47話「レベル上げとアイテム回収。ゲームの知識フル活用」
回復の泉に向かう途中で遭遇したモンスターは全逃げで回避……という訳にはいかず、兄様が倒してくれた。
兄様が魔物を倒しても、僕には経験値が入らなかった。
どうやらこの世界はゲームとは違い、パーティで経験値が分配されるシステムではないらしい。
自分が倒したモンスターの経験値しか入らないようだ。
となると兄様が魔物を倒している間、自分は全防御して経験値を稼ぐという戦法は使えない。
当初の予定通り光魔法でモンスターを倒して、MPが切れたら泉で回復して、また光魔法で敵を倒して……これを繰り返すしかないな。
最初は少し苦労するかもしれない。
でもレベルが上がれば使える呪文も増えるし、呪文の威力も上がる。遭遇するモンスター次第では割とさくさくレベルが上げられるかも知れない。
「兄様、着きましたよ。
ここが回復の泉です。
近くの小屋で仮眠もとれます。
ここにはモンスターも入ってこれませんし、
しばらくはここを拠点にレベルを上げましょう」
そこは魔王のいる島には似つかわしくない、清浄な波動が保たれている場所だった。
ゲームと同じ小さな泉があり、その近くにこれまた小さな小屋があった。
小屋にはベットが一つと、調理器具やかまどもあったはず。
数日なら余裕で過ごせそうだ。
「魔王のいる島になぜこのような澄んだ空気の場所があるのだ?
湧き出ている泉の水も澄んでいる。
あの小屋は誰がなんの目的で建てたのだ?
そして、そなたはなぜこの場所のことにそんなに詳しいのだ?
そなたはここに来るのが初めてのはずだ」
兄様の疑問はごもっとも。
魔王のいる島にこういう回復スポットがあるのは、開発側からプレーヤーへのサービスとしか言いようがない。
「それは……その……。
ここは……か、神様が……魔王を討伐に来た勇者の為に用意してくれた場所なんじゃないかと……」
ゲーム開発者=この世界の神……と言っても過言ではないはず!
「あと、この島のことは以前夢で見たんです。
だから僕、この島の宝箱の位置も、モンスターの弱点も、魔王城までの道も全部知ってます。
なんなら魔王城内のトラップも宝箱の位置も全て把握してます」
前世で何回もプレイしたゲームだ。
魔王城の攻略情報は、しっかり頭に入っている。
前世記憶なんてあやふやなもの、人様から見たら夢みたいなもんだよね?
だから、嘘は言ってないよね?
「そうだったのか!
やはりエアネストは凄いな!
精霊だけでなく、神からも愛された特別な存在だったのだな!」
兄様は僕の肩を掴むと、キラキラした目で僕を見つめてきた。
彼の視線が痛いくらい眩しい。
兄様、ごめんなさい。
いつか、僕が転生者だってことを彼に伝えたいな。
兄様は僕の言ったこと、信じてくれるかな?
◇◇◇◇◇◇
「光の矢!」
僕が呪文を唱えると、僕の手の先から無数の光の矢が放たれ、敵の体を貫いていった。
兄様が僕が仕留め損ねたモンスターを、バスタードソードで斬っていく。
一つ気がついた事がある。
どうやらモンスターを仕留めたのが自分でなくても、モンスターにダメージを与えるなどして討伐に貢献していれば、貢献度に応じて経験値が入るようだ。
それにしても……兄様が剣を振るう姿はいつ見てもかっこいいなぁ〜〜。
剣を振る度に飛び散る汗、風になびく銀色の髪、キリッとした目元、鍛えられた筋肉、モンスターの攻撃を華麗に避ける動き……どこをとってもパーフェクトだ!
できるなら安全圏から彼の勇姿をずっと眺めていたい!
……って、駄目だろ!
兄様は僕のレベル上げに付き合ってくれてるのに……!
その僕がモンスター退治に集中してないなんて……!
もっと真剣に魔物を退治しよう!
でもその前に……。
「兄様、僕先程の攻撃でMPが切れたので回復の泉の水を飲んできます」
レベルが低いうちはMP切れを起こしやすいのが、この作戦の難点だ。
「わかった。
それなら私も行こう」
「兄様もMPが切れたのですか?」
おかしいな、彼は殆ど剣で攻撃していたはずだけど……?
「いや、そなたのことが心配だがらついていく」
ここに来てから兄様は、片時も僕の傍を離れようとしない。
魔王城のある島に滞在している訳だし、兄様が過保護になるのも仕方ない。
◇◇◇◇◇
泉の水をコップですくいひと息つく。
五臓六腑にしみわたる〜〜! 清涼感がくせになりそう〜〜!
白樺の森の泉の水も回復の効果があったけど、ここの泉も同じくらい回復の効果がある。
その上、どちらの泉の水も美味しいときている。
城やシュタイン邸の井戸水とは全然違う。
料理とかに使ったら絶対に美味しい物ができそう。
しかもHPとMPの回復効果つき。
シュタイン公爵領の名産品がまだ決まってなかったけど、白樺の森の泉の水を使った何かにしようかな?
「兄様も飲みますか?」
「ああ、いただくとしよう」
兄様は僕の手からコップを取ると、水を注いだ。
彼専用のコップもあるんだけどな。
兄様と同じ食器を使ったらそれは……間接……キス。
彼とは今まで沢山キスしてきたから、今更照れることではないんだけどやっぱり少し恥ずかしいな。
「ありがとう。
美味しかった」
「そ、そうですか。
それはよかった」
間接キスの事を考えていたら、兄様の唇にばかり目がいってしまう。
でもここは敵地なんだから、イチャイチャは控えなくちゃ……!
兄様とキスしたいけど魔王を倒すまでは我慢、我慢。
「エアネスト、レベルは順調に上がっているか?」
「はい、兄様。
さっきの戦闘でレベルが上がり、新しい呪文を覚えました。
MPも増えてきたので今後は戦闘が楽になると思います」
「そうか、それは良かった」
兄様が僕の頭を撫で、にこりと微笑んだ。
戦闘でちょっと汗ばんだ兄様も素敵だな。
体を清潔に保つ魔法が無ければ、泉の水でタオルを濡らし、体を拭く兄様を見れたのかな……?
それはちょっと……いや、凄く見たかったな。
見れなくて残念だな……。
「どうした?
私の顔に何かついているのか?」
兄様のことをじっと見ていたら、彼が僕の顔を覗き込んだ。
彼の髪が汗でちょっとだけ湿っていて、それが肌にぺったりくっついて……色っぽく見えた。
「いえ、なんでもありません……!」
僕は兄様から視線を逸らした。
今僕が考えていることは、彼には絶対に言えない!
「それよりも兄様!
僕のレベルも上がってきましたし、午後は島の宝箱を回収しに行きたいです。
宝箱のある付近には、レアなアイテムを落とすモンスターもいるんですよ。
ついでに狩りもしたいです」
僕は話題を逸らした。
僕の装備は、初期装備のロングソードとシルクの服。
それではいささか心許ない。
レベルも上がってきたし、そろそろ装備を新調したい。
「その宝箱のある場所は安全なのか?
今のエアネストのレベルで一人でも行ける場所なのか?」
「モンスターがいるので安全ではありません。
今の僕のレベルで一人で行けるかと言われたら……ちょっと難しいです」
今の僕のレベルは12。
ちょっとというか、一人で宝箱を取りに行くのはかなり危険だ。
「なら駄目だ。
エアネストが一人で宝箱を取りに行けるレベルになるまで、もう少しここでレベル上げをしよう」
「はい、兄様」
彼は僕が思ってるより慎重派なのかな?
それとも人様の力を頼りにして、宝箱を取りに行こうと思う僕が無鉄砲なのかな?
多分後者な気がする。
僕はまだどこかでゲームの世界という感覚が抜けていないのかも。
死んだら終わりの現実の世界だってことを、肝に銘じて慎重に動かないと。
そんな訳で午後も泉の周りでレベル上げをして、翌日宝箱の回収に向かうことになった。
今日一日で、僕のレベルは20まで上がった。
やはり格上のモンスターを狩ると、効率よくレベル上げができる。
明日の午前中は宝箱の回収と、
宝箱の周辺に出るモンスターから、レアアイテムのドロップを狙ってしばらく狩りをする予定だ。
午後は経験値を沢山貰えるモンスターを狩りに行く。
このまま上手くレベルが上がり続ければ、明後日には魔王城に行けそうだ。
「エアネスト、そろそろ休もう」
「はい、兄様」
小屋にはベットが一つしかない。
当然、僕と兄様は一緒のベットで寝る。
旅の間は夜の運動はしないと決めていたのに……ちょっと決意が揺らぎそうだ。
ゲームのソフィアは、魔王のいる島に来た時、この小屋で攻略対象とどんなふうに過ごしてたんだろう?
そんなことを想像するのは無粋かな?
イラスト投稿サイトで作品タイトルとキャラ名と魔王のいる島の小屋のワードで検索をかければ、いくつか作品がヒットしそうな気がする。
前世の僕はそういう事にあまり興味がなかったけど……兄様と僕の薄い本もあったのかな……?
あったとしたら、ちょっと読みたかったなぁ……。
◇◇◇◇◇
翌日
「兄様! 見て下さい!
モンスターがレアアイテムを落として行きました!」
「そうか、それは良かっな」
僕がゲットしたのは、魔法とブレスの攻撃を三十パーセントカットできる光の法衣だ。
服の上から着れるので取り外しも簡単。
ブレス攻撃を軽減できる装備は貴重なので、光の法衣を最終装備に選ぶプレーヤーも多い。
使い勝手最強のアイテムを拾ってしまった!
先ほど木の陰にある宝箱から無事、光の剣も回収できた。
これはヒロインが装備する聖剣に次ぐ攻撃力を持つ剣で、エアネストの最強装備だ。
祝・脱初期装備〜〜!!
初期装備からいきなり最終装備まで飛ぶって、ゲームだとなかなかないよね。
残りの宝箱を回収して、午後は経験値が多く稼げるモンスターを倒しまくるぞ!!
やるぞ〜〜!!
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