平和な日々と書き換えられた世界
それからの日々は、いたって普通だった。
普通というのは、いつも通りということだ。
次期魔王候補たち同士の暗躍は続いていたし。
僕らの母親の暗躍も続いていた。
けれどアルトのことは、驚異とは見なされていなかった。
興味を持つ僕の兄弟姉妹はいたものの、何故か危害を加えてくることはなかった。
少し変わったのは、僕がアルトの傍にいられない時は、部下である魔眼保持者の青年が彼に付いているということだった。
それくらいだ。
考察厨が懸念していた、アルトの元護衛であるセナの襲撃は無かった。
諦めたのかな、なんて都合よく僕たちは解釈した。
とにかく、平和に日々は過ぎていった。
そして、その日、僕はアルトにとある物をみせた。
婚約指輪である。
長兄が横流しした宝石をあしらった指輪である。
「サイズの確認をしたいから」
そう言って、僕はアルトの手をとって指輪を彼の薬指へと通す。
お互いなんだか照れつつの確認だった。
「なんだか、気恥ずかしいですね」
なんて、アルトが言う。
さらに続けた。
「でも、うれしいです。
なんていうか、ものすごく、しあわ――」
※※※
魔法が展開する。
世界を巻き込んだ、魔法が展開する。
そして、世界が文字通り書き換わっていく。
その書き換えを行った人物が、ただ一人、歪んだ笑みを浮かべていた。
「さぁ、お前が望んだ世界にしてやるよ、アルト」
その人物、セナはただ、笑っていた
幸せを噛み締めるように、笑っていた。
やがて、書き換えが完了し、世界が動き出した。
※※※
アルトの言葉が、途中で止まった。
それだけではない、今の今まで触れていたアルトの手も消えている。
「……え??
アルト??」
今まで目の前にいたアルトが消えていた。
それだけではない、場所まで違う。
先程まで、ニクスはあの部屋にいた。
アルトと二人で住んでいる、部屋にいたはずだ。
けれど、ここは。
「執務室??」
離宮にある、ニクスの執務室だ。
白昼夢でも見ていたのだろうか。
しかし、確かにニクスはアルトの手を取って、その指に婚約指輪をはめようとしていたのだ。
なにがなんだかわからない事態に戸惑っていると、執務室の扉が開いた。
現れたのは、ニクスの側近である
「王子??どうしました??」
そう声をかけてきたのは、側近のディーだ。
「あ、いや、その。
アルトが」
「アルト??」
「そう、アルトが消えて」
戸惑いつつも説明しようとする。
しかし、そんな僕のことを怪訝に見返しながら、ディーは言った。
「誰ですか?それ?」
「……は????」
ディーは不思議そうに首を傾げる。
「今日は来客の予定はなかったはずですが」
なにを、言ってるんだ?
「いや、アルトだよ。
僕の婚約者の、アルトのことだよ」
「こんやくしゃ??
婚約者?!
王子!いつの間にそのようなお相手が!?」
待て待て待て待て待て待て。
知ってるはずだろう。
ディーはアルトのことを気に入っていたじゃないか。
受け入れていたじゃないか。
なのに、なんでこんな忘れたような反応をするんだ。
「というか、そんな話きいてませんよ?!
もしかして、仕事のし過ぎでついにおかしくなったのでは」
失礼だな。
いや、でも、この反応……。
本当に、知らないのか??
いくつか、アルトに関してディーに質問をしてみた。
やはり、彼はアルトのことを知らなかった。
その後、アンにも確認してみるとやはり彼女もアルトのことを知らないと言った。
まるで本当に夢だったかのように、この日、僕の目の前からアルトは消えてしまったのだった。
それじゃあ、頑張ろっか、ニクス君。
( *˙ω˙*)و グッ!