Sugar☆love35
「……あれ?…瑠璃花いない?」
ふと目を覚ました美妃は隣の布団で寝ているはずの瑠璃花をキョロキョロと探した。
(…?………うわ、月明かりすごい)
目を擦りながら窓に近づいて外を見る。
しばらく月に見とれていた美妃だが、ガシャッとゴミ箱を蹴ったような音が微かに聞こえて海岸を見下ろすと、瑠璃花のような人影が見えた。
一人でポツンと砂浜に座っている。
(る、瑠璃花?何してんの?)
どうしようかとオロオロする。
真夜中なので大声を出して瑠璃花を呼ぶことも出来ない。
そのままオロオロと瑠璃花を見ていると、瑠璃花に近付いてくる知らない数人の男を見つけてしまった。
(えっ?っちょっと)
迷わず部屋を飛び出した美妃は全力疾走で旅館を飛び出した。
「瑠璃花、瑠璃花っ?」
瑠璃花がいたはずの砂浜に辿り着くが、瑠璃花の姿を見付けられない。
「……どこ?」
月が雲に隠れてしまい、サッと周りが夜の闇に堕ちる。
と、昼の理桜を思い出した。
(「…やっぱ海の近くってやだね」)
……まさか。
でも、でも瑠璃花が。
海の音を頼りに砂浜を瑠璃花を呼びながら歩き回っていると、どうしてだろうか、自分が今どこにいるのか解らなくなってしまった。
寒さと海の香りだけがキツくなってくる。
クラクラとしてしゃがみこんでしまった美妃に、少し遠くから聞き慣れた理桜の声がした。
少し緊張したような鋭い声。
「ハルヒ!返事!」
「まっ待ってよ理桜」
眠そうな声もする。どうやら楓もいるらしい。
「……理桜さん?」
夏のはずだがガチガチするほど寒くて小さくしか応えられなかったが、理桜は気が付いたらしい。
理桜は楓の左手をしっかり握りながらザクザクと砂を踏んで美妃を抱き起こした。
「ハルヒ……帰るよ」
低く優しく響く理桜の声が頭にフワフワ伝わる。
素直に足を動かしたいのだが、何故か身体が鉛のようで言うことをきかない。
チッと舌打ちした理桜は美妃にまとわりついたモノたちを睨んだ。
よほど気に入られてしまったのか、これほど楓が近づいてきても美妃から離れようとしない。
「…ちょっと!何してんの楓さん!早くなんとかしてよ」
よく手は繋がれるが滅多に話しかけられたことのない理桜に怒鳴られて、楓はアワアワとしている。
「えっえぇ!?何を?」
……使えねえ!
プチッと何かがキレる音がした理桜はタンブラーに入れて持ってきていた“水”を楓にぶっかけた。
「っ冷たー!何すんだよ理桜君〜」
理桜はほっとして美妃を見た。
楓は気付いていないようだが今ので美妃に憑いていたモノがサッと散った。もう大丈夫。
「楓サン、ハルヒ背負ってくんない?気失っちゃってるから。俺も疲れてヤバいし」
「え、いいけど背負えるかなー」
「大丈ー夫、ハルヒは背高いけど軽いから。ほら急いで」
「うん……理桜君、手離してくれない?」
キュッと理桜に握られた左手を眺めながら楓は頼んだ。ちょっと美妃を背負いにくいかなーと思って。
理桜は舌打ちしながら顎で指示した。
「早く行くよ。左手の分は支えといてやるから」
そう言ってザクザク歩きだす理桜の端正な横顔を盗み見ながら楓はドキドキする心を抑えた。
(ハルヒちゃん以外のメンバーとかで理桜君が手繋いでくるの俺だけなんだよな〜。以外と愛されてるのかも?)
理桜は鳥肌がたってゾワゾワしながらちらっと楓を見た。何故か頬を染め俯いた楓。
(……キモ。紫紅さんも可哀想に。…しょうがないだろ手繋いどかないと寄ってくるんだから。旅館に入るまでの辛抱だ俺。頑張れ俺)
旅館に入った直後に目が覚めた美妃だが、余りに異様な雰囲気にこのまま寝ておこうかと考えた。