Sugar☆love17
「理桜さん…この線こえたらダメですよ」
なんとか理桜から離れることに成功した美妃は真剣な眼差しで床の木の線を指差した。
「…………なんで?」
いつもの無表情をすこし不機嫌そうに崩した理桜は、それでも一応立ち止まった。
なんで?…なんでって
「…なんでもです!多分私今から戦わないといけないので!」
「…………えー」
「……おい理桜」
「んー?あ……」
電池が切れたようにパタと倒れた。
美妃は無意識に支えてしまっていた。
うわっ…自分でルール破ってしまった……。ってなにこれ仮病?
「はっ離れて下さい」
「えー…無理ー……ってこらこら。待って玲生」
「帰る」
「待てって…玲生は、瑠璃花ちゃんがいきなり君を嫌いになって、逃げるように転校してったって思ってる?半分は合ってるけど」
獲物を捕まえたように美妃を抱きながら理桜は少し急いだ口調で言った。
「……帰る。俺、別になんの役でもいいから」
そういうと部屋を出ていってしまった玲生を、美妃は追いかけた。
「…待って下さい!」
「…何?ハルヒちゃん」
「……私、何も知りません。瑠璃花と玲生さんに昔何があったのかも知りません。でも…あの、本当に瑠璃花を恨んでいるんですか?本当に?」
「……意味わかんない。じゃあね」
「あ…………。…」
唇を噛みしめ、自分の無力さを実感する。
でも…。あの時、瑠璃花が言っていた事が、玲生と関係あるとすれば…。もしかしたら。
眉間にシワをよせて考え込む美妃に、理桜がツンツンと肩をつついてきた。
「マジで部室いかないとやばいかも。遅刻しちゃうよ」
「え……いやぁー!」
美妃は姉から貰った腕時計を見て真っ青になった。理桜の手を引き(急ごうとしないため)全速力で走る。
「ねー、バトル上手くいった?」
「はい?…あの、……多分私や第三者が介入していいことじゃ、無いような気がして……本人たちで、誤解を解かないとっ……はぁっ…着いた……」
以外と遠い。校舎が無駄に広いのも考えものだ。
「あっ来たきたー!…あれ?玲生はどしたん?」
棗の問いに、美妃は困った。どうしよ。
「お仕事じゃないっすか?最近また大きな発表があるらしくて、俺の家にもたくさん発注来てましたカラ」
無表情を少しも崩さない玲生に、美妃は初めて尊敬した。
ふーん。じゃーしゃーないなと、棗も納得している。
ふと、思った。なんで理桜はすぐに私の居場所がわかったのか…。話している内容まで?
「ハルヒちゃん」
ニコニコした翔太の声にはっと我にかえった。
「あっ…はい」
「ハルヒちゃん、王子ね。主人公でーす!」
「は?」
ちょっと待って、という隙も与えず、翔太はサクサク発表していく。
「棗は魔王ね。もちろんヒールだから」
「もちろんって……?まぁ、悪役カッコいいな!楽しみ」
「理桜、白雪姫と白雪姉×2と、お妃、どれがいい?」
全部女役じゃん。美妃は心のなかでツッコんだが、理桜はキラッと紫の瞳を光らせてキッパリと言った。
「じゃあ、白雪で!」
「はい了解」
……。いっか。
「うーんと、それじゃ僕が白雪姉1で…玲生は白雪姉2でいっかな。七人の娘は一般選考だし、ナレーションは香坂先生。後はお妃と狩人か」
しばらく考え込んでいた翔太だが、止めて、美妃に笑いかけた。
「じゃ、行こっかね」
「待って下さい!」
今までコソッと棗の後ろにいた楓が翔太の前に飛びだしてきた。
「楓……なぁに」
冷めた目で笑う翔太に負けじと楓は続けた。
「お願いします!僕も出演させてください」
いつになく真剣な楓は美妃にも頭を下げた。
「えー、どうしようか」
棗が少したしなめるように言った。
「しょーた。小姑みたいやで。ハルヒちゃん」
「はいっ!?」
びびる美妃に棗は破笑した。楓の肩をパンパンと叩く。
「マネージャー、決めたって」
美妃は驚いたが、迷わなかった。
「はい…もちろんお願いします。あ、翔太さん」
翔太は軽くため息をついた。
「はいはい。じゃ、狩人やっていーよ。よかったね」
楓はびっくりして最初戸惑っていたが歓喜に顔を赤く染めた。
「ありがとうございます!…………嬉しいです」
「……ほらハルヒちゃん行くよ。理桜はついてくんなよ。大丈夫だから」