Sugar☆love41
『芙美ちゃん、あのね』
いつみても、宝石のように美しい彼女は、にっこり笑った。
父や母が、昔から磨きあげてきた最高傑作の姉。
『わたし、好きなひとがいるの。お母様達には内緒よ?』
私は姉のいつにも増して可愛らしい表情を見詰めながら微笑んだ。
ああ、そうか。やっぱりあの御方も御姉様のものなんだ…。
姉は楽しそうに花つみを続ける。
『芙美ちゃん、後の事は頼んだわ』
『え?御姉様?』
私は首を傾げた。
芙美子は、萩野様に嫁ぐんでしょう?三条の時期当主は御姉様ですのに。
そう言うと、姉は困ったように微笑んだ。
『芙美ちゃん、家なんかに囚われちゃ駄目よ。貴女も自由に生きなさい。わたしが頼んでいるのはお父様やお母様のこと。多分わたしはもう二度と、お二人に会えることはないでしょうから』
私はあまりに吃驚して手に持った花を落としてしまった。
『…芙美子にも、もう会って下さらないのですか?』
姉はうつむいた。
『…ごめんなさいね、芙美ちゃん』
『ど、どこに行かれるのですか。御姉様、駄目です芙美子も連れていって…!』
姉はどんどん遠ざかっていく。
私は追いかけたいのに、何故か足が重くて動かない。
『御姉様っ…』
はっ、と眼が覚めた。
いつも、ここで夢が終わる。
厳密にいうと、夢ではなく遠い過去。
「…ふぅ」
軽い頭痛がする。
窓の外に目を向けると、空に星が輝いていた。
…そう、あの後。
三条の跡取りで当時18才の三条花奈子が、父の客人として来日していた伯爵家のイギリス人と駆け落ちした後の騒ぎは凄まじいものだった。
父はあまりのショックに倒れるし、姉に婿入りする予定だった御船家は侮辱されたと怒り、今後一切の関わりを絶つと言ってきた。
そんな最中、一人懸命に対処していた母は、かなり頑張っていたと思う。
そして取引先でもあり重要な関係の萩野家にまで縁を切られては困ると、当時15歳の私は正式に萩野時期当主と婚約した。
それで萩野家も三条の混乱を収めるのに手を貸し、何とか事態は収まったのだが。
三条には、跡取りとなる直系の子供がいなくなってしまったのだ。
もちろん、父の妾たちが生んだ子供も数人いた。
だが、元々気位の高い母がまさか妾の子を養子にするはずもなく。
姉は気が付いていたのか知らないが、その当時三条の事業は上手くいっていなかった。
しかも父は入院中。
母はさすがに焦った。
まぁ、今は事業は萩野の援助でなんとかなったのだが、跡取りがいないのは厳しい。
そして数年後、風の噂で花奈子が男女の双子を生んだと伝わってきた。
私もその頃、息子を授かったが、もう子供を産めない身体になってしまった。
息子はたった一人の萩野の直系なので、三条に養子に出すのは不可能。
母は当時相当悩んでいた。
そして…母は強行手段をとった。
イギリスの花奈子の子供…男子を、三条に差し出すようにと。
それで、今回の事は水に流してやると。
結局、花奈子達が死んでも志貴は拒否しているが。
「……生意気よ」
芙美子は爪を噛んだ。
花奈子が、御船の次男との婚姻を拒んでいたのは知っていた。
御姉様は、私に全部面倒事を押し付け自分だけ幸せになった。
だが、もっと吐き気がするのは、母だ。
3年前、雪姫が花奈子の遺骨を少しだけ持ってきた時。
母は怒り狂って雪姫を追い出すかと思いきや、涙を流して迎え入れた。
あまり外国人風の顔立ちでなかったからかも知れない。姉の面影を残す彼女を、母はいとおしそうに抱き締めた。
そして母はなんと、せめてもの償いにと伯爵家への金銭的援助を言い出したのだ。
雪姫は断ったが、母に言われ私も嫌々ながら説得した。
そうしたら、月岡高校の利益を上げる代わりに援助を下さいと言ってきた。
試しに好きにさせてみると、なんと入学希望者数が2割り増したのだ。
それで母や萩野家まで雪姫を賞賛した。
私は信じられ無かった。
だいたい私は、花奈子たちの事故死は三条が仕組んだのでは無いかと疑っていたぐらいなのに、雪姫に対する母の態度を見ると、絶対に違うと分かった。
まったく、忌々しい。
ようやく雪姫が3年になって卒業する年になったのに、今度は妹が出てきた。
たが、もう花奈子の子供たちが悠々と学園生活をおくっているのは許せない。
学園に、いられなくしてやる。