再会までのあれこれ
魔眼保持者は特定班である。
そのため、アルトの居所をすぐに見つけることができた。
王都から離れた地方都市周辺で、冒険者活動をしているということだった。
ニクスがお忍びで向かうには離れすぎている。
しかし、彼は向かうことを前提に仕事とスケジュールを調整した。
婚約したい者に会いにいく、ということは側近たちには伝えてあった。
だからだろう。
今まで浮いた話がなく、近寄ってくるのは暗殺者か恐れ多くもニクスを利用しようとする者ばかりだった。
けれども、今回はニクスから会いにいくというのだ。
いったい何処で、そこまで執心する相手に出会ったのか、気にはなったがニクスがそうして信じられる者ならば、と側近たちも力を貸した。
こうして、ニクスは魔眼保持者を伴って旅立つことになったのだった。
普段はディーやアンが護衛につく。
しかし、今回は無しだ。
魔眼保持者が適任だから、と説明した。
乗り合い馬車に揺られながら、魔眼保持者はニクスへアルトの現状を説明する。
温泉のくだりにまで来た時に、ニクスは声を上げた。
「はぁ?!温泉??ふたりで??」
「疲れたから休みたいってことで、行くのを決めた見たいですね」
だから、途中で行き先を変更する、と魔眼保持者は伝える。
一度訪れたことのある場所なら、魔法で行けるのだが、向かっていた街も、温泉街も魔眼保持者は訪れたことがなかった。
だからこうして馬車を使うしかないのである。
「ふざけるなよ?!」
「家族向けとしても有名な場所なので、変な場所ではないですよ」
そんな会話に、乗り合わせたもの達が素知らぬ顔を装いつつも耳だけ大きくして聞き入っている。
ニクスの恋人が、ほかに愛人を作って逃げた、と解釈する者が多かった。
それがわかってしまったから、魔眼保持者はため息をついて、魔法を発動させた。
乗客たちに聞かれないようにするためだ。
最初から魔法をつかえばよかった、と魔眼保持者は後悔している。
今は、別の会話に変換されている。
「あぁ、安心してください。
まだ体の関係は無いようです」
「…………」
「王子、よかったですね。
最初の頃に無理やり手篭めにしなくて。
セナには何度か襲われてはいるみたいですけど、その度に派手に拒絶してるので」
「おそ……」
「それでも一緒に旅してるなんて、アルトの神経を疑いますけど。
普通は逃げますよ。
まぁ、逃げられないんでしょうね。
アルトはセナのことをそういう意味では好きではない。
でも、家族としては好きだから傍に置いている、といったところでしょうか。
妙な共依存関係、みたいな感じもします。
まぁ、専門家じゃないんでほんとのところはどうかわからないですけど」
「そんなことまで、どうしてわかるんだ??」
「魔眼で見ましたから。
あぁ、アルトの許可を得た上で、アルトの中にあるセナの記憶を読んだんです。
ほら、対策するには情報が必要ですから」
シレッと魔眼保持者は言った。
※※※
温泉街に着いて、アルトたちのことを捜した。
すぐに、見つけることが出来た。
アルトの横にはあの男がいる。
かつてのアルトの護衛だ。
今にも喧嘩を売りに行きそうなニクスを、しかし、魔眼保持者は止めた。
彼の目には、二人を囲む魔法が見えていた。
それは、檻の形をしていた。
アルトを奪わせない、という強烈な意思を感じる、歪んだ魔法だ。
(へぇ……)
解くのは簡単だ。
でも、解いた瞬間、自分たちがいることがバレてしまう。
アルト達は甘味処にはいっていって、雑談をしていた。
物騒な気配を魔眼保持者は感じ取っていた。
「はやくした方がいいかもですね」
本当はそれとなく接触するつもりだった。
けれど、やめる。
それは直感だった。
あの男は、セナは、獲物を前に舌なめずりをする肉食獣の目をしていた。
まずは二人の泊まっている宿を確認する必要がある。
そして、機会を待ってアルトを助け出そうと決めた。