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Sugar☆Love11

「…瑠璃花ー。知ってた?」


中庭のベンチで、パンをかじりながら独り言のように呟くと、瑠璃花は少し瞬きした。


「何を?雪姫さんが生徒会マネージャーで、イギリス留学するからアンタを後がまにっちゅーこと?あ、そもそも生徒会=アイドル部?うちの兄貴が副会長?それとも」


「あー、も、いいよ。はい、知らなかったの私だけです。常識知らないヒトでごめんなさい」


あはは。と薄く笑う美妃に、瑠璃花は固まった。昨日一日で人格変わっとるこの娘。


「ま…、いいやん過ぎたことは」


「よくないもん。知ってたら行かなかったもん」

プイッと顔をそむける美妃に瑠璃花はそうやな…、としか言えなかった。

美妃は高校入学するまではイギリスに兄と住んでいて、雪姫と入れ替わるような形の入学なので、学園の色々を知らないのも…まぁ分かる。


多分、雪姫や叔母である学園長はわざと美妃に教えなかったのだろう。

瑠璃花は軽くため息をつき、美妃の頬をつねった。


「いたっ…、にゃにすんの瑠璃花」


「いつまでもうじうじと。可愛ぃないなぁ」


大きなお世話だ。

口をへの字に曲げる美妃に、瑠璃花はそういえば、と美妃の膝の上に置いてある冊子をとった。


「なにこれ?…あー、なるほどな。今年はコレか。…初シゴト?」


「副会長の妹って情報早いねー…。なに、エスパー?」


「アンタみたいな超能力はないからな。学年一位も凡人やと思うで」


その学年首位も、美妃がわざと手を抜かずに本気を出せば、かっさらうのも簡単なことなのだろうが…。


情報が早いのは単に昨日翔太が棗と話していたから知っていただけ。


そうとは知らない美妃は自分だけ置いていかれている気がしてため息まじりにパンをかじる。


「生徒会が主催する歓迎パーティー…。新入生とか新任の先生とかを対象としてて舞台とかするんだって」


「普通の生徒は見られへんかったっけ」


「いや。入場券を買ってもらうことになるらしい。でも関係者はタダじゃないか?」


「うんそうそう…。ん?」


突然聞こえた声に、美妃と瑠璃花は同時に後ろを振り返る。

声の主をみて、美妃は驚いたがなんとか微笑む。

「あ、…えっと、白鳥君?だよね」


瑠璃花は訝しげに眉を潜めた。

白鳥玲生が、なぜこんなところに。


身構える瑠璃花に軽く会釈した玲生は美妃を見て、花開くような笑みを見せた。


「やだな。玲生でいいよ、ハルヒ」


「…人の彼氏、馴れ馴れしく名前でよばんといて?白鳥玲生君」


瑠璃花は男専用の魅惑の笑み(これをやられてオチなかった男はいない)を見せているが明らかな嫌悪感をむき出した。


微かな笑みを残した玲生は瑠璃花を自然に無視し、美妃に向き合った。


「翔太さんと棗さんが呼んでたよ。そのパーティーについてだって。生徒会室で」


瑠璃花の険しい雰囲気に全く気付かなかった美妃は慌てて立ち上がった。

「うっ…一応台本は作ったんだけど…。ごめん瑠璃花、行ってくるね」


「あぁ…気ぃつけーや。パン、教室もってっとくから貸し」


瑠璃花に食べかけのパンを手渡した美妃は全速力で走った。

見えなくなるのを確認してから、玲生はストンと瑠璃花の隣に腰を下ろした。


「頑張るね、ハルヒ。嫌がっていたからすぐにやめると思ったのに。あーあ」


瑠璃花はやっとの事で嘲るような笑声をあげた。

「ははっ。ホンマにいつまでたっても馬鹿やなぁアンタ。…なめんなや?ハルヒ。あの娘はアンタに負けるような女やない。アホな事はするだけ無駄やで」


「…ふーん?強気だな。お前の方はどうなの?瑠璃花サン」


瞳を細める玲生に瑠璃花は軽く首を傾げ微笑んだ、が。身体が細かく震える。恐い。

ダメだ。


「…は?何が。…ごめんなー、意味わからん」


言いながらベンチから立ち上がり、教室に戻ろうとした瑠璃花の腕を、玲生が掴んで引っ張った。

「…なっ。やめっ!」


必死に抵抗する瑠璃花をベンチに押し倒した玲生は冷たく笑った。


「馬鹿なのはそっちじゃん?瑠璃花サン。わざわざこんな人気ひとけのないとこで俺と二人きりなんてさ」


瑠璃花は自分の身体の小ささと軽さを恨んだ。


必死でもがくが、玲生はビクともしない。


そして、声を出そうとした瑠璃花の唇を、玲生は自分の唇でふさいできた。


(…!…や、助けて!)


と、おぼろげになる意識のなか突然、玲生の重さが無くなった。

チッと舌打ちし、校舎の方に歩いていく足音を感じ、なんとか瑠璃花は身を起こした。


「…大丈夫?東条さん」

差し出されたハンカチを無意識に受け取り、呆然とそれを見詰める。

…私泣いてるやん。


「…ありがと」


これも無意識に小さく呟くと、ポンと頭を叩かれた。


びっくりして顔を上げる。と、ハンカチをくれた人を自分が認識してなかったことに気付いた。


「あ、なんや理桜君やん…。…ごめんな」


「……いや。俺の姿みて、すぐ逃げてったよ。………別に、君がそんな責任を感じる必要はない」


心を読まれた気がして、思わず息をのむ。


「そんな…わかっとるし」


でも、押し倒されて、少し諦めている自分がいた。自分が、抵抗しなかったら誰も傷つかないのだろうかと、考えていた。


自分が恐い。


ギュッとハンカチを握りしめる瑠璃花を珍しげに見た理桜は無言でまた何処かへ行こうとしたが、瑠璃花に呼び止められ、振り返った。


「…あの、な。私、今回無理かも、しれん…。だから、お願い…ハルヒを、守って、あいつから…」



「うん。フツーにそのつもり」



ひらひらと右手を振り、軽く笑う理桜に、瑠璃花は安心して苦笑した。


「不安やなぁ」



「…。…おかしくない」


「…でも、ありがとな。…私も頑張る。私のせいじゃない…とは、やっぱ思えへんからな…」


小さく泣き笑いを浮かべ、微笑む瑠璃花に頷き、理桜は歩き出した。



「…。…さて…」



瑠璃花も立ち上がった。



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