【求婚】助けた人が魔族の王子様だったの(´;ω;`)【された】
数日後。
俺は再び離宮を訪れていた。
前回は食堂に案内されたが、今回は応接間だった。
王子様とはテーブルを挟んで向かいあった。
挨拶もそこそこに、俺は返事するため言葉を吐き出すようにして話し始めた。
「あの、まだ出会ってお互いのことをよく知らないじゃないですか、俺たち」
「そうだね。
僕は君のいいところはともかく、悪いところは何も知らない。
逆もまたしかり、だ」
俺は小っ恥ずかしいセリフを吐くくらいしか、あなたのこと知りませんよ。
とは、さすがに言えないので笑って誤魔化した。
「だから、よく知るためにもまずは友達からはじめませんか?」
「それは婚約を前提にしたものかな?」
「いいえ、恋人としてお付き合いすることを前提としたお付き合いです。
だから、友達からはじめませんか?」
スレ民にも書き込みされたことだが、どうせ俺からは断ることなんて出来ないのだ。
よほど上手くやらなければ、逃げることもできないだろう。
なら、これまたスレ民が掲示板に書き込んでいたように、自分が変わるしかない。
反抗的になって飼われるか、従順になって飼われるかしかない。
それなら、まだ従順になった方が可愛がられるだろう。
魔族は一途だということだが、何事にも例外はある。
この人から俺への興味とか好意が消える可能性だってありうる。
それこそ見目麗しいお姫様が現れたらさっさと捨てるに違いない。
宝石と石ころの違いでしかないのだ。
そして、俺は石ころの自覚くらいある。
まぁ、利用価値のある石ころだったことがあるからだけど。
「……いいよ。
君がそれを望むなら」
おや、あっさりだ。
本当に話を聞いてくれた。
「でも、いつまでも友達のままという訳にはいかないよ。
どこかで前に進まないといけない」
「わかってますよ。
王子様が俺に好意をもってるなら、俺も王子様のことを好きにならないといけないでしょう。
だから、四年、俺が二十歳になるまでを期限としませんか?
四年あったらお互いのことを知るにはじゅうぶんかなって思うんです」
「ふむ、たしかに。
僕は君のことが好きだけど、君は僕のことを好きじゃないんだもんね」
この人、脳内が恋愛お花畑かとおもったら違うみたいだな。
ちゃんと、見てる人だ。
「……すみません」
「いいよ。もとより種族が違うんだ。
友達からのほうが、いろいろ知れて楽しそうだしね」
種族だけではなく、育ってきた環境も考え方も何もかもが違う。
そのこともこの人は理解しているのだろう。
少しだけ嬉しそうに王子様は続けた。
「気の置けない友人なんていなかったから、嬉しいよ」
改めて、お互い自己紹介をする。
そうして俺たちは友達になったのだった。
「とりあえず、お互いを知るために今度遊びにでも行きますか?」
冗談めかして、俺は提案した。
「いいよ」
なんて、あっさりすぎるほどあっさりと、王子様は頷いてみせた。
そこからは、おしゃべりの時間となった。
お互いの趣味からはじまって、お互いの許せること許せないことを話した。
雑談だけれど、その内容はお互いの価値観諸々のすり合わせだ。
そうして、しばらくすると会話が途切れてしまう。
見計らっていたのだろう、絶妙なタイミングで王子様は聞いてきた。
「ところで、なんで君は僕を助けた時、女の子の格好をしていたの??」
え、え~??
今聞くの??それ??
「ああいったデザインの服が好みなの?」
「……いや、好みではないです」
「じゃあ、いったいなんであの時、女の子の制服なんて着てたの??」
どうする?
話すか?
別に俺が隠さなくたって、掲示板は冒険者の間で流行りつつある。
いつかは、王子様みたいなやんごとなき人達の耳にも入るかもしれない。
ここまで話してみて、この人は少なくとも俺が今まで接してきた人達――主に実家の連中だが――とは違うようだということはわかった。
「あー、えーと、見てもらった方がはやいかな?」
「?」
「王子様、今日のご予定は空いてたりしますか?」
錬金術ギルドへ連れて行って、術式札を購入してもらった上で説明をした方が早い。
そう考えての提案だった。
しかし、王子は少し残念そうな顔をしている。
どうしたのだろう?
「ニクスだよ」
「はい?」
「僕の名前」
「知ってますけど」
さっき自己紹介をしたから改めて言うことでもない。
「名前で呼んでほしいな」
「ニクス様?」
「友人なら呼び捨てでも構わないだろ」
「親しき仲にも礼儀あり、ですよ」
「だめ?」
顔がいい人が、おねだり顔するんじゃないよ。
これで女の子何人落とせるかわかってるのか、この人。
「だって、俺たちまだ友達になったばかりじゃないですか。
様付けじゃないなら、さん付けはどうですか?」
「仕方ないか」
「あ、俺の事は呼び捨てでいいですよ。
じゃないと示しがつかないでしょ」
「むぅ」
少し不服そうだったけど、王子様ことニクスさんは了承してくれた。
「はい、決まり。
それで、これからの予定は空いてますか?」
彼は頷いた。
そうして、俺はニクスさんを錬金術ギルドへと連れて行った。
その道すがら、もろもろを説明する。
俺の話に、ニクスさんは興味をもったようだった。
――――――――
――――
――……
740:スレ主
ε-(´∀`;)ホッ
良かった
まだ残ってた
741:名無しの異種族
あ、スレ主だ
742:名無しの異種族
猶予期間もらえた??
743:スレ主
もらえた
話しあって、色々意見の擦り合わせしたら
順調すぎるほど、こっちの話聞いてくれた
こんなん初めてだ(´;ω;`)
744:名無しの異種族
今まで、よほど話を聴いてくれないヤツばっかりだったのか??
745:スレ主
まぁなー
746:名無しの異種族
今北産業
747:スレ主
三行なんてかからず説明できる
748:スレ主
通りすがりの魔族から教えて貰った
【魔法の言葉】で猶予期間もらえた
749:名無しの異種族
あぁ、アレかwww
750:名無しの異種族
魔法の言葉って??
751:スレ主
「まずはお友達からはじめましょう」
752:名無しの異種族
Www
753:名無しの異種族
それ聞いて、王子様の反応は??
754:スレ主
きょとんとして
それから嬉しそうにしてた
755:スレ主
そのあと、意見の擦り合わせして
とりあえず、俺が二十歳になるまで猶予期間もらった
それまでは、交際を前提とした友人としてのお付き合いということになった
756:名無しの異種族
え、スレ主、もしかして10代??
757:スレ主
16歳
758:名無しの異種族
王子様いくつよ?
759:名無しの異種族
たしか、スレ主とそう差はなかったはず
760:スレ主
二つ上って言ってたから
18歳だったはず
761:名無しの異種族
嬉しそうに、ってなんでまた
762:スレ主
気の置けない友人がいなかったんだって
だから、友達が出来てうれしい、って言ってた
763:名無しの異種族
御学友くらいいるだろ
764:名無しの異種族
王子様、ボッチか
765:名無しの異種族
まぁ、こんなところか
766:名無しの異種族
スタートとしてはいいんでないか??
767:スレ主
いやぁ、無理やり慰み者にされるかと身構えてたから
普通に会話のやりとりできる人で良かった
768:名無しの異種族
スレ主のこれまでの人間関係が気になるな
769:名無しの異種族
たしかに、気になる
770:スレ主
とりあえず、今度一緒にクエスト行くことになった
771:名無しの異種族
デートか
772:名無しの異種族
デートかな?
773:名無しの異種族
いや、友達なら
普通に遊びに行く、だろ
774:名無しの異種族
一緒に行くのがクエストな件に誰も突っ込まないの草
775:スレ主
あ、あと、意見を擦り合わせた時に
なんで女装してたのかって聞かれてさ
776:名無しの異種族
うん?
777:スレ主
王子様、いい人みたいだったから
スレのこと教えた
778:名無しの異種族
マジかー
779:名無しの異種族
匿名性の意味よ
780:スレ主の友人
来た
781:名無しの異種族
あwww
782:名無しの異種族
来ちゃったwww
783:名無しの異種族
え、ガチ??
この書き込み、ガチ??
784:スレ主の友人
がち??
785:名無しの異種族
>>784
スレ主が助けた王子様本人ですか??
786:スレ主の友人
( ゜ー゜)ウ ( 。_。)ン
787:名無しの異種族
絵文字をつかっている、だと?!
788:名無しの異種族
初めてなのに、この王子、できる!!
(; ・`д・´)ゴクリンコ
789:スレ主
とりあえず、相談のってもらったから
今回は報告しとこうかなって思って書き込みにきた
790:名無しの異種族
王子様王子様
4年後までに、スレ主を惚れさせる自信はいかほど??
791:スレ主の友人
がんばる
792:名無しの異種族
不慣れ感がかわいいなwww
793:名無しの異種族
是非とも頑張ってほしい
794:名無しの異種族
いつでも相談乗るんで
スレ立て、書き込みはお気軽に
(*•̀ㅂ•́)و✧
795:スレ主の友人
(*꒪꒫꒪)( ._.)(*꒪꒫꒪)( ._.)
――――――――
――――
――……
「さて、初めての書き込みはいかがでしたか?」
「おもしろかった」
とりあえず、報告も兼ねてニクスさんとのことを掲示板に書き込んだ。
ニクスさんも、俺の説明を聞いた上で書き込みをしたいと言ったのでやらせてみたら、想像以上に感動してくれた。
けれど、スレッドの最初の方を読んでいたかと思ったら、暗い顔になった。
「どうかしました?」
「……いや、なんでもないよ」
それから、ニクスさんは他の人の建てた掲示板を見て回っていた。
暗い顔はすぐに消えていた。
そのかわり、とても楽しそうに読み込んでいる。
「ニクスさん」
「なに?」
ニクスさんは掲示板から俺へ、視線をうつす。
「とりあえず、一緒にいくクエストでも見に行きませんか?」
提案すると、ぱあっと彼が嬉しそうに微笑んだ。
「うん、いいよ」