表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

一緒にクエストを受けた話3

※※※


ようやく溜まっていた仕事が片付いた。

アルトとは二週間弱会っていない。

少しでも会えなかった時間を埋めようと考えて、らしくもなくウキウキと冒険者ギルドにやってきたのだ。

アルトの動向は、護衛達から報告が上がっていたので把握していた。

だから、真っ直ぐ冒険者ギルドに来たのだ。

護衛達は僕と入れ替わりで帰らせた。


これで久々にのんびりと二人で食事ができる、と考えていたのだが、


「魔物使いの盗賊退治かぁ」


「えぇ、このままにも出来ないんで、今すぐ向かおうかと」


アルトは盗賊退治に立候補していた。

というのも、先行した冒険者たちが返り討ちにあったというのだ。

何人か死亡したらしい。


僕は、アルトを観察する。

僕を助けた魔法は使っていないようだ。

そのことに安堵する。

亡くなった者には悪いが、彼がほいほいとあの魔法を使わなかったことにホッとした。

そのことを、それとなく聞いてみた。


「あー、あれは不確定要素が多いんです。

そんな頻繁に使えないですよ。

だから、ニクスさんで実験したんですもん」


どう反応すれば正解なのかわからない返答である。

それに、と更にアルトは声を低くして説明してくれた。


「こんな大勢の前でつかったら、どうなるかくらい理解してるつもりです。

あいにく、生贄になるようなことはしたくないです」


理解しているのなら、とくに蘇生魔法について僕からこれ以上言うことはなかった。


「じゃ、僕も着いてくよ。

デスクワークで体が鈍ってたしね。

ちょうどいいや」


「え、いいんですか?!

めっちゃ嬉しいです!」


「そ、そう??」


これだけ嬉しがられると悪い気はしない。

こうして、僕たちは盗賊退治に出発した。


僕は自身に身体強化魔法をかけ、アルトは手持ちのポーションで身体強化を行った。

そうして村まで走る。


「…………」


併走するアルトを見やる。

魔族の僕についてこれてる。


「なんですか?」


僕の視線に気づいて、アルトが話しかけてきた。


「身体強化のポーション、あとで体に反動……負担が来たりしない?」


「大丈夫ですよ、これくらい。

負担に入りません」


ということは、あとで少なからず反動があるわけだ。

いや、それだけじゃない。

確信はないが、アルトはなにかを隠してる。

なにかを……。

主に、魔力についてだ。

彼に魔力が無いのは、本当に先天的なものなのかどうかも疑問が残る。

でも、僕はまだそれを指摘できない。

僕は彼の友人でしかないのだから。


ズカズカと彼のセンシティブな部分に、触れることはまだできない。


「……体、辛くなったらいつでも言ってね」


「だから大丈夫ですって」


カラカラとアルトは笑ってみせた。

こういうところが、危ういのだ。

出来ることなら、今すぐにでも連れ帰って閉じ込めるくらいしたいが。

そんなことをしたら確実に嫌われてしまう。

なによりも、自由を愛してる彼にはものすごく失礼な事になってしまう。


「その言葉、信じるよ」


僕の言葉に、アルトはものすごく微妙そうな顔をした。

嫌悪感とは少し違う。

こう、歯の間になにか物がはさまったかのような、そんな顔だった。


アルトは顔にいろいろ出やすいタチだ。

それを1ヶ月半ほどで知れた。

特にお菓子だ。

お菓子を与えると、それはもうとびきりの笑顔を見せてくれる。

だからついつい、甘やかしてしまうのだ。

今日だって、本当なら手土産に菓子を持ってくるつもりだったのに、食べさせすぎは虫歯になるからダメ、とディーに言われてしまったのだ。

アルトは食事前に食べてしまうだろうとも指摘された。

夕食が食べられ無くなってしまうからダメ、とさらに言われてしまったのだ。


「それはそうと、確認しておきたいんだけど」


「確認?」


「盗賊が居座ってる村って、ルリン村だったよね?」


「えぇ、そう聞いてます」


ルリン村。

冒険者ならまず確実に訪れたことのある村だ。

というのも、この村、薬草が特産品なのである。

それを定期的に王都に卸している。

ただ、薬草を育てる環境を整えるために、馬車は村に近づけない。

最寄りの停留所から歩きで向かわなければならない。

しかも、途中には魔物が出る。

低級の魔物なら村人でもなんとか対処できるが、村人の最優先事項は薬草を育てることである。

低級とはいえ魔物に襲われて、怪我でもしたら大変である。

そこで、冒険者の出番というわけだ。

それも、新人の。

新人冒険者にとって、村から薬草を運んでくるお使いクエストは、仕事としてちょうどいいのだ。


「今まで盗賊に襲われた、なんて話聞いたこと無かったけど」


「ですね。

村の稼ぎは、基本薬草畑の維持で消えますし」


農具の買い替え、手入れ、村人総出で働いているからその人件費。

村として蓄えがあったとしても、常識の範囲内だ。

盗賊が狙うような、いわゆる【お宝】があるわけではない。

育てている薬草は、たしかに価値がある。

でも、それならさっさと畑にある薬草を取って行方をくらませた方がいいはずだ。


「だとするなら、なんで盗賊は村人を殺して、村を占拠したのか??」


疑問を口にした時だ。

アルトが走りつつ、それとなく周囲を警戒していることに気づいた。

そこで、ようやく僕も気づく。


見られている。


アルトを監視していた者たちが、追いかけてきたのだ。

僕も合流したことも関係あるのかもしれない。


しかし、殺気はなかった。

ただ、見ている。

それだけだ。

それだけなのに、これはこれで気味が悪いというか、妙な気持ち悪さがあった。

情報収集が目的なのはわかっている。

しかし、なんだろう?

ほかの魔王候補が送り込んだ監視役にしては、妙な違和感がある。


いや、混じっている??


明らかに異物が混じりこんでいる気配がする。


「魔法で監視されてますけど、気にしないでください」


ぽつり、とアルトが言った。


「魔法で?」


聞き返す。

すると、アルトは盛大なため息を吐き出した。


「あーあ、みつかっちゃったなぁ」


「見つかった??」


僕の疑問に、アルトは答えない。

しばし、沈黙したかと思ったら、


「……ニクスさん、ニクスさんは俺の事、本当に信じてます??」


唐突に、アルトはそう聞いてきた。


「さっき、言いましたよね?

信じるよ、って。

あれ、俺の事全部信じてくれるって事でいいんですよね?」


「どうしたの?急に??」


「教えてください。

ニクスさん。

俺の事、本当に信じてくれますか?」


本当に急にどうしたと言うのだろう?


「信じるよ」


軽薄にならないよう、気をつけて返した。

どこか不安そうな彼が安心できるように、返した。


「ありがとうございます。

それじゃ、一つ予想を話します」


「予想?」


「この一件、もしかしたら【アリステア家】が関わってるかもしれません」


「え、そうなの??

なんでまた??」


【アリステア家】というのは、魔法に関しては名家中の名家だ。

魔核の移植方法等を開発したのもこの家である。

しかし、なんでまたそんな名家が今回の盗賊騒ぎに関わっているのか。

全く繋がらない。


「詳しいことは、この件が片付いたらお話しますよ」


アルトの中では今回の件と、【アリステア家】になにか繋がりが見いだせているようだ。

もしかしたら、アルト自身が【アリステア家】となにか関わりがあるのかもしれない。

彼の魔法知識、技術からして、もしかしたら【アリステア家】で学んだことがあるのかもしれない。

あそこは門下生を多数抱えている。


しかし、すぐにその考えをふりはらう。

有り得ない。

そんな記録があれば、すぐにわかったはずだ。


「それじゃ、君の大好きなチョコレートを用意しておこう」


「楽しみにしてます」



しばらく走り、僕たちは村近くにある馬車の停留所へたどり着いた。

ただの乗り合い場所なので、今は無人である。

すでに陽は落ちて、宵闇に包まれている。


村へ続くのは、踏み鳴らされた獣道のような細い道である。

それが、森の中へ続いていた。

くわえて、なにやら焦げ臭い。


「索敵してみるね」


「お願いします」


僕は魔法を展開した。

魔法陣が足元に現れ、発光する。


「ふむ」


「なにかわかりました??」


「中々の相手のようだ。

ドラゴンが五頭。サイクロプスが十頭ほど。

ほかにも中級から上級モンスターがわらわらいる。

これじゃ、餌代だけで破産してもおかしくない」


とりあえず、作戦を練った方がいいだろう。

無闇に突っ込んでいけば、ほかの冒険者の二の舞になりかねない。

アルトへ作戦のことを提案しようとした、瞬間。


「……は?!」


思わず間抜けな声がでてしまった。

というのも、村やその周囲にあった魔物の気配が一斉に動き出したのだ。

そして、それを予想していたのかアルトが先に動いた。


「アルト!?」


アルトはしかし、僕の方を振り返らず真っ直ぐに獣道へと突っ込んで行った。

それを僕も追いかける。

魔族のように、夜目がきくわけでもないだろうに、アルトはすいすいと月明かりもない真っ暗闇のなかを走り抜けていく。


(魔法をつかっている、わけじゃないか)


補助魔法もなにも使わずに、彼は走っていく。

ポーションすら飲んでいない。


「このことも、あとで聞いてみるか」


彼には秘密が多すぎる。

そんなことを呟いた瞬間だった。

複数の咆哮がとどろいた。

ドラゴンの咆哮だ。

見上げれば、ドラゴン五頭が炎を吐き出そうとしている。


「焼け野原になっちゃうよ」


僕は、トンッと跳躍する。

そして、所持していた剣を一振した。

全てのドラゴンの体が、同時にいくつかの塊にわかれ、落ちていく。

吐き出そうとしていた炎は不発におわった。


自由落下に任せて、着地する。

その時に見た。

暗がりではあったけど、森のところどころに焼けた跡があった。

少し、開けた場所に着地できた。

かと思ったら、今度はサイクロプスに取り囲まれてしまう。


「運動にはほんと、ちょうどいい」


魔法を使わず、ただ純粋に己の肉体のみで戦うというのは、デスクワーク明け後には中々いい運動になった。


そうして気づくと、ほかの魔物含め倒していた。


アルトの気配を探る。

どうやら、村の中心にいるようだった。

件の盗賊をふんじばっているか、盗賊が抵抗したなら退治しているだろう。


僕は村の中心へむかった。

そこは村長の家だった。

村のあちこちには、抵抗したであろう村人の死体が転がっている。

死んでいないものは家の中で息を潜めているらしかった。

視線を感じるのだ。


唯一明かりが灯っている、村長の家へむかう。

すると、家のドアが開いた。


現れたのはアルトだった。

血に染まっている。

その手には球体のようなものが見えた。


男の首だった。

おそらく、切り取ったのだろう。


アルトはそれを片手で掲げると、宣言した。


「盗賊は退治しました!!

安心してください!!」


その宣言が聴こえたのだろう。

恐る恐るといった感じで、村人たちが姿を現した。


こうして、盗賊退治は彼が宣言したように呆気なく終わったのだった。


その後、この事を報告するため、村人たちへの説明もそこそこに直ぐに僕たちは冒険者ギルドへ取って返した。

盗賊の首は、アイテムボックスに入れてある。


その道中でのことだ。

アルトが、糸の切れた操り人形のように倒れてしまった。


「アルト?!」


慌てて、抱き起こす。

彼は、気絶していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ