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36話「恋心の自覚と照れ。好きって気づいたら今まで以上にドキドキする!」




精霊の森の外に出ると、ヴォルフリック兄様が、帰ってきた僕を出迎えてくれた。


少し離れたところに停めた所で、ハンクとルーカスが待機しているのが見えた。


「お帰り、エアネスト。

 そなたが無事に帰ってきてくれて嬉しい」


彼が僕を正面から抱きしめた。


「兄様……!」


彼が僕を人前で抱き締めるのはいつものことだ。


だけど森に入る前と違って、僕は兄様を愛してると気づいてしまった。


彼に抱きしめられた途端、僕の心臓がドクドクとうるさく鳴り、顔に熱いくらい熱が集まってきた。


「兄様、僕はちょっとの間森に行っていただけですから……! 

 ひ、人前でハグするほどのことではありませんから……!」


僕は彼の腕から逃れようともがいた。


だけど兄様の腕の力が強くて、結局僕は彼に抱きしめられたままだ。


「エアネスト、様子が変だぞ?

 森で何かあったのか?」


いつもと違う反応を示した僕を、彼は不審に思ったようだ。


兄様は僕の顔を覗き込んでくる。


僕は彼と顔を合わせるのが恥ずかしくて、うつむいてしまった。


「と、特には何もありません!

 精霊様にお会いして、白樺の森を授けて下さったことへの感謝を伝え、白樺の森の使用許可を頂いてきただけです!」


シュトラール様に兄様の恋心を自覚させられたことは今は内緒だ。


「そうか、無事精霊に会えたんだな」


「はい。

 それから新たにM(エイワズ)のルーン文字を授かりました」


「それは凄いな。

 そなたはやはり精霊に愛されているのだな。

 民がそなたを『精霊の愛し子』と呼ぶのも、あながち間違いではないな」


「『エイワズ』のルーン文字は『馬』を意味するそうです」


「そうだったのか」


「それから……僕が精霊の森で出会った精霊様は、ラグ様ではありませんでした。

 森で会った精霊様は、ラグ様のお兄様のシュトラール様でした」


「そうか」


「ラグ様はその……」


どうしよう?

 

ラグ様が泉になってしまったことを兄様に伝えた方がいいかな?


祖父が泉になっていたなんて、彼にはショックが大き過ぎるかな?


「聞いてますか兄様?

 森で僕がお会いした精霊様は、兄様のお祖父様のラグ様ではなかったのですよ?

 ショックではありませんか?」


「一度も会ったことのない精霊を、祖父だと言われても実感がわかない。

 その兄であっても同様だ」


そんなものなのだろうか?


なら彼にラグ様が泉になったことを伝えても問題ないかな?


「ラグ様はその……泉になっていました。

 でもずっと泉の姿ではなくて、

 百年間、日光、月光を浴び続けると、

 彼は人型に戻れるそうです」


「なるほど」


兄様の反応は淡白だった。


実の祖父が泉に変ってるのに、そんな反応なの?


「僕をシュトラール様のもとに導いてくれたのはラグ様でした。

 それからB(べオーク)M(エイワズ)のルーン文字を授けてくれたのもラグ様でした」


「そうか、祖父が……」


兄様の言葉には、今までと違って嬉しそうな響きが混じっていた。


「兄様が精霊の森に入れないのはラグ様のせいではありませんでした。

 ラグ様の兄のシュトラール様が、兄様を拒んでいたからでした。

 ですが、シュトラール様には悪意があるようには感じませんでした。

 きっと彼には何か……深い事情があると思うんです」


「事情か……あまり興味はないな」


兄様の言葉には少し切なさとか混じってる気がした。


でも自分を拒んでいるのは、祖父ではないとわかって安堵してるようにも感じた。


「ラグ様に約束したんです。

 今度兄様を精霊の森の泉に連れて行くって……!

 だから絶対、一緒にラグ様の所に行きましょう!」


「そうだな」


兄様はそう言ってはにかんだ。


さっきはああ言っていたけど、兄様もラグ様に会えるのが嬉しいんだ。


「私にとって、エアネストが掛け替えのない存在だと伝えないとな。

 それから、私がどれほどそなたのことを大切に思っているのかも……」


兄様が妖艶な低音ボイスで、僕の耳元で囁く!


僕は声だけで、腰が砕けそうになってしまった。


その後、兄様が僕にキスを迫って来たけど、僕は彼の口に手を当てて遮った。


「ひ、人目がありますから……!」


彼は少し悲しそうな顔をしていた。


僕は兄様が好きだ。


でも兄様が僕にキスするのは、罪悪感から僕に魔力を返そうとしてるだけ。


こんな気持ちのままでは、兄様の善意のキスを受け入れられない。


「兄様、屋敷に帰りましょう!

 僕、帰ったら兄様にお伝えしたいことがあるんです!」


屋敷に帰ったら、兄様に僕の気持ちを伝えよう。


好きだって、愛してるって。


兄様にとって僕は家族でしかないかもしれない。


僕は兄様のことを恋愛対象として好き。


そのことに気付いてしまったからには、もう彼と一緒の部屋にはいれない。


兄様が僕に家族以上の感情を抱いてなかったら、部屋を別々にしてもらおう。


彼の寂しさを利用して、一緒の部屋で暮らして、添い寝するなんて出来ないよ。


「ここでは駄目か?」


「それはちょっと……」


ハンクとルーカスが聞いてるし……。


人目があるところで兄様に「愛してる」なんて言えないよ。


「わかった。

 なら馬車の中でするのはどうだ?」


「それもちょっと……」


馬車の中には逃げ場がない。


兄様に振られたとき気まず過ぎる!


「わかった、では話は屋敷で聞こう」


「はい」


屋敷に帰ったら兄様に告白すると思うと緊張する。


兄様は馬車の中で僕にキスを迫って来たけど、僕は鋼の意思で断った。


僕だって彼とキスしたい。


でも彼にとってはキスは人工呼吸みたいなもの。


そんな善意を利用して彼とキスなんて出来ないよ……。




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