13話「どんなときでも一緒だ。頼り甲斐のある兄様」
「恐れながら陛下に申し上げます。
第一王子か第二王子が時期国王になるのなら、その弟であるエアネストは、大公もしくは公爵の身分を与えられるべきです。
それを辺境の侯爵に封じると言うのですか?」
今まで黙って国王の話を聞いていた兄様が口を開いた。
兄様と繋いだ手が痛い。
きっと兄様は、無意識に力を込めてしまっているのだろう。
兄様が僕の為に怒ってくれているのがわかる。
今はそれだけで嬉しかった。
ヴォルフリック兄様は、九歳までしか王子教育を受けていない。
だけど彼は天才設定なので、九歳までに全ての王子教育を終えているのだ。
だから彼もシュタイン侯爵領がどんなところなのか、知っているのだろう。
「余の決定が不服か?」
「恐れながら、此度の決定には不満しかありません」
「兄様、僕のことはいいですから」
これ以上国王に楯突いたら、精霊の神子である兄様だってどうなるかわからない。
「エアネストがどうなろうと、精霊の神子であり第三王子であるお前には関係あるまい?
お前は教会と協力し、民の信仰を集める事を考えよ」
国王は兄様を実子として扱い、良いように利用しようとしているようだ。
「さすればお前の王位継承権をそのままにし、いずれは名家の令嬢との婚約も整えてやろう」
国王が兄様を脅してきた。
わかっていたことだけど、兄様はいつか名家の令嬢と結婚するんだよね……。
それは……嫌だな。
もう身分も違うんだから、気安く「兄様」って呼んではいけないよね。
気をつけよう。
「お断りします。
私の道は私が決めます。
それに私は永遠にエアネストの傍にいると既に誓っています。
名家の令嬢だろうと、誰だろうと結婚するつもりはありません」
「兄様……!
あっ、ごめんなさい。
僕はもう王子じゃないから、
気安く『兄様』なんて呼んではいけませんよね」
「悲しいことを言うなエアネスト。
身分がなんだ。
永遠に共にいようと誓った仲だろ?
これからもその愛らしい声で『兄様』と呼んでくれ」
「本当ですか?
嬉しいです!
ヴォルフリック兄様!」
謁見の間に入る前、兄様は僕の味方でいると約束してくれた。
その約束の通り、兄様は僕を守ってくれた。
「陛下、精霊の神子である私から一つお願いがあります。
地下牢から開放された記念に叶えていただけませんか?」
兄様の言葉には少しトゲがあった。
「そう言われると断れんな。
申すがよい。十三年分の誕生日祝いとして与えてやろう」
「エアネストがシュタイン侯爵領に行く時、私も同行させて下さい。
そしてそのままシュタイン侯爵領で暮らすことを許可していただきたい」
流石にそれは過分な願いな気がする。
国王は精霊の血を引く兄様の事を、信者を集めるために広告塔として使いたいだろうし。
兄様が王都を離れることを許可するとは思えない。
「近ごろの若者は恐ろしい、限度を知らぬのだからな。
確かに余はなんでもとは言ったが、ここまでの願いをされるとは思わなかった」
国王が兄様の願いを聞いて、眉間にシワを寄せた。
やっぱり兄様と一緒にシュタイン侯爵領に行くのは、難しいのかな?
兄様と一緒なら、どんな所に飛ばされてもやっていけるんだけどな。
「ヴォルフリックは、長い間病に犯され塔に隔離されていた。
なので病が全快した今、ひととき自由を味わいたいのだろう。
ヴォルフリックが病弱だったとは言え、十三年の間、息子を塔に隔離していた罪悪感もある。
お前に三年の猶予を与えよう。
その間に国中を見て回るとよい。
むろんシュタイン侯爵領に行きたいというなら好きにすればいい。
精霊にもそう伝えるがよい」
国王は「病」と「隔離」という言葉を使った。
これはつまりシュタイン侯爵領に行きたいのなら、地下牢に監禁されていたのではなく、病弱な為に塔に隔離されていたことにしろ。
精霊に余計な事を言うなと……そう念を押されてる訳だ。
「承知いたしました。
陛下のご温情に感謝申し上げます」
兄様は国王の要求を呑んだ。
「ただし猶予は三年だ。
三年経過したら王都に帰還し、予に仕え、名家の令嬢と結婚せよ。
良いな?」
「その件につきましては、承知出来かねます。
先ほどもお伝えしましたが、私は既にエアネストに永遠を誓った身。
彼との約束を違えることは出来ません。
最もエアネストを王都に戻し、彼を立太子すると言うのなら話は別ですが」
兄様は僕のことをそんなに気にかけてくれているんだ。
嬉しい。
兄様が僕の事を大切にしてくれているのが伝わってくる。
例えそれが同情でも、僕から魔力を奪ってしまった罪悪感からでも……兄様が傍にいてくれるのが嬉しい。
「ヴォルフリックよ、余の命に背く気か? 不敬だぞ」
「では、精霊と交信し事実を……」
「わかった。
もう良い。
好きにせよ」
「ありがたきお言葉。
陛下の寛大なお心に感謝申し上げます」
国王は兄様の要求を呑んだ。
こういう展開になるとは思わなかった。
おそらく国王は、精霊の血を引き自在に雨を降らせることが出来、民の信仰の対象である兄様を、敵に回したくはないのだろう。
「陛下の言質はとった。
エアネスト、共にシュタイン侯爵領に行こう。
私たちはどんなときも一緒だ」
「はい、兄様」
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
兄様とずっと一緒にいられることが嬉しくて仕方ない。
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