37話「エアネストの告白。兄様が好きです」
僕が屋敷に帰ったとき、カールも屋敷に戻っていた。
僕はカールに精霊の森で起きたことを伝えた。
その上で、シュトラール様が白樺の森を使用する為に出した条件を紙にまとめ、ルール化し、民と共有した旨を伝えた。
カールは、僕から聞いた内容を紙に記すので、後で確認してほしいと提案してきた。
僕は彼の提案を受け入れた。
僕はカールに、少しの間三階の僕の部屋に誰も立ち入らないように伝え、自室に戻った。
精霊の森でシュトラール様に会って、話を聞いたのは僕だ。
本来なら、僕が彼から聞いたことを文章にまとめなければならない。
それなのにカールに丸投げしてしまった。
白樺の森で密猟が行われないように、見張りの役人も育成しなければいけない。
精霊が定めたルールを破った人間への、処罰も決めないといけない。
一つ解決しても、次にやることが出てくる。
仕事がなくなることはない。
僕はそれらを一旦保留にして、兄様への告白を優先してしまった。
僕ってば……つくづく駄目な領主。
今日だけ、一日だけ時間がほしい。
兄様への気持ちを整理しないと、仕事が手に付きそうにないんだ。
それに……今告白しないと、ずるずる〜〜と先延ばしにして、兄様の優しさに甘えて、彼とキスしたり、添い寝したりする生活を続けそうで……。
そういうのはよくないと思うんだ。
兄様は牢屋に入れられていた寂しさから、僕に家族として愛情を求めているだけなのだから……。
そんな彼の思いを、利用できないよ。
兄様にちゃんと好きだって伝えて、けじめをつけないと!
その結果、兄様が僕から……もしかしたらシュタイン侯爵領から離れていくことになっても……僕は彼の意思を尊重したいと思う。
多分その時は、凄く泣くと思うけど……。
でも、僕のわがままで兄様の自由を奪いたくない。
◇◇◇◇◇◇◇
僕は兄様と一緒に自室に戻った。
でも……いざ、告白しようと思っても、緊張して言葉がでない……!
僕がもじもじしていると、兄様に背後から抱き締められた。
彼が「人払いもしたことだし、少し日が高いが今から共寝をしようか?」と甘い声で囁く……!
低音の良い声に……僕の心臓がバクバクと音を立てる……!
「ね、寝るにはまだ早いです!」
僕は兄様の腕からなんとか逃れた。
彼は少し残念そうな顔をしていた。
兄様は、朝からずっとベッドで寝たいと言っていた。
王都からシュタイン侯爵領までずっと馬車で移動してたし、屋敷についてからも色々あったから、彼が疲労困憊していても不思議はない。
お風呂に入ってゆっくり休んでほしいところだけど、もう少しだけ、起きていてほしい。
「後ろから抱きしめられてると落ち着かないので、兄様はソファーに座って下さい」
僕は彼をシェーズ・ロング(背もたれ付きの長椅子)に座らせた。
そして、僕は彼の隣に座った。
「……………」
告白を聞いて貰うために、兄様には起きていてもらっているんだ。
なんか、なんか、伝えないと……!
好きです……愛してる……兄様のこと恋愛対象として見てます……こういうとき、なんて伝えるのが正解なんだろう?
言葉にしたいのに……何も言えなくて、時間だけが過ぎていった。
「エアネスト、私に何か伝えることがあったのではないのか?」
「そ、それは……」
兄様から催促されてしまった。
彼は腕を僕の腰に回すと、
「伝えることがないのなら、こうしていよう」
そう言って僕の髪に口づけを落とした。
彼は僕の髪、額、耳へと順番にキスしていく。
兄様は僕の耳に口づけを落とすと「ソファーでするのも悪くない……」と、僕の耳元で囁いた。
僕の心臓がドキドキと音を鳴らし、背筋がゾクゾクと震える。
彼が僕と何をしたいのか僕にはわからない。
でもそういうことをされると、告白し辛いよ!
「に、兄様、今から僕がいいと言うまで、僕にお触り禁止です!」
僕は兄様から距離を取り、お触り禁止令を出した。
「そ、そんな……!
エアネストに触れられないなど……!
この世の終わりだ……! 」
彼はかなりショックを受けているようだった。
僕に触れられないだけでこの世の終わりだなんて……兄様はちょっとオーバーだよ。
でも僕が告白するまでの間、我慢して下さい。
兄様の返事がNOだった場合、今後はこういう過度のスキンシップも止めてもらわないと。
彼が家族の愛に飢えているのはわかる。
兄様はずっと牢屋にいたから、兄弟との距離感が、幼い時の感覚のままなのかもしれない。
でもそういうことは、好きな人とすることだ。
僕たちは二人共もう大人なんだから、適切な距離感を維持しないと。
それより早く告白しないと……!
彼だって休みたいのに、僕の為に起きていてくれるんだから……!
「兄様……僕、兄様のことが……」
僕は意を決して告白しようとした……。
だけど……兄様のキラキラした顔を見てたら言えなくなってしまった。
彼は顔が良すぎる……!
「好き」はたった二文字なのに、「愛してる」だって四文字しかないのに……なんでこんなに伝えるのに勇気がいるんだろう!?
そうだ!
場を和ませる為に、お茶とお菓子を用意させよう。
僕はテーブルに置いてあった鈴を鳴らした。
これを鳴らすと、使用人が来てくれるって、カールが言ってた。
鈴を鳴らして一分もしない内に、カールがドアを叩いた。
僕は彼にお茶とお菓子を用意するように伝えた。
カールにも他に仕事があるのに、面倒をかけてしまった。
数分後お茶とお菓子の乗ったワゴンを押してカールが戻ってきた。
彼はとても仕事が早い。
テーブルの上に、紅茶と、ケーキスタンドがセットされていた。
ケーキスタンドには、マカロンや、クッキーや、サンドイッチや、スコーンが乗っていた。
どれも美味しそうだ。
お茶とお菓子をセットすると、カールは一礼して帰って行った。
また兄様と二人きりになってしまった。
「何か召し上がりますか?」
緊張をほぐそうと、僕は隣に座る兄様にお菓子を勧めた。
「いや……いい。
食欲がない」
僕からお触り禁止令を出されたショックが、まだ抜けていないようで、兄様は少し暗い表情をしていた。
ごめんなさい。兄様を傷つけるつもりはなかったんです。
僕は紅茶を口に運んだけど、なかなか喉を通っていかない。
告白するって勇気がいるんだな。
兄様は僕を弟として可愛がってくれるし、このまま彼の優しさに甘えて、キスしたり、ハグしたりする生活を送るのも悪くない気がする。
でも、それは……卑怯な気がした。
このまま兄様の優しさに甘えていたら……いつか、彼に好きな人が出来たとき、僕はその人に会わせる顔がなくなってしまう。
兄様にちゃんと伝えなくちゃ……愛してるって……!
彼に振られたら、兄様との今の距離感を改めよう。
いつまでも、小さな子供同士が取るような距離感でいちゃ駄目だ。
兄弟とはいえ僕たちは大人なんだから、適切な距離を保たないと!
「兄様……!
あの……僕はあなたにお伝えしたいことがあって……!」
僕は兄様の顔を真っ直ぐに見つめた。
彼は切れ長の目を細め僕を見ていた。
好き……! 大好き……! 兄様のことが大好き……! 愛してる!!
僕の心の中には兄様への思いが溢れているのに……言葉として出てこない。
でも勇気を出さなくちゃ……!
「兄様にとって……僕の気持ちはご迷惑かもしれません。
突然、弟にこんな事を言われたら、麺食らうかも知れません……。
もしかしたら、気持ち悪い……と拒絶されるかもしれません……」
「どうしたエアネスト?
肩が震えているぞ」
僕の体は知らない内に震えていたらしい。
「何があっても、私がそなたを嫌う事も、拒むこともない。
だから、私に伝えたいことがあるなら、何でも言ってほしい」
「兄様……」
彼の優しさが心に染みる。
それが弟に向けられた愛情だとしても、やっぱり嬉しい。
僕は今からその関係を、壊そうとしている。
「僕……兄様のことが……!
す、すすすすす………」
ちゃんと伝えないと!
兄様との関係をはっきりさせないと!!
「好きです!
兄様のことが大好きです!!」
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