41話「|I《イス》と|R《ラド》。兄様とラグ様の対面。ほっこりタイム」
馬を走らせること数分、僕たちは精霊の森の前に到着した。
シュタイン邸から精霊の森までは、馬車で三十分はかかる距離だ。
馬はゆっくりと進んでいるように見えたのに……もしかして、めちゃくちゃ歩くのが早い馬なのかな?
それとも四次元でも通り抜けたのかな?
理由はわからないけど、あまり時間をかけず精霊の森にこれてよかった。
僕を乗せた馬がずんずんと森の入口に進んでいく。
「待って! 兄様も一緒に……!」
前回兄様は森に弾かれている。
僕と二人乗りするとか、手を繋いでとか、何らかの方法を取らないと、今回も彼だけ森に弾かれてしまう。
「って、あれ?
兄様……?!」
黒い馬が兄様を乗せたまま僕の隣を歩いていた。
「どうやら私も、精霊の森に入れたようだ。
精霊の気まぐれか、この馬のお蔭なのか、祖父の導きなのかはわからんがな」
そっか、兄様も精霊の森に入れたんだ。
よかった。
僕の頬に涙が伝っていた。
「エアネスト、なぜ泣く」
「だって、シュトラール様が兄様の事を受け入れてくれたんだと思ったら嬉しくて……」
「まだそうと決まったわけではない」
「はい、本人に確認するまではまだわかりません。
でもやっぱり兄様と一緒に精霊の森に入れたのは嬉しいです」
「そんなものか」
「ええ、とっても。
兄様、ラグ様に一緒にご挨拶しましょう。
きっと歓迎してくれますよ」
「泉に挨拶するというのもな……」
「大丈夫です。
僕も一緒にしますから。
恥ずかしくありませんよ」
僕達を乗せた馬は、ゆっくりと森を進んで行った。
早く、ラグ様とシュトラール様に会いたいなぁ。
◇◇◇◇◇◇
森が急に開け、美しい泉が見えた。
「兄様、あの泉がラグ様ですよ」
僕は泉の前で白馬から降りた。
兄様も、黒馬から降りた。
「エアネスト、馬を繋いでおかないとどこかに行ってしまうぞ」
「大丈夫ですよ兄様。
二頭はシュトラール様が遣わせたもの。
勝手にどこかに行ったりしませんよ」
二頭は、美味しそうに泉の周りの草を食べていた。
「それなら良いが」
「それより兄様。
あなたのお祖父様のラグ様ですよ。
ご挨拶しないと。
ラグ様、以前お約束した通り、兄様を……あなたの孫のヴォルフリック様をお連れしましたよ」
僕は泉の前に座り、ラグ様に向かって話しかけた。
泉の底から湧き出てくる水が、ポコポコと音を鳴らした。
「ラグ様は、よく来たね、会いたかったよと……言ってるみたいです」
「そなたは、泉の状態の祖父と会話ができるのか?」
「はい。
なんとなくですが、ラグ様が言いたいことがわかる気がするんです」
「そなたには驚かされてばかりだ」
「そうでしょうか?
兄様もこちらに来て座って下さい」
「ああ……」
僕が手招きすると、彼はやや戸惑いながら泉に近づいてくると、僕の隣に腰を下ろした。
「ほら、兄様もラグ様に挨拶して下さい」
「わかった。
ヴォルフリック・エーデルシュタインだ。
初めまして、ラグ……様」
「兄様、挨拶が硬いですよ。
ラグ様はあなたの祖父なんですから、『お祖父様』と呼ばなくては」
「初対面の泉に対してそれは流石に……」
兄様はラグ様をお祖父様と呼ぶことに、躊躇いがあるようだ。
泉がまた、ポコポコと可愛い音を立てた。
「ラグ様も兄様に『お祖父様』と呼んでほしいみたいです」
「いや……そんなことは言っていないだろう……。
それより……今、泉の中で何か光ったぞ」
「えっ? どこですか?」
「ほらあそこだ……。
青い石がある辺り」
兄様が指を指した辺りを目を凝らして見たが、僕には何も見えなかった。
「何か文字のような物が浮いてきたな」
兄様がそう言って泉に手を入れた。
「『R』に似ている文字だ」
もしかして浮いてきたのはルーン文字かな?
ラグ様がルーン文字を兄様にプレゼントしたのかな?
「ラド……」
兄様が、小さな声でそう呟いた。
彼はRのルーン文字を授かったようだ。
Rには意味があるんだろう?
でもラグ様が兄様にプレゼントしたものだし、絶対良い意味の言葉に決まっている。
その時、別の文字が浮かんで来るのが見えた。
あれはどっちにくれたルーンなのかな?
「兄様、泉に浮かんでいる文字が見えますか?」
「いや、私には何も見えない」
Rのルーン文字は僕には見えなかった。
今度のルーン文字は彼には見えなくて、僕には見える。
ということは……このルーン文字は、ラグ様が僕にプレゼントしてくれた物って解釈していいのかな?
僕は泉に浮かんでいる文字に触れた。
アルファベットの『I』に似てる文字だった。
僕がルーン文字に触れると、文字は僕の中に吸い込まれるように消えていった。
「イス……」
自然と僕はその言葉を口にしていた。
僕がもらったIのルーン文字にはどんな意味があるんだろう?
「ラグ様、僕と兄様にルーン文字を授けて下さりありがとうございます。
兄様もお礼を言って下さい」
「礼を言う。
ラグ……お祖父様」
兄様は少し照れくさそうに、小さな声でラグ様にお礼を伝えた。
泉はポコポコポコポコ……と、しばらく楽しげに音を鳴らしていた。
きっと、兄様がラグ様のことを「お祖父様」と呼んだことを、ラグ様が喜んでいるんだね。
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