わりと幸せそうな彼らの日々
一方、その頃。
とある町の冒険者ギルドに、二人組の冒険者が訪れていた。
小柄で可愛らしい黒髪の少女のような顔立ちの魔法使いの少年と、長身の剣士の青年だ。。
「さて、どの依頼にするんだ?」
青年が優しい声で問う。
「できるだけ報酬がいいやつ。
早く家を買いたいからさー」
少年が答える。
依頼書が貼ってある掲示板の前で、仕事を探す。
「あ、これがいい」
危険ではあるが、報酬がいい依頼書を掲示板から剥がす。
「俺はずっとこうして旅するのもいいと思うけどな。
魔法の研究はどこでもできるって言ったのは、お前だろアルト」
「あー、まぁ、そうなんだけどさ。
こう、早く腰を落ち着けたいんだよ。
お前だってそのほうがいいだろ、セナ」
アルトは早速、依頼書を受付へ持っていく。
そして、正式に仕事を受注した。
依頼内容は、モンスター討伐だ。
そうして、仕事に出発しようとする。
なんならセナは何歩か先を歩いて、冒険者ギルドの入口へ向かっていた。
その時アルトは、ズボンのポケットに違和感を覚えた。
なにか、入っているのだ。
「?」
硬貨でも入れていただろうか、とポケットの中からそれを取り出した。
「指輪??」
こんなものいつ手に入れたのだろうか?
と、すぐに先日とある盗賊討伐の仕事をしたことを思い出した。
その盗賊たちが溜め込んでいた宝物の一部を報酬としてもらったのだ。
その時のものだろう。
何気なくポケットに入れたのだ。
全く覚えてないけど。
「って、これ……」
その指輪にあしらわれている宝石を見て、アルトは驚いた。
国宝級の宝石だった。
と、なにかが脳裏に閃いた。
――………る――
でも、それがなんなのかわからない。
なにかの記憶のような、声のような気もするが、すぐに霧散するように消えてしまう。
マジマジとアルトはもう一度指輪を見た。
「呪いは、かかってない」
そんなアルトにセナが出入口から声を掛けてくる。
「どうしたー?行くぞー??」
「あ、うん」
アルトは指輪を、まるで隠すかのように慌ててポケットへ入れ直した。
貴重な宝石が使われているから、これを売れば家を買うお金くらい簡単に工面できそうだ。
そう、考えたものの何故かその気になれなかった。
(これは、本当にお金に困った時に売ろう)
そう決めた。
「悪い悪い」
アルトはセナに軽く謝る。
そして、二人は並んで歩き出した。
アルトは不意にセナを見上げた。
セナの方が背が高いからだ。
なんとなく見上げたセナの姿が、一瞬、全く別人の姿に見えた。
「……え?」
目をパチクリする。
やはり、セナだった。
(???)
自分で思っているより、もしかしたら疲れているのかもしれない。
(この仕事が終わったらゆっくりしよう)
思えば、死んだフリをして実家を出る時にセナに見つかってから、ずっと彼も一緒に行動している。
この四年間、二人してまともに休んでいなかった。
「セナ」
「なんだ?」
「この仕事終わったら、しばらく休暇にしようと思う」
「そうか」
「お前もしばらく遊びに」
「行かない」
「いや、たまにはゆっくり」
「俺はお前の護衛だ。
お前から離れるつもりはない」
ずっと、この調子だ。
たまには休んでほしい。
なによりも、アルトも気が休まらない。
(自由に、なりたいなぁ……)
と、アルトは贅沢な悩みを内心でつぶやくのだった。
実家から逃げることが出来たし、憧れていた冒険者にもなれたし、こうして各地を巡る旅を楽しんでいる。
けれど、どこか息苦しいのだ。
前はもっと自由だった。
(……まえ??)
アルトは内心、首を傾げた。
こうして旅に出て四年。
ずっとセナが行動をともにしている。
それより前は、ずっと実家にいた。
だから、今よりも自由だったことなど無いはずだ。
(んー、やっぱり疲れてるんだな。
この仕事が終わったら、温泉にでもいくか)
仕事は、あっさりと終わった。