僕の、運命の人。烏月風花さん。

凛とした立ち姿、透き通った声、そして知性に溢れた言葉。そのすべてが僕の胸を打つ。

「最後に…..自分の選んだ道を、誰よりも信じられる人間になってください」と締めた。

(間違いない……僕の運命は、やっぱりこの人だ)

一目惚れの直感は正しかった。

生徒会書記にして風紀委員長。成績トップで、バスケ部のエース。

そんな完璧な人が、あの日――37円しか持たず、メガネを壊して視界もろくに利かなかった僕を、助けてくれたのだ。

感動に震えていると、不意に背筋に鋭い悪寒が走った。

後ろから、えげつないほどの「何か」が僕を覆い尽くしている。入学初日からこの嫌な感じ……。

式が終わり、僕は混乱する頭を整理した。

(まずは風花さんを探しに行こう。あの日のお礼を――)

そう思い、席を立とうとした瞬間。

「見ぃ〜つけたっ。志貴〜、一緒のクラスになれて嬉しいなぁ〜!」

柔らかい重みが右腕に絡みついた。

濃い青髪のショートカットにカチューシャ。中学で密かに“青い猛犬”と呼ばれていた僕の幼馴染、熱海陽奈が、とびきりの笑顔で僕を見上げていた。

「ちょ、陽奈!? なんで……。名自見野なじみの高校にスポーツ推薦で行くって言ってただろ!」

「うん、言ってたよ〜。でも、辞めたの! 行くの」

「はあ!? お前、陸上部で期待されてたんだぞ、なんでそこまでして……」

そういえば、冬休みの間、陽奈の部屋の明かりが夜遅くまでついていた。あの必死な勉強は、高校生活のためじゃなく、この学校にねじ込むためだったのか。

「言ったら『来ないで』って言うでしょ? ……さっきだって、壇上の先輩をボーッとして見てたしね!」

笑っているのに、目だけが笑っていなかった。

絡められた腕に、ぐっと力がこもる。スポーツで鍛えられた彼女の力は意外と強い。入学式の時の寒気の正体はこれか。

「こわ……」と呟く僕に、さらなる追撃が来る。

「志貴くん、お久しぶりです……」

振り返ると、薄ピンク色のロール髪を揺らし、“料理の妖精”と呼ばれていた櫻井のどかが、照れたように立っていた。

「のどかまで、なんで……」

「志貴くん、知ってますか? ここには調理科があるんです。私、料理部の部長として夢を叶えたくて。……あと、もう一つの夢も」

モジモジしながら近づいてくるのどか。その豊かな胸が僕の左腕に触れそうになった瞬間、怒号が飛んだ。

「そこぉっ! 腕を絡めるな!」

現れたのは、赤みがかかった茶髪をポニーテールにした紅ヶ崎杏。風紀委員長として「閻魔女王」と恐れられた彼女が、顔を真っ赤にして僕に向かってくる。

「お前は入学早々、イチャイチャと……!」

「別にイチャイチャはしてないけど。……杏、お前こそなんで福岡なんだ? お前なら東京の進学校に余裕で行けただろ」

「べ、別にいいだろう! この高校に前から興味があったの! ついでにお前が問題を起こさないように見守って……見張ってやるんだからな!」

顔を赤くして怒鳴る彼女。怒りすぎてのぼせているのだろうか。

と、その死角から、鈴の音のような、けれど氷のように冷たい声が響いた。

「あら、皆様もこの学校に入学したのですか?」

白髪のちぢれ髪を肩で揺らし、図書室の白雪姫こと白石美雪姫が、一切の表情を消して立っていた。

「美雪姫も来たのか……」

「Ah, te voilà ? Un coureur de jupons.(あら、いたのですか? 女たらし)」

フランス語での暴言。周囲には聞こえないトーンで、僕にだけ罪悪感を植え付けてくる。だが、彼女はすぐに清楚な微笑みを浮かべ、周りの生徒に挨拶を始めた。

「私、国際科に興味がありまして。皆様、よろしくお願いしますね」

完璧な猫かぶりだ。

「じ、じゃあこれからもみんなよろしくな! 僕は用事があるからこの辺で……」

そっと腕を抜いて逃げようとすると、陽奈がさらに力を強めた。

「志貴、あんたあの先輩を探しに行くつもりでしょ?」

「ギクッ! ……い、いや別に?」

「はあ、あんたってほんと分かりやすいね。行かせないよ。あんたはこれからあたしと『入学おめでとうパーティ』に行くの!」

「ちなみに場所は?」

「あんたの部屋よ! はい、決定!」

「強引だな……」

(まあ、先輩探しは明日でもいいか。今はこいつらをなだめないと)

「わかったよ。でも家には何もないから、途中でお菓子とか買いに行こうぜ」

「イェーイ! さっすが志貴、楽しみだね!」

「あの、私も参加してもいいですか……?」とのどかが控えめに言い、

「もちろん私も参加するからな!」と杏が割り込む。

「皆様が参加するなら、私も参加させていただきます」と美雪姫が静かにトドメを刺した。

「なんであんたたちが来んのよ!」と陽奈が声を荒らげる。

のどかはビクッとし、杏はムッとなり、美雪姫はじっと僕を見つめる。

(やめて、その目怖すぎだから……)

のどかが泣きそうになっているのを見て、僕は陽奈を嗜めた。

「いいじゃないか。人数は多い方が楽しいし、陽奈もみんなと仲良くした方がいいぞ。そんなんじゃいつまでも僕から離れられないだろ?」

「はあ!? なんでそうなるのよ!」

「意地張ってないでさ。じゃあ、昇降口集合な!」

少し「悪役」を演じて強引に決めた。その直後、陽奈に思い切り足を蹴られた。なんでだよ、お前のためを思って言ったのに……。

「じゃあ、また後でな」

自分のクラス、2組の教室に入ろうとすると、なぜか全員が後ろをついてくる。

「ん? 陽奈以外は教室はこっちじゃないだろ?」

「私も志貴くんと同じクラスです」とのどか。

「私も2組だ」と杏。

「私も、こちらです」と美雪姫。

「え……?」

僕は立ち尽くした。入学式の席順は、首席の僕以外は「来た順」だったというのか。

「志貴は首席だから壇上に近かったけど、あたしたちは固まって並んでたんだよ」

嘘だろ。

嘘だろぉぉぉぉぉぉ!?

四六時中、この四人の監視下に置かれるというのか。

先輩に会いに行くタイミングなんて、一秒もなさそうだった。

(誰か……誰か助けてくれ……!)

僕の「運命論」は、入学初日にして早くも崩壊の危機を迎えていた。

直感は、裏切らない。

だが――

直感が多すぎると、人生は破滅するらしい。

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