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38話「誤解とすれ違いからの……雨降って地固まる」



 




「好きです!

 兄様のことが大好きです!!」


言った!


伝えてしまった!


兄様の顔が見れないよ!!


僕は彼から視線を逸らし、床を見つめた。


僕の心臓がバクバクと音を立てている。


告白するって、こんなに勇気がいるんだね!


高い崖の上からバンジージャンプするくらい、ドキドキした。


「……知ってる。

 私もエアネストが好きだ」


兄様は平静な声でそう答えた。


僕は彼の顔をちらりと見た。


彼の顔は少し赤かったが、弟から告白された動揺は見えなかった。


兄様のこの態度……告白だと思われてない?


もしかして兄様は、僕の言った「好き」を、家族としての「好き」だと勘違いしてるのかな?


それじゃぁ、告白した意味がないよ!


もう一度きちんと伝えないと……!


恋愛として好きだって……!


「僕と……あなたの好きは、違います!

 僕は兄様のことを……その、恋愛対象として…………愛してるんです!」


僕は兄様の目を見てそう伝えた。


今度こそ、言い訳出来ない!


僕が告白したとき、兄様は困惑した顔をしてた。


そうだよね……迷惑、だよね……。


弟からこんなこと言われたら……嫌だよね。


気が付くと、僕の瞳から涙が溢れていた。


馬車の中で告白しなくてよかった。


キャビンの中には逃げ場がないもん。


「僕、ちょっと……顔を洗ってきます!」


僕が立ち上がろうとしたとき、兄様に腕を掴まれてしまった。


そしてそのまま、兄様の腕の中に閉じ込められていた。


「兄様……離して!」


振られたのに同じ空間にいるなんて辛いよ!


「すまないがそれは出来ない。

 今そなたを離したら、どこかに行ってしまいそうだから」


兄様に背後から抱きしめられて、僕は身動きができなかった。


「私の率直な気持ちを伝える。

 そなたに告白されて混乱している」


そうだよね。弟に好きとか愛してるって言われたら気持ち悪いよね。


「エアネスト……いくつか尋ねたい。

 正直に答えてほしい。

 そなたは私を恋愛対象として愛してると言ってくれたが、

 その……今までは私のことをどう思っていたんだ?」


「ヴォルフリック兄様のことは……一番年の近い、兄弟で一番仲の良い、優しいお兄様だと思っていました」


「ああ……そうだったのか。

 では、今まで私からのハグを受け入れていたのは……?」


「ハグは……兄様は幼少期に牢屋に入れられて、そこで十三年間過ごしたので、家族愛に飢えているのかなって。

 九歳の時の距離感のままなのかなって……そう思ってました」


「そうか……そんなふうに思われていたのだな。

 では、私からの口づけはどういう気持ちで受け入れていたんだ?」


「キスは……兄様が僕から魔力を奪ってしまった罪悪感から、僕に魔力を返そうと思ってしてくれている……いわば人工呼吸のようなものかと……」


「そうか……。

 そなたには、口づけをそう受け止められていたのか……」


兄様が深く息を吐いた。


彼は酷く落胆しているように感じた。


「最後にもう一つだけ、そなたは共寝の意味を知っているか?」


「はい共寝とは、添い寝の別の言い方ですよね?」


「そこからか……」


兄様は深い溜め息を吐いた。


「そういえばエアネストは閨教育を受けていなかったな。

 そなたに『共寝』のような、遠回しな言い方をした私も悪かった」


共寝と添い寝の意味って同じじゃなかったの?


兄様は僕の体をくるりと反転させた。


僕は、彼に泣き顔を見られて少し恥ずかしかった。


「すまない。

 そなたを泣かせるつもりはなかったのだ」


兄様の長く綺麗な指が僕の涙を拭う。


「そなたが私を恋愛対象として愛してると言ってくれたこと、嬉しく思っている」


「嘘です……!

 だって、僕が告白した時……兄様は困惑した顔していました……!」


「それは、そなたが私への恋愛感情をもっと前に自覚してると思っていたからだ」


「えっ……?」


「覚えているか?

 そなたと牢屋で再会した次の日、

 城にあるそなたの部屋で、

 私はそなたに『愛している、永遠にそばにいたい』と伝えたことを」


「はい」


「そなたは私からその言葉を聞いた時どう思った?」


「兄様は僕のことを家族として好きなのかと。

 あなたは牢屋で一人寂しい思いをされていました。

 だからもう二度と家族を失いたくないのかと。

 家族として僕に一緒にいてほしいのかなと、そう思ってました」


「それは誤解だ。

 私はあの時点でそなたを恋愛対象として愛していた」


「えっ……?」


「永遠にそなたの傍にいたいと言ったのは、プロポーズのつもりだったのだが」


「ええっ……??」


僕あの時点で兄様にプロポーズされてたの?


「だが無垢なエアネストには、回りくどい言い方だったかもしれない。

 もっとストレートに、私と結婚してほしいと伝えるべきだった」


「結婚……?!

 では兄様が今朝僕に、そなたを弟として見ていないって言ったのは……」


「私はそなたがプロポーズを受け入れたと勘違いしていたからな。

 私はそなたに求婚してからずっと、そなたを婚約者として見ていた」


「そ、そうだったんですね」


どうしよう。


兄様はそんなに前から僕のことを愛していてくれたんだ。


それなのに……僕は彼の気持ちに全然気づかなくて。


兄様は僕を婚約者として見ていたのに、僕は彼を兄としてしか見ていなかった。


ううん……今日、シュトラール様に言われて、兄様を愛してると気づいただけで、本当はもっと前から。


兄様が僕にキスして、それを拒めなかったときから、僕は彼のことが好きだったのかも。


なぁんだ。僕が鈍感だっただけで、もっと前から僕たちはずっと両思いだったんだ。


「そなたがプロポーズを受け入れてくれたと思っていた。

 だからそなたに何度も、ハグやキスやお姫様抱っこしていた」


「では兄様からの口づけは……」


「罪悪感から来る罪滅ぼしなどではない。

 愛情表現だ」


そっか……じゃあ今まで兄様からされたキスは、人工呼吸なんかじゃなくて全部……好きって気持ちが籠もったものだったんだね。


今までのキスが全部愛称表現なんだと認識したら、僕の顔に熱が集まってきた。


「ごめんなさい兄様。

 僕、あなたの気持ちに全然気づかなくて……」


「今気づいてくれたのだから良い。

 こちらこそすまなかった。

 そなたと両思いだと勘違いして、何度もキスやハグをしてしまった。 

 その上、純真なそなたに共寝まで強要しようとしたり……」


「僕達……両思いだったんですね」


僕が兄様のことを好きだって気づいたのは、ついさっきだけど、兄様はずっと僕のことを想っていてくれたんだ。


「そうだな。

 どちらかと言えば両片思いだったが」


「そうかもしれません」


「そなたと想いが通じ合ったので、口づけを交わしたい。

 駄目か……?」


「嫌ではありません……。

 僕は……兄様となら」


「それは同意と受け取るぞ」


僕が目を閉じると、兄様の唇が僕の唇に触れた。


それはすぐに深いものへと変わっていく。


もう兄様とキスしても、これは彼にとって人工呼吸みたいなものだって……自分に言い聞かせなくていいんだ。


彼とのキスを心から受け入れていいんだ。


兄様と両思いだとわかってからの口づけは、今までのキスとは違って、とってもスイートだった。


長いキスのあと、彼の唇が僕から離れていく。


そう言えばまだ共寝の意味を聞いてなかった。


「ところで、兄様の言っていた『共寝』ってどういう意味なんですか?」


「そんな、蕩けそうな顔で……聞くな……!

 私の理性が崩壊しそうだ!」


そう言った兄様は、かなり動揺しているみたいだった。


僕また何か、変なこと言っちゃったかな?


「その話は……だな。 

 花に例えるとアレがあーしてこーなって。

 ……今度、図解入りの分かりやすい本を用意する。

 その時、詳しく教える。

 だからそれまでは誰かに『共寝とはどういう意味ですか?』など無邪気に質問してはならんぞ」


「はい、兄様」


「そなたが閨のことを理解するまで、そなたに手を出したりはしない。

 だから私が同室であることを許可してくれ。

 添い寝は……私の理性が持たないから難しいが、

 部屋にもう一台ベッドを運び入れ、私はそちらで寝るから」


「はい?」





◇◇◇◇◇◇



このあと数日かけて兄様から共寝の意味を教えてもらった。


共寝の意味をきちんと理解した僕が、

「どうしよう!? 『みんなの前で兄様と共寝する』って言っちゃったよ〜〜!!」

と悶絶するのはもうちょっと後の話である。




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