あらすじ
田中隆志(三十五歳)は大手自動車メーカーの営業部長として部下五十人のリストラを断行した直後、自身も解雇の通告を受ける。終身雇用を信じて生きてきた人生が一瞬で崩れ去った。追い打ちをかけるように、七歳の娘・みゆきが難病に罹り、海外での治療に二千万円もの費用が必要と判明する。保険適用外の高額医療を前に、家計は破綻寸前。妻からは「あなたは人を数字にした。その報いよ」と突き放され、家族も崩壊の危機にあった。就職活動は百社以上不採用。孤立と絶望の中で、娘が小さな風鈴を揺らし「パパ、風が鳴いてるよ」と囁いた音だけが心に残る。
そんな折、ケニア人留学生ジョセフと出会い、「アフリカでは日本車が命を運ぶ」と教えられる。隆志は最後の賭けとして渡航を決意し、ナイロビへと飛んだ。赤土の風が吹く市場では活気と貧困が交錯し、現地パートナーのサミュエルとは文化の違いから衝突を繰り返す。さらに中古車市場は元同僚の黒田が不良車を偽装販売して牛耳っており、物流や許認可を握る有力者ムワンギ議員も黒田を支持していた。隆志は「品質で勝負」を掲げるが資金繰りは悪化。SNSで称賛されるも黒田のデマで炎上し、日本メディアも叩きに回る。コロナ禍で物流が停止し、娘の手術延期が決まり、妻との関係は決定的に冷え込む。さらに地元サッカークラブ〈ナイロビ・ライオンズ〉も資金難で解散寸前と聞き、地域の夢すら消えようとしていた。
黒田から「不良在庫を回せば凌げる」と誘惑される中、隆志は「利益より人」を選び全ロットを修理。工房で徹夜を重ね、一台の車を走らせた。その車で村の子供が病院へ運ばれ、命を救ったことをきっかけにサミュエルとの絆が戻り、現場を目撃したムワンギ議員も心を動かされる。「お前は風を変えた。私も帆を貸そう」と支援を約束した。これを契機に政府やNGOとの契約を得て、事業は年商三十億円規模に拡大。娘の手術も成功し、家族の絆は修復された。隆志は資金難に陥っていた〈ライオンズ〉のスポンサーとなり、会社カラーの赤と黒でユニフォームを刷新、スタジアムを笑顔で満たす。
それから五年。東アフリカ全体の中古車市場は数千億円規模。その一割を握った隆志の会社は、ついに年商五百億円に到達する。〈ライオンズ〉を正式に買収し「サクラモータースFC」として再生。かつての敵・黒田は失墜し、日本人記者も成功者として取材に訪れる。スタジアムで娘が風鈴を鳴らす音を耳にしながら、隆志は静かに微笑む。――「真の国際化とは、互いを尊重することだ」。




