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12話「王位継承権の剥奪」



「その件はこれで終わりだ。

 本題に移ろう。

 エアネスト、その髪と瞳の色はどうした」


国王に指をさされ、僕はドキリとした。


兄様が国王は諜報員を沢山飼ってるって言ってた。


国王は僕の髪の色が変わった理由を知ってる。


その上であえて僕の口から事実を聞き出したいんだ。


どうしよう……?


本当の事を言った方がいいかな?


でもそうしたら兄様の立場が。


「心配するなエアネスト。

 そなたが本当の事を言ったところで、私は傷ついたりしない」


兄様が僕にだけ聞こえるように囁いた。


「兄様……」


「エアネストは光の魔力を私に譲渡したのです。

 その結果、彼は魔力を失い、髪の色と瞳の色が変わってしまいました」


僕がなんて発言しようか考えあぐねている間に、兄様が説明を終えていた。


うう……兄様に面倒な事を押し付けてしまった。


「なるほど。

 エアネストは精霊の神子の復活の為に、自らの魔力を犠牲にした訳か」


国王はそう言って自分のあごひげを撫でた。


その通りなんだけど、そんな言い方しなくても……。


「エアネスト、わかっているとは思うが、

 お前が王太子の最有力候補だったのは、

 お前がプラチナブロンドの髪と濃い青い目を持っていたからだ」


「はい、知っています」


「いっときは余も、お前をソフィアと結婚させ、優秀な世継ぎが生まれる事を期待していた。

 ソフィアもプラチナブロンドの髪と濃い青い目を持っていたからな。

 しかし、ソフィアは隣国に嫁ぎ、エアネストは魔力と共に金色の髪と青い目を失った」


「はい」


「余にはお前の他にも二人の息子がいる。

 第一王子のワルフリートと、第二王子のティオ。

 二人はローズブロンドの髪と、エメラルドグリーンの瞳を持っている。

 プラチナブロンドの髪と濃い青い目を持つソフィアには劣るが、

 ワルフリートもティオも王太子として民の前に立たせても恥ずかしくない見た目をしている。

 今のそちと違ってな」


「はい、存じております」


国王は濃い茶色の髪に灰色の目をした僕は王族に相応しくないといいたいようだ。


覚悟はしていた。


「エアネスト、誰よりも輝く金の髪と、瑠璃色(るりいろ)の瞳を持って生まれたお前は、昨日まで余の自慢の息子だった。

 息子の中から王太子を選ぶのならお前だと思っていた」


「……」


「しかし……お前は魔力を失い、同時に金色の髪も青い目も失った。

 濃い茶色の髪に灰色の目など、貴族は愚か、平民にもそうはいない。

 お前が余の息子として城内を歩く事を、余は不快に感じる。

 わかるか?

 お前は金色の髪と青い目を失った瞬間、余の自慢から恥になったのだ」


国王に言われても、僕は何も反論できなかった。


この世界で金髪碧眼の人間が尊ばれることは知ってたけど、濃い茶髪に灰色の目の人間が、そんなに蔑まれているとは思わなかった。


「本日只今を持って、エアネストの王位継承権と王子としての身分を剥奪する」


わかっていたことだ。


金髪碧眼でなくなった僕に、国王がなんの価値も見出さないことは……。


「しかし余も人の親だ。

 息子が平民になり野垂れ死ぬとわかっていて、城から無一文で追い出したりはせぬ。

 そなたをシュタイン侯爵領の侯爵に封じる」


「謹んで拝受いたします。

 陛下のご温情に深く感謝申し上げます」


王位継承権を剥奪されたのは悲しい。


だけど……今僕に出来るのは、そう言って頭を下げることだけだった。


シュタイン侯爵領はゲームでも出てきたから知ってる。


エアネストは勉強熱心だったらしく、国中の領土について調べていた


シュタイン侯爵領についての知識も少しだけある。


シュタイン侯爵領は、王都の北にある貧しい土地だ。


冬の期間が長く、夏でも涼しく、九月になると肌寒い。


十一月には黒く厚い雲に覆われそれは三月まで続く。


乾燥した地域なので、寒くても雪はそれほど降らない。


三月には冬が終わるが、本格的に暖かくなるのは五月を過ぎてからだ。


畑で農作物を作れる期間は五月から十一月までの間。


石灰岩を含む痩せた土地が多いので、作物の収入はあまりあてにできない。


特産品もなく、観光客を呼べる名所や遺跡もない。


加えて今年は作物の育つ時期に日照りが続いた。秋の収穫は思わしくないだろう。


領都であるフェルスの町の北には、荒野が広がり、それはシュタイン侯爵領の領地の半分をしめている。


温かい土地の湿地なら稲作とかができるのだが、寒い土地のからからに乾いた荒野は利用法がないのだ。


その上荒野には毒とか麻痺とか混乱などの厄介な特技を持つモンスターが数多く生息している。


それ故、シュタイン侯爵領の荒野は死の荒野(トート・ハイデ)と呼ばれ、ベテランの冒険者でも近づかない。


森林が多くを占める土地なら、森を開拓し農地にすることも出来るのだが。


シュタイン侯爵領で森とよべる場所は、フェルスの町の東にある小さな森だけ。


そこは精霊が住むと言い伝えがある聖域。


なので絶対に開拓をしてはいけない。


シュタイン侯爵領は、王家の直轄地になっていて、長年当主がいなかったはず。


そのような貧しい土地で、領主まで不在だったとしたら……領民の暮らしがどうなっているのか心配だ。


「そなたは今日から第三王子エアネスト・エーデルシュタインではない。

 シュタイン侯爵だ、わかったな?」


「はい、陛下」


もう僕は国王のことを、「父様」とは呼べないのだな。


僕はこの瞬間、宝石(エーデルシュタイン)ではなく、ただの(シュタイン)になった。


 



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