求婚を断るために相談しようと決めた話
「あの、俺、男なんですけど」
「知ってるよ」
「子供つくれないですよ?」
「同性同士なら当たり前じゃない」
「いや、そうじゃなくて」
アルトは戸惑って、どう説明したものかと言葉を選んでるらしかった。
その様子に、ようやく僕は人間族にとって同性愛は少ないことを思い出した。
最近は増えてきているらしいこともついでに思い出す。
僕はその辺の魔族の価値観を説明した。
彼は元旅人で、同性愛や同性婚を認めている国、認めていない国、どちらも見てきたから説明の飲み込みは早かった。
この国でも、同性婚はふつうであることも説明する。
「えっと、なんで俺なんです?」
また、控えている側近や今度は給仕たちをちらちら見ながら聞いてきた。
「好きになったから」
簡単でわかりやすい言葉を選んでみた。
その言葉に対する反応を観察する。
彼に嫌悪感はなかった。
そのことにも安心する。
「好きになったって、なんでまた??」
心底、わけがわからないと言いたげだ。
「わからない?」
「まったく」
「なら、言い方を変えよう。
僕は命を助けてくれた君を、愛してしまったんだ」
そこで、なぜか【好き】という言葉にはまったく反応しなかった彼の顔が真っ赤に染まった。
耳まで真っ赤だ。
ちょっとおもしろい。
「あい……って」
「僕は君を愛している」
真っ直ぐに、想いが伝わることを願って、彼の目を見て告げる。
アルトは、顔を真っ赤にしたまま俯いた。
そして、小さく言葉を返してきた。
「すこし、考えさせてください」
いきなり呼びつけて、こんな話をされたら、まぁそう
なるだろう。
予想はできた。
これが一方的な、僕だけの感情だともわかっている。
それでも伝えたかった。
言葉にしなければ、そもそもなにも伝わらないのだから。
アルトの顔はずっと赤いままだったけれど、それでも用意した食事は楽しんでくれた。
僕との会話も、嫌そうではなかったと思う。
そうして、僕としては楽しい時間を過ごせた。
彼の返事が待ち遠しくもあり、少し怖かった。
断られたらどうしよう、という気持ちが今更にわいてきたのだ。
しかし、僕のそんな感情は無視してディーがポツリと言った。
「そういえば、何故彼は女装してたんでしょう?」
言われてみればそうだ。
些細なこと過ぎて、聞くのを忘れていた。
※※※
「おわったー」
俺は、帰宅するとベッドに倒れ込んだ。
なんだったんだ、今日の出来事は。
数日前にいきなり離宮での昼餐の招待状が届いたと思ったら、差出人が魔族の王子様だった。
それも、先日実験台にして助けた人だった。
魔族なのは知ってたけど、王子だったなんて聞いてないよ。
いや、聞く前に報告スレ建てる必要があったから帰ったのは俺なんだけど。
招待状に関しては、配達間違いかと思って問い合わせてみたら、間違っていなかった。
急遽、手持ちの服を確認した。
着ていけるようなものがなかった。
仕方ないので、貴族で吸血鬼の知り合いに相談しお古をいくつか貸してもらい、それを着ていった。
なにか言われるだろうか、と思ったが意外と大丈夫だった。
お古に気づかれたとしても、失礼では無い程度のドレスコードは守っていたはずだ。
それで行ってみたら、なぜかプロポーズされるとか。
なんなん、俺の人生。
やっと自由になれたのに。
また縛られるとか、無いだろ。
断りたい。
まじ、断りたい。
こういうのは、アレだ。
雑用もろもろでこき使われてる女の子が夢見るシチュエーションだろ。
なんで俺?
ねぇ、なんで俺なの??
加えて、なに、あのプロポーズの言葉。
――君を愛してしまった――
ただでさえ美形がいうと、破壊力半端ないな。
それも本物の王子様が言うんだから、やばかった。
かっけーな、とか思っちゃったじゃんか!
おとぎ話は現実に存在するとか、マジか。
「ヴォヴォヴヴヴ!!!!」
枕に顔を埋め、俺に向かって吐かれた言葉を思い出して身悶える。
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛、と叫んだものの枕によってくぐもった呻き声にしかならなかった。
彼を助けたことは後悔していない。
実験台、とは言ったものの、それは彼がやけに心配そうな顔を向けてきたからだ。
だから、すぐに察した。
あの時、俺がなにをしていたのかこの人はわかっている。
でも、すぐに認める訳にもいかなかった。
正直に話すわけにはいかなかった。
だから、なんとか誤魔化そうとしたのだ。
嘘をついて、真実を隠そうとしたのだ。
研究のことを突っ込まれるのを心配したわけじゃない。
あの魔法は誰かの命を喰らうことに変わりは無い。
この場合は、俺の寿命になるが。
その事実に嫌悪感を抱いてほしくなかったのだ。
さすがに、そんな感情を抱かれると俺の心が折れる。
感謝されようとおもったわけでも、ましてやあの人が俺に惚れるなど思ってもみなかった。
ましてやそれらを期待したわけでもない。
いまだに自分に向かって吐かれた言葉に赤面してしまう。
しかし、収穫もあった。
「後遺症が無くてよかった」
そう、雑談の時に確認したのだが、彼にあの魔法の後遺症が出ていなかったことに本当に安心した。
「でも、どうするか。
どうやって断るか」
俺は、盛大にため息を吐く。
目下、プロポーズを如何にして断るか考えなければならない。
と、そこで思いつく。
「玩具にされてもいいから、相談するか」
なにかと便利な【掲示板】で相談すればいいのだ。
これは、最近一部の冒険者の間で流行りつつある、交流ツールだ。
錬金ギルドの方で開発された術式札を購入すると、購入したものだけが見られる枠が現れる。
その枠の中には、掲示板と呼ばれる書き込みをして他者と交流できる場が用意されているのだ。
しかも、すごいことにこの掲示板は、こことは別の世界とも繋がっている。
相談ジャンルだけではなく、ちゃんと世界ごとに掲示板がわけられているのだ。
今日はとりあえず、俺のいる世界を選んで掲示板を立てた。
ジャンルは総合的な相談ジャンルだ。
あとは、題名だ。
「タイトル、スレタイ……」
掲示板には題名をつけなければならないのだ。
少し考えて、身バレ覚悟でタイトルをつけた。
【求婚】助けた人が魔族の王子様だったの(´;ω;`)【された】
よし、これで興味を引かれたスレ民が群がってくるはずだ。