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6話「推しを救えてよかった! でも待って、推しとの距離が近すぎるんだけど!?」



――エアネスト視点――






暖かな日差しのふりそそぐ中庭を、幼い僕が駆けている。


幼い僕は銀の髪に紫の目の少年を見つけた。


彼の姿を視界に入れた瞬間、心臓がドキドキと音を立てた。


幼い僕は少年の元まで全力で走り、彼の胸に飛び込んだ。


「ヴォルフリック兄様、大〜〜好き!」


僕がそう言って笑いかけると、

「俺もエアネストが好きだよ」と言って、

 彼は幼い僕の背に腕を回した。


幸せな瞬間だった。





◇◇◇◇◇◇



ああそうか……僕は夢を見ているのか。


幼い頃のエアネストと、ヴォルフリックって仲が良かったんだな。


場面が変わってそこは薄暗い地下室。


鉄格子の中に黒髪の男が捕らえられている。


民衆が地下室に押し入り、「呪われし悪魔の子を殺せーー!」と叫んでいた。


駄目……!


ヴォルフリックを殺さないで!


彼は僕の推し……ううん、大好きなお兄様なのだから……!




◇◇◇◇◇





「兄様……!

 ヴォルフリック兄様……!

 そこにいては駄目……!

 逃げて……!

 うわぁ……っ!!」


自分の叫び声で飛び起きた。


ゲームの世界でヴォルフリックが、民衆に捕まる夢を見た。


「……夢か」


僕はほっと息を吐く。


心臓に手を当てるとまだ、ドキドキしていた。


天蓋付きベッドのある宮殿のような豪華な部屋が視界に入る。


でも家具には見覚えがあった。


ここはエアネストの部屋だ。


あれは夢じゃなかったんだ!


僕は昨日目覚めた時ゲームの世界に転生して、超絶美少年のエアネストになっていることに気づいた。


一推しキャラのヴォルフリックの幸せの為に、彼とソフィアのカップルを押そうとしたけど、ソフィアは隣国の王子と結婚してて……。


それで、僕一人でもヴォルフリック兄様を助けようとして、彼が閉じ込められてる地下牢に行って……それから……。


兄様と逃げる前に民衆が地下に来てしまったから、僕の光の魔力を全部兄様に与えたんだ。


あのあと僕は気を失ってしまったけど、兄様は無事に逃げられたかな?


「ん……?」


人の温もりを感じ、自分の寝ているベッドの上をよく見る。


「ふぇっ……?」


僕の隣に人の姿があった。


「ヴォルフリック兄様……!?」


僕の隣で寝ていたのはヴォルフリック兄様だった。


「そうだ! 兄様の髪の色……!」


カーテンの隙間から朝日がさしていた。


朝日に照らされたヴォルフリック兄様の髪は、銀色に光っていた。


兄様が目を閉じているから、彼の瞳の色はわからない。


でも僕の部屋にいるって事は、危機を脱出できたみたい。


「良かった……!

 兄様を助けられたんだ……!」


僕の口から安堵の息が漏れた。


銀髪に戻った兄様は、誰かに迫害されることはもうないだろう。


兄様が闇落ちするルートを回避出来た。


「ヴォルフリック兄様の顔……よく見るととても綺麗……」


兄様の顔を間近でじっくりと観察する。


彼はとても彫りの深い顔立ちをしていた。


長いまつ毛、形のよい高い鼻、染み一つない白い肌……神様に愛されて造形されたと言っても過言ではない顔の作り。


どうしよう……推しが美形過ぎる!


「ん、エアネスト……?」

 

その時、ヴォルフリック兄様が目を覚ました。


「兄様、おはようございます」


僕の存在に気づいたヴォルフリック兄様の目が、大きく見開かれた。


彼の瞳はアメジストのような美しい紫色だった。


兄様の髪だけでなく、瞳の色も元に戻ってたんだ。良かった。


あれ? いま兄様が僕の名を呼んだ?


兄様と牢で会った時、彼の態度は冷たかった。


だから名前を呼ばれただけでもすごく嬉しい。


「そなたの声を聞けて安堵している。

 中々目を覚まさないから不安だったのだ」


兄様の「そなた」呼びが聞けるとは思わなかった。


「貴様」とか「お前」とかじゃないから、兄様に嫌われてないよね。


「本当に……そなたは無茶をする」


ヴォルフリック兄様は僕の髪を撫でる。


なんかくすぐったいな。


そのあと、兄様に抱きしめられた。


兄様の胸板厚いな。


腕も太くてしっかりしてる。


推しに抱きしめられるのって……凄く照れくさい。


僕の心臓はドキドキと音を立てていた。


「あの……兄様?」


「もう、あんな無茶はしないでくれ」


そう言ったヴォルフリック兄様の声はとても優しかった。


兄様は僕を心配してくれたみたいだ。


牢屋で会った時の兄様の声はとても冷たかったから、この変化は嬉しいな。


「あの……僕、気を失ってしまって、あのあとどうなったんですか?」


「そうか、そなたは知らぬのだな。実はあのあと……」


ヴォルフリック兄様の話を纏めると、僕とキ、キスしたことで兄様の髪の色は銀色に、瞳の色は紫に戻ったらしい。


あのあと牢屋に民衆が押し寄せて来たけど、みんな兄様の髪と瞳の色を見て態度を豹変させた。


「精霊の神子様」と言って、皆で兄様を拝んだらしい。


そのあと、兄様が「雨よ降れ」と言ったら偶然雨が降ってきて、民衆は落ち着いたようだ。


僕の着替えとかタオルとかは、昔兄様に仕えていた執事のアデリーノが用意してくれたらしい。


アデリーノが、兄様の顔を知らない若い兵士や使用人に、兄様が第三王子ヴォルフリックであることを伝えてくれたみたい。


だから十三年振りでも、兄様は堂々と城の中を歩くことが出来た。


それから僕の着替えとか、治療は兄様がしてくれたみたい。


そう言えば僕の手や足に出来た擦り傷が治ってる。


僕が昨日着ていたのとは別のパジャマを着てるのは、兄様が着替えさせてくれたからなんだ。


「一時はそなたの体が冷え切って大変だったのだぞ」


「ごめんなさい、心配かけて」


兄様は僕の事を心配して着替えさせてくれたんだ。


今は裸を見られて恥ずかしいという気持ちは一旦置いておこう。


兄様は銀髪紫眼に戻ったことで、上位の回復魔法が使えるようになったみたい。


銀髪紫眼だと回復魔法が使えて、黒髪黒眼だと闇魔法は使えるけど回復魔法は使えないみたい。


ゲームでもそうだったけど、属性によって使える魔法は違ってくるからね。


そう考えると、どっちの姿でも使える体を清潔に保つ魔法って便利すぎない?


そこはもう制作陣がファンサービスの為に用意した特殊呪文だと思って、深く突っ込まないようにしよう。


「私の為に魔力を失うなど、そなたはどうかしてる」


ヴォルフリック兄様が僕の頬を撫でた。


綺麗な顔で至近距離で見つめられると、心臓がバクバクしてしまう。


兄様の形の良い唇に視線が向いてしまう。


昨日、この唇と僕の唇が重なってたんだよね?


あれは魔力譲渡の為で、人工呼吸みたいなもので、人助けで、深い意味は……!


駄目だ! 兄様と視線を合わせているとおかしくなりそうだ!


僕は兄様から視線を逸らした。


「ごめんなさい。

 でも僕はヴォルフリック兄様をどうしても助けたかったのです」


推しが闇落ちして、死亡するエンドなんて見たくないよ。


「その為にそなたは魔力を失った。

 魔力だけでなく金色の髪と深い青い瞳も失ってしまった」


兄様が悲しそうな目で、僕の髪を撫でた。


そうか今の僕って金髪碧眼じゃないんだ。


ゲームのソフィアは、ヴォルフリックに魔力を譲渡したあと、濃い茶色の髪と灰色の瞳になっていた。


今の僕の髪と瞳の色って何色なんだろう?


鏡で確認してないからわからないや。


「この色では変ですか?」


「いや、おかしくはない。

 私は好きだ」


推しの「好きだ」が尊い!


「ならいいです。

 兄様が好きだと言ってくれるなら、僕は気にしません」


他の誰になんと言われようと、兄様が気に入ってくれているなら、それで十分だ。


兄様を心配させないようにニコッと笑ってみせる。


「エアネストは私の髪の色は好きか?」


「もちろん大好きです。

 兄様の髪の色が黒でも銀でも、変わらずに大好きです」


前世のSNSやイラスト投稿サイトでは、黒髪のヴォルフリック派と、銀髪のヴォルフリック派に別れていた。


僕はどっちのヴォルフリックも大好きで、美麗イラストをスクショしてコレクションしていた。


推しの両方の姿を生で見れてしまった。


眼福過ぎる。


「そうか……。

 なら私が黒髪になっても嫌わないな」


「えっ……?」


それはどういう意味……?


「エアネスト、そなたに魔力を返そう」


ヴォルフリック兄様が僕の顎に手を添える。


兄様に顎を上げられた次の瞬間、兄様の唇と僕の唇が重なっていた。




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