39話「秋の実りと王都からの手紙。ひよっこのエアネストも少しは成長しました」
僕がシュタイン侯爵領に来てから、二カ月が経過した。
自室から見える庭もすっかり色づいている。
僕と兄様との仲は今も順調に続いている。
彼とは一カ月前に……なんというか……その、大人の関係になった。
く、詳しくは説明出来ない!
侯爵領についてだけど、白樺の森の木を伐採した収益で、今年は侯爵領の収益も潤いそうだ。
白樺の森の奥には果物のなる樹木があるので、農民達もお腹いっぱい食べられたみたい。
それから川魚がたくさん取れたって、カールが言ってた。
農民達は、収穫したものを屋敷に届けてくれた。
彼らから、りんごや、ぶどうや、梨や、栗などの秋の実りをたくさん頂いた。
果物だけでなく、モトコクチマス、ヨーロピアンパーチ、サーモンなどの魚もたくさん頂いた。
果物はパイやタルトに、魚は焼いたり揚げたりしたものに、ソースやホワイトクリームなどを付けて美味しく頂いた。
そう言えば、御者のハンクが森の木々が紅葉してとても綺麗だって言ってたな。
僕も兄様と、色づいた銀杏や紅葉を見に行ったり、りんご狩りしたり、魚釣りしたりしたいな。
僕はデスクから窓の外を眺め、溜め息をついた。
とはいえ、僕は新任の侯爵としてやることがいっぱいある。
遊んでる暇などないのだ。
それに、土地税のことも気になるし……。
「どうした、エアネスト?
浮かぬ顔をして」
兄様が僕の背後に立ち、後ろから僕を抱きしめた。
彼も僕の部屋で仕事をしている。
ゲームの彼は九才で全ての王子教育を終えた天才設定。
現実の彼も頭が良くて、侯爵領の仕事をさくさく覚え、僕の三倍の量の仕事をこなしている。
僕も兄様の足を引っ張らないように努力しないと。
「外を見て溜め息ばかりついているぞ」
僕そんなに溜め息ばっかりついてた?
今度から気をつけよう。
「僕はただ、紅葉が綺麗だなって思って……」
「それだけか?」
兄様には隠し事が出来ないみたい。
「ハンクが森の木々が紅葉して綺麗だと言っていたので……兄様と見に行きたいなぁ……と」
「そうか。
それは嬉しいお誘いだな。
それなら今すぐ見に行こう」
「ちょっ、ちょっと待ってください!
僕まだ今日の分の仕事が終わってないですし、
それに……今日あたり王都から手紙が届くかもしれませんし……!」
流石に仕事を放り投げて遊びに行く訳にはいかない。
「仕事のことなら心配いらない。
エアネストの仕事を私がやればいい」
兄様は仕事が速いから、彼に任せたらあっと言う間に終わるかもしれないけど……。
「それだと、兄様の仕事が進みませんよ」
「私は今日の分の仕事を全部終えた」
兄様は仕事が早いな。
彼に仕事を任せれば紅葉狩りに行けるかも知れない。
でもそれでは、僕の為にはならない。
「兄様、今日は止めておきます。
手紙のことも気になりますし」
「王都から届くかも知れないと言っていたな?
どんな内容の手紙なんだ?
当主であるそなたが受け取らなければならないほど、重要な手紙なのか?」
「土地税について、陛下に嘆願書を送ったのです。
その返事がそろそろ来る頃かと
……」
白樺の森のお陰で民の収入は増えた。
でも二年続いた不作で民の多くは借金をしている。
借金の返済のことまで考えると、もう少し土地税を抑えてほしいのだ。
三分の一とまではいかなくても、半分ぐらいにならないかな?
「あの男が、そうそう土地税の減額を認めるとは思えないが」
「その時は、僕が直接王都に行って陛下に土地税の減額を嘆願します!」
「そなたを王都に行かせたくない」
「兄様……?」
「そなたは土地税の値下げの為には、奴に土下座し、奴の靴の裏を舐めるつもりなのだろう?
愛しいそなたに、そのような屈辱を味あわせたくない」
兄様は僕をぎゅーっと抱きしめた。
「それは嘆願が通らなかった時の最終手段です」
「だからそなたを王都に行かせたくないのだ」
困った兄様は離してくれそうにない。
僕が王都に行くと言ったら、絶対に妨害されるだろうな。
国王の前に、過保護な兄様を説得するのが先かな……。
◇◇◇◇◇◇
その時、トントントントンと扉が四回ノックされた。
この上品な叩き方はきっとカールだ。
「は〜〜い、どなたですか?」
兄様の言いつけを守り、確認してからじゃないと扉を開けなくなったよ。僕も成長してるな。
「家令のカールです。
閣下に王都から手紙が届きました。お届けに参りました」
やはり、ドアをノックしたのはカールだったみたい。
「兄様、きっと陛下から土地税の減額の嘆願についての返信です! 僕、出ますね!」
僕は兄様の腕をスルリと抜け、扉に向かった。
扉をあけると、カールが銀製のサルヴァに手紙とペーパーナイフをに入れて立っていた。
「カール、ありがとう」
僕は彼から手紙を受け取った。
王家の家紋が蝋封として使われていた。
間違いなく国王からの手紙だ。
僕はペーパーナイフを使って封を開ける。
手紙を読むとき、僕は少し緊張していた。
どうか……土地税の減額申請が通ってますように……。
そこには……思いがけないことが記されていた。
「エアネスト、手紙にはなんと書いてあったのだ?」
手紙を持ったまま固まってしまった僕に、兄様が心配そうに声をかけてきた。
「兄様……これを」
僕は兄様に手紙を見せた。
「これは……!」
彼も手紙の内容に驚いているようだ。
「ワルフリート兄様とティオ兄様が、魔王討伐に行って、魔王に捕らえられたそうです……」
「アデリーノから、二人が魔王討伐の旅に出た……とは知らせを受けていたが、まさか魔王に捕まるほどの間抜けだったとは」
兄様が吐き捨てるように言った。
「ヴォルフリック兄様は、ワルフリート兄様とティオ兄様のことが心配ではないのですか?」
「あの二人は謁見の間でエアネストを傷つけるようなことを言ったのだぞ?
そんな二人がどうなろうと、私が知ったことではない」
そうでした。ヴォルフリック兄様はこういう人でした。
「強い光属性の魔力を持つソフィアは、現在妊娠中で魔王討伐や、人質救出どころではないみたいですし……」
国王からの手紙には、隣国に嫁いだソフィアに助けを求めたが断られた事も記されていた。
ワルフリートとティオを救えるのは、ゲームヒロインである彼女しかいないのだが……妊娠中ではどうにもならないだろう。
「だからといって、なぜ私やエアネストに助けを求めるのだ?
エアネストのことを勘当したくせに、困ったときだけ助けてくれなど、調子の良い奴らだ」
兄様の言い分もわかる。
国王は国中に諜報員を放っている。
おそらく彼は、僕が精霊からルーン文字を授かり、侯爵領を立て直した事も知っているだろう。
だから国王は僕達に助けを求めてきたのだ。精霊の力を借りて魔王を討伐できないかと。
美味しい報酬をチラつかせて……。
「でも、僕達が魔王討伐に成功し、無事ワルフリート兄様とティオ兄様を救出したら、土地税の減額について考えると書いてありますし」
「『考える』では駄目だ、『確約』でなくてな。
どちらにしても土地税ごときの為に、愛しいエアネストを戦場に送ることなどできん。
もちろん私も奴らの救出になどいかん」
彼ならそう言うだろうと思っていた。
僕も二人の事が心配だ。
だけど……光の魔力を失った今の僕に、何が出来ると言うのだろう?
でも……それでも……。
「僕は……一人でもワルフリート兄様とティオ兄様を助けに行きたいです」
「エアネスト……!
無謀が過ぎるぞ!」
その時、窓の外からいななきが聞こえた。
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