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46話「霧の道と魔王の島。勇者エアネスト、レベル1、初期装備」



――エアネスト視点――





精霊の森を出た僕らは、一度シュタイン邸に戻り、旅の準備を整えた。


仕事の引き継ぎとか、食料の準備とか、色々やることがあったからだ。


仕事の引き継ぎは兄様がしてくれたし、食料や旅に必要な道具や装備品はアデリーノが準備してくれた。


僕は国王に魔王退治に行く旨を記した書状を書いて、アデリーノに託した。


旅の途中は、兄様とあれやこれやできないから、昨晩は兄様といっぱい運動した。


そのせいで、ちょっとだけ夜ふかししてしまった。


次の日の朝、眠い目をこすりながら僕はシュタイン邸の人々に旅立ちの挨拶をした。


シュタイン邸で働く使用人全員と、噂を聞きつけた村の人達も見送りに来てくれた。


僕達は沢山の人に見送られ、旅に出た。


旅のお供は精霊様から貰った、白馬と黒馬だけ。


僕は白馬に跨り、兄様は黒馬に跨った。


馬達は魔王城への近道……精霊が使う裏ルートの霧の道……を知っていて、そのため僕達はあっという間に魔王城のある島に辿り着いた。


ゲームだど、回避不可能なイベントをクリアしたり、中ボスを倒してフラグを立てたり、一見ストーリーに関係なさそうな人助けから面倒事に巻き込まれたり、海を越えるためのアイテムを集めたり……色々と手順を踏まないと魔王城には辿り着けない。


今回はラグ様とシュトラール様の協力があったので、あっという間に魔王城のある島に到着してしまった。


魔王城のある島は海流が荒く、年中黒い霧が立ち込めている。


それは島の中も同じで、黒い霧が立ち込めていて、視界が悪い。


その時、一陣の風が吹き渡り、霧を晴らした。


霧が晴れた瞬間、漆黒の禍々しいオーラを放つ城が姿を現した。


城の上には暗雲が立ち込め、ときおり稲妻が光り、コウモリに似たモンスターが城の周りを飛び交っていた。


ゲーム本編と設定資料で見たことがあるから間違いない、あれが……魔王城だ!


実際に見ると、ゲーム以上に悪趣味で邪悪な城だ。


今から、僕はあの城に乗り込むのか……!


武者震いがしてきた。


あああああ…………!!!!


ここに来て僕は重大なことに気づいた。


僕のレベルは1で、初期装備のロングソードとシルクの服だということに気付いてしまった……!


最少戦闘回数狙いの縛りプレイ配信者でも、魔王城に来るまでにもうちょっとレベルが上がってるし、もう少しまともな装備をしてるぞ!


魔王城の周りには強い敵がうようよしている。


魔王城周辺の到達推奨レベルは38、魔王城の到達推奨レベルは40、魔王討伐推奨レベルは42だ!


死ぬ……!


光魔法が使えても、レベル1で、初期装備のロングソードとシルクの服では死んでしまう!


一度、雑魚敵を倒してレベルを上げないと……!


しかし、振り返ると今通ってきたばかりの霧の道は消えていた。


白馬と黒馬に道を聞こうにも、馬たちは道草を食べていて動こうとしない。


魔王城付近に生えてる草なんか食べて大丈夫かな? お腹壊さない?


仕方なく僕は、馬から降りた。


兄様も僕に続いて馬から降りた。


「エアネスト、震えているぞ、怖いのか?」


僕が震えていることに気づき、兄様が僕の肩に手を回した。


ここは死んだらリセットできるゲームの世界ではない。


死んだらそれまでの現実の世界だ。


遠くでモンスターの遠吠えが聞こえる。


怖い……!


めちゃくちゃ怖い!


でも……兄様は僕を信じてついてきてくれたんだ。


ここで弱音を吐くわけにはいかない。


「怖いです。

 でも僕は逃げません!」


魔王城にはワルフリート兄様と、ティオ兄様が捕らわれている。


ここまで来て逃げ出すわけにはいかない!


彼らを助け出さなければ!


「必ず魔王を倒し、ワルフリート兄様とティオ兄様を救い出します!」


さっき、雑魚敵を狩りに別の場所に移動しようとしたのは、別に逃げようとした訳では……ゴニョゴニョ。


「ここに来た目的は魔王を倒すことだ。

 間抜けな王子二人を助けるのはついででいい。 

 くれぐれも奴らを助けようとして、無茶をしないように」


ヴォルフリック兄様は僕を心配して言ってくれたんだ。


彼だって本当は、ワルフリート兄様とティオ兄様のことを気にかけているはず……多分だけど。


「僕一人だったら、魔王城の禍々しいオーラにあてられて心細くて泣いていたかもしれません。

 でも僕の隣にはヴォルフリック兄様がいます。

 だから大丈夫です」


僕が笑顔でそう伝えると、兄様が僕を強く抱きしめた。


「兄様……?」


「エアネストがあまりにも可愛いことを言うから、感動で胸がいっぱいになった……!」


兄様ってば、大げさだな。


現状、僕はレベル1だ。


だけど光魔法とゲームの知識がある。


この世界がゲームと同じなら、回復の泉とその隣に宿泊できる小屋があるはずだ。


回復の泉の付近には魔物が近づけないようになっている。


まずはそこを拠点にし、レベルを上げよう。


食料を沢山持ってきたから、少しぐらいレベル上げに時間がかかっても問題ない。


レベル上げの方法はこうだ。


泉の付近のモンスターが出るエリアをうろうろして、敵が単体で出たら光魔法を放って倒す。


魔力がなくなったら、泉で回復する。


複数の敵や、強い敵が出たら全力で逃げる。


これを繰り返せば、危険を最小限にしてレベル上げできるはずだ。


もしくは兄様に攻撃してもらって、僕はレベルが上がるまで防御している。


兄様は加入時のレベルと素早さが高いから、先制で攻撃できるはずだ。


モンスターを倒した時に得られる経験値は、パーティメンバーで分配されたはず。


この方法なら、僕は防御しているだけでレベルが上がる。


ある程度僕のレベルが上がったら、僕も魔法で攻撃すればいい。


光魔法で雑魚敵を一掃して、泉で回復……これを繰り返そう。


僕のレベルが20くらいになったら、HPが少ない割に貰える経験値が高いモンスターが出現するエリアに移動しよう。


そのモンスター自体はそんなに強くないんだけど、お供に強力なモンスターを連れていることが多い。


そういう時は一度逃げて、単体でそのモンスターが出現するのを待とう。


上手くいけば、二日ぐらいで魔王討伐推奨レベルに到達できるはずだ。


一刻も早くワルフリート兄様とティオ兄様を助けに行きたい気持ちもある。


だけど、いかんせん僕が弱すぎる。


今の僕は魔王はおろか、魔王城に出現する雑魚敵にも勝てない状態だ。


魔王城に捕らえられている彼らには悪いけど、もう少し辛抱して貰おう。


そう言えば……死の荒野(トート・ハイデ)で、兄様が魔物を退治したときは僕に経験値が入らなかったな。


あのときはまだ冒険に出る前だったから、パーティ扱いになってなかったのかな?


それともゲームと違って、パーティメンバーが倒した経験値は、仲間には分散されないのかな?


そうなると、経験値稼ぎにちょっと時間がかかっちゃうな。


兄様を盾にして僕が後ろから攻撃魔法を放てば、割とさくさくレベル上げできるかな?


いや……ゲームならともかく、現実で人様を盾にするとか、そういう発想が出てくる時点で駄目だろ!!


「うーん、だとしたらどうやって経験値を稼ごう……」


レベルを上げるより先に、島に配置されている宝箱の回収に向かった方がいいかな?


この島に先に到達したワルフリート兄様とティオ兄様が、宝箱を開けてしまった可能性もある。


だけど、木の陰とか、岩の中とか、崖の上とか、攻略本を見ないとわからないような所に配置されている宝箱なら中身が残っている可能性は高い。


そういう所にある宝箱には、レアな武器や防具や道具が入っているしね。


宝箱の近くにはレアなアイテムを落とすモンスターもいるので、宝箱を回収するついでに倒したい。


モンスター討伐時のアイテムのドロップ率は、倒した人間の運の良さに比例する。


エアネストは運の初期値も高ければ、運の上昇率も高い。


高確率でモンスターがドロップしたレアアイテムをゲット出来ると思う。


「でも……あの辺りは、敵も強いしな……。

 レベル1で行くのはな……」


ゲームだったら、こまめにセーブして、モンスターに遭遇したら全逃げして、全滅したらリセット……これを繰り返せば、低レベルでも宝箱まで辿り着ける。


だけど、ここは死んだら終わりの現実の世界。


流石にゲームと同じ戦法は取れない。


となると……地道にレベル上げするしかないかな。


「どうした、エアネスト?

 難しい顔で考え込んで」


「いえ……兄様を盾にして、経験値を稼げないかと……」


……って、何を口走ってるんだ僕は!


兄様がきょとんとした顔で僕を見ている。


どうしよう……!


彼に呆れられてしまう……!


「兄様、違うんです!

 僕は……あの……」


どんな言い訳をしても、兄様に嫌われてしまうのは確定だ……!


「そうだな。

 今のエアネストはレベルが低い。

 その事を考慮せず、そなたを魔王のいる島まで連れてきてしまったのは、私の落ち度だ。

 何かレベルを効率的に上げる秘策があるのなら、いくらでも強力しよう。

 例えそれが私を盾として使う作戦であっても、私は喜んで強力する」


「兄様……!」


彼は優しい。


優しさを通り越して聖人レベルだーー!


彼の懐の広さを知り、僕の胸がキューンと音を立てた。


兄様に惚れ直してしまった。


「兄様、好きです!

 大好きです!!」


僕は彼に抱きついた。


「エアネスト、私もそなたを愛している」


兄様が僕をギューーっと抱きしめた。


その時、魔物の遠吠えが聞こえた。


今の声、かなり近かったな。


多分狼型のモンスターの遠吠えだ。


あのモンスターは、次々に仲間を呼ぶから呪文で一層しないと面倒なんだよな。


レベルが低いときは相手にしたくないな。


「エアネスト、ここは危険だ。

 ひとまず場所を移そう。

 どこか休憩を取れる場所があると良いのだが」


「それなら僕、いい所を知ってます!」


僕は兄様と二頭の馬を連れ、回復の泉へと向かった。




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