Sugar☆Love21
……ガン!
瑠璃花は派手に転んだ。いや、正確には旧体育館倉庫の冷たいコンクリートの壁に勢いよく押され打ち付けられた。
…瑠璃花が困惑した顔で瞬きしながら上げると、相手は不気味なほど静かな表情で舌打ちした。
「…………真理…?」
瑠璃花は混乱と痛みでグワングワンする頭を押さえ、呆然と呟いた。
真理は、そんな瑠璃花にナイフをちらつかせ瑠璃花の頬に押し当てる。
そして舐めるように瑠璃花の顔を見詰めながら、真理はクスクス笑った。
「フフ……。…ねぇ瑠璃花ちゃん?私この時を待ってたから今スゴく嬉しいよ。……今まで散々馬鹿にされてきた私のキモチわかる?普通分からないよね、そんなお人形さんみたいに可愛くて、めちゃくちゃ頭も良くて、学校で一人だけ堂々と方言使えるくらい自分に自信もあってさぁ。いっつも人を見下してる瑠璃花ちゃんにはね?今だから教えてあげるけど、瑠璃花ちゃんの事を素直に友達って思ってる娘はいないよ?ふふ…」
恐怖で動けない瑠璃花に、真理は何かに憑りつかれたかのように笑いながら、スラスラと続けた。
「ねぇ聞いてんの?そのくせ白鳥君と付き合ってるんでしょう。…馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ。瑠璃花ちゃん」
真理の押し付けてきたナイフがカッと熱を発し、タラタラと生ぬるく水のような血が頬を伝った。
いよいよ固まって動けない瑠璃花に、真理は鬼のような形相で切れていない方の頬を張った。
信じられない痛みを感じたが、だがそれで少し瑠璃花は冷静になった。
頬を張られて倒れ、動けないフリをしながらスカートのポケットに入っているはずの携帯電話を気付かれないように探る。
真理は興奮しているのか我を失い楽しそうに笑い続けている。
だが。
「なにしてんの!?」
瑠璃花の動きに気づき、抱え込んでいた携帯を取り上げた。
そしてソレを部屋の隅に投げ捨てた真理は、連絡をとられたかもしれないという思いが巡ったのか、カタカタと笑いながら怯えて震えじめた。
「ほおら……やっぱり私を馬鹿にしてるんじゃない…いいわよ……。白鳥君は諦めてあげる……。ふふッ、でも瑠璃花ちゃんは許してあげないよ……」
そういうと真理は走り、急いで倉庫を出ていった。
瑠璃花はなんとか携帯まで這っていき、メールを送ってそのまま意識を失った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「瑠璃花、瑠璃花!大丈夫か!?」
怒ったように名を呼び続ける兄の声に、瑠璃花はうっすらと目を開けた。
目の前には見慣れた自室の天井と棗の顔が見えた。
「…あー私生きとったんや……」
「アホなこというなや!何があったんや瑠璃花。早く、説明せえ」
瑠璃花は目をつぶって考えた。
「ちょ、瑠璃花!?」
「考えてんねん……」
なにが、あったのか……、部活が終わった放課後、真理に倉庫近くに呼び出され、行ってみると、数人の(名前は知らなかった)男たちに囲まれ力ずくでその倉庫に連れていかれた。
鍵をかけられ、真理とふたりきりにさせられ……。そういえば真理はその人たちにお金を渡して礼を言っていた。
真理は、話が終わったらあなたたち瑠璃花ちゃんを好きにしていいから、とも言っていた。
今更ながら悪寒がして涙が零れた。
棗は眉間にシワを寄せて静かに訊ねた。
そして棗に一部始終を話終わった時、携帯が鳴った。
……真理からで、今から電車に飛び込むという内容の電話だった。