15話「第一王子ワルフリートと第二王子ティオ。顔に蚊が止まっていた。嘘ではない」
「陛下、エアネストの髪と瞳の色が変わった件、大変申し訳ありませんでした。
どうかわたくしに今一度機会をいただけませんか?
次は以前のエアネストより美しい金髪に、濃い青い目の子を生んでみせます。
今度は、途中で魔力を消失させるような子供には育てませんから」
ルイーサは今から僕の弟か妹を産むつもりらしい。
「うむ。
エアネストが希少な色を失ったことは気の毒であったが、そちに落ち度はない。
引き続き王妃として公務に励むように。
そなたは貴重なダークブロンドの持ち主。
もう一人子を儲けるることについても、前向きに検討しよう」
「ありがたき幸せですわ」
陛下もルイーサが子供を産むことに賛成のようだ。
「父上、王妃殿下との間にもう一人子を儲けるつもりですか?
エアネストが魔力を失った今、ローズブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ俺かティオが王太子の有力候補ではないのですか?
いえ、長男である俺こそが世継ぎに相応しい!
そうは思いませんか!?」
ワルフリートが二人の会話に割って入った。
脳筋ですぐ感情的になるワルフリートが、王太子に向いているとは思えない。
どちらかと言えば、頭脳明晰なティオの方が王太子に向いてると思う。
彼の皮肉屋な性格も、王太子になれば洞察力が鋭くユーモアのセンスがあると捉えることもできる。
「そうだな。
そなた達が何か大きな功績を立てた暁には、世継ぎの件を考えてやろう。
例えば魔王を倒すとかな」
ヒロインのソフィアは隣国に嫁いでしまった。
となると、魔王討伐はワルフリートかティオの単騎、もしくは二人が協力して行うことになるだろう。
二人でレベルを上げれば、ヒロインがいなくてもなんとかなるかもしれない。
「わかりました!
必ずやこの手で魔王を討ち取ってみせます!
ティオ、お前も俺に協力するよな?」
「ええ、兄上一人で旅をさせるのは心配ですからね」
ワルフリートとティオ、二人で魔王討伐に行くことに決めたようだ。
「王妃殿下、あんたの好きにはさせねぇからな!」
「ふん、貴方がたが帰国する頃には、わたくしはプラチナブロンドに青い目の子供を生んでいるわ」
「たく、口の減らないおばさんだぜ」
「なんですって!
ワルフリート、それが王妃であり継母である私に対する態度なの!」
ワルフリートとルイーサの言い争いが始まった。
「おばさんを相手にしても仕方ねぇや。
父上に睨まれたくもねぇしな」
ワルフリートはルイーサとの言い争いを止め、僕の所に歩いてきた。
「エアネスト、シュタイン侯爵領に行くのは寂しいだろう?
女装して俺の所に来れば、メイドとして雇ってやってもいいぜ。
髪は地味な色になったが、お前は顔の作りは良い。
魔力のない奴は俺の傍にはおかないんだが、お前は美形だから特別だ。
俺の傍に侍ることを許可してやるよ」
「ワルフリート兄上、それはいささか趣味が悪いですよ」
「ティオ、邪魔するな。
今まではエアネストは父上と王妃殿下の寵愛を受けてたから、手が出せなかった。
だがこれからは違う。
エアネストは王位継承権を剥奪され、ただの臣下に成り下がった。
俺がこいつに何をしようが誰も咎めない。
エアネスト、俺のメイドになれ。
お前だって辺境で動物やモンスターや辛気臭い村人に囲まれて侘びしく暮らすより、
王都で王太子になった俺に仕えた方が幸せだろう?
お前が踊り子の服を着て、セクシーな踊りでも披露してくれたら、俺が国王になった時、王位継承権を復活させてやってもいい……ぞ、ぐぼぉぁぁぁ……!!」
ワルフリートが全てを言い終わる前に、ヴォルフリック兄様が彼の顔面を殴っていた。
兄様に殴られたワルフリートが、床の上を無様に転がる。
「大丈夫ですか、ワルフリート兄上?!」
ティオが倒れているワルフリートに駆け寄る。
「ヴォルフリックてめぇ!
兄である俺に手を上げるとはどういう了見だ!!」
しばらくしてワルフリートは殴られた方の頬に手を当てながら、上半身を起こした。
「私が丸腰であったことに感謝しろ。
私が剣を所持していたら、お前の首は胴体とおさらばしていた」
兄様が人を殺すような冷たい目つきで、そう言い放った。
「ヴォルフリック、貴様〜〜!
病気が治って塔から出て来たばかりだってのにいい態度だな!
ガリガリに痩せ細って見る影もなくやつれてたら、からかってやろうと思ってたのによぉ!
長身のイケメンに成長して現れやがって……!
気に入らねぇ!
そんなに死に急ぎたいなら表に出ろ!
真剣で勝負してやる!
病が完治したとこ悪いが、
また一日中ベッドでおねんねして過ごす生活に逆戻りだな!
もしかしたら棺桶の中で永遠の眠りにつくことになるかもなぁ!」
ワルフリートがヴォルフリック兄様に決闘を申し込んだ。
ワルフリートの攻撃は通常時、ほとんど当たらないから、彼に勝ち目はない……と思う。
だけど真剣で勝負するなんて……。
万が一ってこともあるし、兄様の身が心配だ。
「やめんか!
ここをどこだと思っている!」
そんな二人を国王が一喝した。
「ヴォルフリックよ、何故ワルフリートを殴った?
理由を申してみよ」
「申し訳ありません陛下。
ワルフリートの顔に大きな蚊が止まっていたので、蚊を仕留めようとしたのです。
ですが、思ったより拳に力が入ってしまったようです」
ヴォルフリック兄様がサラッと嘘をついた。
「てめぇ嘘つくなよ!
蚊なんてどこにもいなかっただろが!」
兄様の言葉を聞いて、ワルフリートはさらに頭に血が上ったようだ。
「黙れワルフリート。
余はそちに発言を許していない」
「……申し訳ありません、父上」
国王に叱られ、ワルフリートはおとなしくなった。
「蚊か……。
ヴォルフリック、此度はそなたの言い分を信じよう。
だが、二度目はないぞ」
「承知いたしました、陛下。
謁見の間をお騒がせして申し訳ありません」
「父上!
何故、ヴォルフリックを庇うのですか!?
奴が精霊の血を引いているからと、ひいきするのはずるいです!」
ワルフリートが国王に抗議をする。
「そう吠えるなワルフリート。
余がヴォルフリックをひいきする理由を、そちはすでにわかっているではないか。
今後はヴォルフリックには構うな。
精霊を怒らせると面倒だ」
「しかし、父上……!」
「わかったな? ワルフリート」
「はい……父上」
国王に釘を差され、ワルフリートはしょんぼりしている。
「私を怒らせたくないのなら、今後二度とエアネストに構うな。
次は蚊を潰す程度の攻撃ではすまさんぞ」
「ヴォルフリック……クソが、調子に乗るなよ!」
「ワルフリート、余の命に背くのか?」
「いいえ、父上そのようなことは決して……!
ヴォルフリック、命拾いしたな」
ワルフリートはぶつぶつ言っていたが、一応は納得したようだった。
「陛下、お話が終わったようですので、私達はこれで失礼します」
「そうだな、ヴォルフリックとエアネスト、二人はもう下がって良いぞ」
「それでは陛下のお言葉に甘え、これにて失礼します」
「陛下、僕もこれで失礼します」
僕は兄様と共に国王に深くお辞儀をして、謁見の間をあとにした。
読んで下さりありがとうございます。
少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。




