欲しいものを手に入れるにはどうしたらいいか?
欲しいものを手に入れるには、どうしたらいいか?
簡単だ。
手に入れられるよう、行動すればいい。
頑張って、手に入るまで行動すればいい。
結果は後からついてくる。
だから、行動すればいい。
実に簡単で明快なことだ。
「そう、簡単なことなんだ」
セナは、かつてアルトが居た場所へやってきた。
彼が所属し、そして囚われていた場所へ。
実家ではない。
研究所だ。
アルトを閉じ込めていた檻。
今は閉鎖され、誰もいない廃墟となっているそこ。
研究資料はすべて回収され、なにも残っていない、抜け殻となった施設。
けれど、アルトはそこに趣味で作り上げた魔法の研究資料を残しているはずだった。
一般的な娯楽を与えられなかったアルトにとって、魔法の研究は遊びだった。
同年代の子たちが、体を使う遊びをするようにアルトは魔法で遊んでいた。
でも、それは危険な火遊びだった。
禁忌とされている魔法の研究もしていた。
表に出ることは無い。
出すこともない。
そんな魔法の研究。
たとえば、死者蘇生がそれだ。
かつて死にかけていたセナを救った魔法。
ほかにも、本当にたくさんの、表には出せない魔法をアルトは研究していた。
でも、それはアルトにしてみれば趣味の範囲内だった。
そして、アルトはその生まれからだろう。
世間と少し感覚がズレていた。
趣味というものの認識がズレていたのではない。
余暇にやるような研究ではなかっただけだ。
たとえば、それは本人からしたら日記のようなものだ。
誰に見せるでもない、日々の記録。
良かったことも愚痴も書いてある、そんな日記のようなものでもあった。
セナはその研究のことを知っていた。
ずっと、一緒にいたから知っていた。
それがどこに隠されているかも、知っていた。
かつてアルトが使っていた部屋。
いまや埃が積もったままの、空っぽの部屋。
その部屋へはいる。
そして、指を空中へ滑らせた。
アルトが教えてくれたのだ。
魔法の使い方も、戦い方も、アルトが教えてくれた。
なにも知らなかったセナに、アルトはいろんなことを教えてくれて、与えてくれた。
今度は自分の番だと、セナは思った。
与えられた以上に、恩を返さなくてはと思っていた。
でも、ある日とつぜん、そんなアルトが死んだ。
けれど生きていた。
生きていたことに、最初は裏切られたと思った。
けれど、考え直した。
きっと、別の誰かに囚われたのだ、とそう考え直した。
その別の誰か、別の存在によって死んだことにされたのだ、と。
なにせ、アルトには利用価値がある。
魔法研究においては、稀代の天才だ。
いくら弟の予備品として生み出されたといっても、そのまま廃棄処分にするには惜しいだろう。
アルトの価値を知った存在、個人が組織かはわからないが、そう言った存在がアルトを望み、セナの前から奪い去ったのだ、と考えた。
セナが指を滑らせると、魔法陣が現れる。
その魔法陣を解除する。
すると、空間の裂け目が現れた。
裂け目の中にはもうひとつの、アルトの部屋がある。
ふつうの部屋だ。
木製の机、本棚。
古い本が塔をつくり、ぎゅうぎゅう詰めになっている、部屋。
セナはその部屋の中に足を踏み入れる。
目的のものを、さがすために。