43話「旅の無事を願う。シュトラールの祈り」
「シュトラール様、僕の体に起こった異変について教えていただけませんか?」
「Sのルーンは太陽を意味します。
あなたの魔力は元々光属性でした。
Sのルーンがあなたの体に適応し、さらに強力な光の魔力へと変化したようです。
あなたの髪と瞳の色が変わったのは、その副作用でしょう」
僕が光の魔力を兄様に譲渡したとき、僕の髪は金色から濃い茶色へ、瞳は濃い青から灰色に変化した。
今回、光の魔力が戻ってきたことで逆の変化が起きたということかな?
「では僕はまた、光属性の魔法を使えるようになったのですか?」
「そうです。
しかもSのルーンによって強化されたのであなたの使う魔法は、以前より威力は強力です。
一度試してみるとわかるでしょう」
試せと言われても、精霊の森で攻撃魔法を使うわけにもいかないし……。
今の僕に使えるのは回復魔法ぐらいだけど、誰も怪我してないから……試しに使うことも出来ないし。
力などの補助呪文や、回復などの回復呪文は、精霊の神子でなくても、光属性なら使えるのだ。
「エアネスト、魔法を試すのならば、私の体を使え」
「えっ……?」
兄様が手にしていたバスタードソードで、自分の腕を斬った。
傷口から血が勢いよく流れる。
「いやぁぁぁぁ!!
兄様が死んじゃう!
回復!!!!」
僕は兄様の傷口に手を当て、回復魔法を唱えた。
僕の手が眩く輝き、兄様の傷口があっという間に塞がっていく。
「よ、良かったぁぁぁぁ……!」
彼の傷口が綺麗に塞がったのを見て、僕は胸を撫で下ろした。
「兄様!
危ないことは止めてください!
僕の魔法を試すにしても、他にいくらでも方法があるでしょう?」
普通こういうときって、指先をちょっと傷つけるくらいじゃないの?
腕をざっくり斬るなんて、兄様はやりすぎだよ!
「すまない。
だが、そなたの回復魔法はとても心地よかった。
今後、そなたの回復魔法を他の誰かに使わせたくないな」
もう〜〜! めちゃくちゃいい声で爽やかに言われても、ごまかされないんですからね!
「兄様、次にこんな事をしたら僕だって怒りますからね!」
僕は彼の胸をポカポカと叩いた。
「悪かった。
許してほしい」
「こんな無茶したら、兄様とは口をきかないですから!」
「それは困るな。
エアネストに無視されるのは、どんな罰よりこたえる」
兄様が僕の手を掴み、抱き寄せた。
「もうこんな無茶な真似はしないと誓う。
だから許してほしい」
「もう……今回だけですよ」
「では、仲直りの口づけを……」
「ちょっ、兄様……ここじゃ駄目ですってば……!」
「なら、屋敷に帰ってからならいいのか?」
「そういう意味では……」
「あの〜〜、そろそろ話を進めてもいいですか?」
シュトラール様が生暖かい目で僕達を見ていた。
はわわわ……! シュトラール様がいるの忘れてた……!
これじゃあ、公共の場所でいちゃつく迷惑カップルみたいじゃないか……!
僕は兄様から素早く離れた。
「シュトラール様、すみませんでした。
話を続けて下さい」
「良いところだったのに……」
兄様が短く舌打ちした。
シュトラール様に聞こえると面倒なことになるから、そういうこと言うの止めて〜〜!
「二人の関係が、こじれる事なく上手くいっていること、喜ばしく思います」
シュトラール様がにこりと微笑む。
兄様の血縁者にそういうこと言われるのは、凄く照れくさい。
「シュトラール様、その説はありがとうございました。
お陰で兄様への気持ちを自覚出来ました」
「そなたの余計なお節介がなくても、私とエアネストの仲は順調だった。
だがそなたのお陰で、エアネストが私への恋心を自覚したのも事実。
礼ぐらいは言ってやっても良い」
彼はそう言って、僕を後ろから包み込むように抱きしめた。
兄様のシュトラール様へのこの言い方。彼ってもしかして、ツンデレキャラだったのか?
「二人はラグとエリー以上に仲良しのようですね」
「当然だ。
私達以上に仲睦まじい恋人はいない」
兄様が得意げに答えた。
「あなた方にはラグとエリー以上に幸せになってほしいです」
シュトラール様は穏やかに微笑んだ
「Mから生まれた白馬と黒馬の力を借りると良いでしょう。
彼らは人が通る道ではなく、精霊の通る道を知っています。
彼らに乗って移動すれば、僅かな時間で魔王城へ辿り着くことが出来るでしょう。
必ず生きて戻ってきてください。
ラグと共に精霊の森から、二人の無事を祈っています」
シュトラール様が僕らに向かって祈りを捧げた。
体の奥から不思議な力が湧いてくる気がした。
「お心遣いに感謝いたします。
兄様と共に必ず生きて戻ります」
「色々と助かった。
礼を言う」
僕と兄様はシュトラール様とラグ様に、感謝を伝えた。
「では兄様、今すぐ魔王城に向けて出発しましょう!」
「エアネスト、そう急ぐな。
一度屋敷に帰り、食料など旅に必要な物を揃える必要がある。
それに、このまま私達がいなくなったのでは、屋敷の者達が心配するだろう。
国王へ、手紙の返信もせねばならん」
僕ってやっぱり粗忽者だな。
一つのことに集中すると周りが見えなくなっちゃうんだから。
「はい、兄様。
ちゃんと用意を整えてから、旅に出ます」
「それでいい」
屋敷に帰って、国王に手紙を書いて、旅の準備を整えて、親しい人達に出発のご挨拶をして、それから旅に出よう。
「それではシュトラール様、ラグ様、僕たちはこれで失礼します」
「世話になったな」
「二人の勝利を祈っています」
シュトラール様は、少し寂しさと心配が混じった温かい笑顔で、僕達に手を振った。
「感謝します。最善を尽くします」
「案ずるな、エアネストは全身全霊で私が守る」
僕と兄様はシュトラール様とラグ様に、感謝を伝えた。
「忘れるところでした。
エアネスト……」
シュトラール様が僕の手を掴んだ。
「はい、何でしょうか」
彼は僕にひそひそと耳打ちした。
「Iのルーンには氷の他にも今伝えた意味があります。
覚えていればきっとあなたの役に立つでしょう」
兄様がシュトラール様から奪い返すように、僕を抱き寄せた。
「シュトラール、お前はエアネストととの距離が近すぎる!」
兄様はプンスコと怒っているみたいだった。
別れ際ちょっとだけ兄様とシュトラール様が揉めたけど、そんな光景にも慣れてきた自分がいた。
それから少しして、僕達は精霊の森を後にした。
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