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32話「白樺の森。その清浄なる森は一夜にして」




僕達を乗せた馬車は森の前で止まった。


うん? 森……?


森なんてこんな所にあったかな?


もしかして死の荒野(トート・ハイデ)と間違えて、精霊の森に来てしまったのかな?


それにしては、森に生えている木の種類が違うような……?


馬車の中でうだうだ考えていても始まらない。


外に出れば、何かわかるはずだ。


僕は兄様にエスコートしてもらい、馬車を降りた。


僕の目の前に広がっていたのは、広大な白樺の森だった。


朝日を浴びた木の葉が、朝露を反射してキラキラと輝いている。


「えっと……?

 カール、念のために聞くけどここはどこ?」


死の荒野(トート・ハイデ)でございます、閣下」


「そう、だよね……」


死の荒野(トート・ハイデ)には昨日訪れたばかりだ。


昨日までここは、地平線まで荒野が続く不毛の大地だった。


「カール、ここで何が起こったの?」


僕の想像の域を越えている。


誰か僕にもわかるように説明して……!


「一夜にして、死の荒野(トート・ハイデ)が白樺の森へと変貌を遂げたのです」


カールの説明を聞いても、理解が追いつかない。


そんな馬鹿な……と言いたいが、一つだけ思い当たる節がある。


昨日、僕はこの地に白樺の枝を植えた。


あれは精霊様から頂いた、神聖な物だった。


あの一本の枝が一晩で広大な森になった……ということだろうか?


常識で考えたらありえない。


でも精霊の力を持ってすれば、このくらいのこと、朝飯前なのかもしれない。


僕はそのお手伝いをしただけ。


「森を調査を行った先発隊の報告を完結にまとめますと、森にモンスターや大型の肉食獣は出現しないとのこと。

 そればかりか、果実を実らせる樹木があり、魚が群れをなす川が流れ、飲むと体力が回復する清らかな泉が存在するそうです」


「それはすごいね!」


すごい以外の感想が出てこない。


荒野の問題と、モンスターの問題と、食料の問題が一度に解決した。


それに森の一部を開拓すれば、農地にもなる。


小さな森を開拓すると、自然破壊に繋がるが、これだけ大きな森なら一部を開拓しても自然の回復力が勝るだろう。


ここは精霊様から授かった白樺の枝からできた森。


森の一部を開拓するなら、彼の許可が必要だ。


「それから、彼らはこんな事も申しておりました。森の中央には樹齢千年を越える立派な白樺の木があったと……」


それって……もしかして、昨日僕が荒野に植えた白樺の枝かな?


白樺の枝を荒野に植えたとき、千年は生きた大木のような神秘的なオーラを放っていた。


あの枝なら一夜で大木になっても不思議はない。


ふと気が付くと森の周りに、農民が集まっていた。


みんな一夜にして出現した森を不思議そうに眺めている。


「精霊の神子様がおられるぞ!」


一人が兄様に気づきそう声を上げる。


「本当だ! 精霊の神子様だ!」


「きっと、あの方が死の荒野(トート・ハイデ)を豊かな森に変えて下さったに違いない!」


「そうか! やはりこれは精霊の神子様が起こした奇跡だったのか!」


農民たちが兄様の元に続々と集まってきた。


農民たちが兄様の前にひざまずき、彼に向かって手を合わせた。


「精霊の神子様!!

 豊かな森を授けて下さり、ありがとうございます!!」


「これでモンスターに怯えずに生活出来ます!」


「毎晩、モンスターのうめき声に悩まされずに済みます!」


「感謝致します! 神子様!」


農民たちは口々に兄様にお礼を伝えた。


彼らは、この奇跡を起こしたのは精霊の神子である兄様だと思っているようだ。


そう思うのも無理はないよね。


「お前たちは礼を伝える相手を間違えている」


兄様の言葉を聞いた農民たちは、きょとんとした顔で首をかしげた。


「精霊の森に住む精霊に会い、

 白樺の枝を授かり、

 一夜にして死の荒野(トート・ハイデ)を白樺の森に変えたのは私ではない。

 ここにいるエアネスト・シュタイン侯爵だ!」


そう言って兄様が僕の肩を抱いた。


皆の視線が一斉に僕に集まる。

 

「この方が……新しい侯爵閣下?」


「閣下が、精霊様から白樺の枝を授かったというのか?」


「精霊様から物をもらうほど、閣下は精霊様に愛されているのか!?」


「そうだとしたら、侯爵閣下は精霊様の愛し子なのかもしれない……!」


「そうだ! そうに違いない! 彼は精霊の愛し子だ!」


「精霊様の愛し子に感謝申し上げます!!」


一人がそう言って僕に祈りを捧げた。



「「「「「精霊様の愛し子に、感謝申し上げます!!」」」」」



するとこの場にいた農民全員が、僕を拝み始めた。


人々に感謝され、拝まれることに僕は慣れていない。


僕は神様でも、精霊でも、精霊の愛し子でもない普通の人間だ。


こんなふうに人々に拝まれると、こそばゆくてしかたない。


「皆の感謝の気持ち、シュタイン侯爵としてしかと受け取りました。

 僕は精霊様に、白樺の枝をいただいたお礼を伝えにいかなくてはならない。

 精霊の森に行く為にしばしここを離れます」


人々に拝まれ続けるなんて、気恥ずかしくてたまらない。


今すぐこの場から逃げ出したい!


……でもその前に。


「この森は精霊様から頂いた白樺の枝から出来たものです。

 なので精霊様の許可なく、森で狩りや採集を行うことを禁じます」


民衆ががっかりした顔をした。


この森での収穫を当てにしていたのだろう。


「そんなに落ち込まないでください。

 森の資源を使用していいか、精霊様に尋ねてきます。

 だから精霊様の許可が下りるまで、森の木を切ったり、果物を採取したり、狩りをしたり、川や池で魚を取ったりしないで下さいね」


農民達はコクリと頷いた。


僕は後のことをカールに任せ、僕は兄様と一緒に馬車に乗り込んだ。





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