Sugar☆love27
「…どういう事ですか?つまり、アイドル部を無くせと?」
ふらつく体をなんとかベッドに沈め、雪姫は電話を握りしめた。
志貴が心配そうな顔で静かにこちらを見る。
『いや…そういうわけではないのよ。確かに、貴女と部員たちのおかげで、入学希望者は2割上がったわ』
柔らかで優しげな叔母の声。両親が無くなってからの三年間、日本での暮らしを助けてくれた。
そう、優しい人なのだ。そして優しいが故に、弱い。
『どうかしら。生徒会とは別の…そう、軽音部とか、個人で花木君とかいいんじゃない?』
「…すみません、叔母様。私は貴女の言う通り学校の為にアイドル部を作りました。でも、利益や名声の為にこれ以上動きたくはありません。それにそれが学校のためだと思います」
雪姫が言い終わると、問答無用で志貴が電話を取り上げた。
雪姫はそのまま目を閉じる。
『なっ…。それが雪姫さんの答えなの?』
電話口でもワナワナと怒りで震えているのがわかる。
志貴は眠ってしまった雪姫をチラリと見た。
「お電話変わりました。志貴です。…では、姉はそういっておりますので失礼いたします」
ピッと電話を切り、志貴は雪姫の髪を撫でた。
美しい姉の顔。
弟と妹を守ろうと、いつも懸命で、三年前のあの頃はその美貌に氷の様な冷たさが加えられていた。
姉の左手の薬指には、ターコイズの指輪がある。
あの人の指には、同じ意匠で雪姫が作らせたムーンストーンの指輪。
その鮮やかな青色は、
まるで、張りつめた細い糸のような姉を護るように。
(哀しい指輪だな…)
ムーンストーンは、恋人たちの石。
トルコ石は、旅の安全という意味もあるが、姉は多分、恋人の石として。その意味を、あの人は知らない。
志貴には、この状態を変える力があるモノには見えなかった。