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裏切りの光景2

兄、アルトゥスの墓が何者かによって暴かれた。


その報告を受けて、アリステア家の現当主テナーはすぐさまアルトゥスの墓へとやってきた。


報告通りの光景がそこに広がっていた。

埋葬されていた兄の遺体は、姿かたちもない。

代わりとばかりに、兄が眠っていた棺の中には石が敷き詰められていた。


「…………」


その事実に、彼は拳を握り締める。

血が出るほど、キツく握り締める。

目の前の光景が示す現実。

それは、兄が生きているということだ。


いったい誰が兄の墓を暴いたのかは知らない。


けれども、こうして兄の生存をしれたことには感謝しかない。


「兄を見つけ出せ!!」


気づいた時には怒鳴るように、そう指示を飛ばしていた。

兄が死んで三年が経過している。

すでに国外に出ている可能性だってある。


けれど、それでも探し出さなければならない。

たとえ、何年かかろうとも。

そう覚悟していた。


だというのに、兄はすぐ見つかった。

何故か国内にいて、冒険者をしていたのだ。

しかも、アリステア家が受けている暗殺仕事、そのターゲットの護衛をしていた。

二度も、こちらの仕事を失敗させているときた。


なにをしてるんだ、この兄は。


当の本人は、無防備に宿で寝ていた。

見つけ次第、最大限無力化して連れてくるよう、指示をだしていたので、派遣された部下たちは忠実に従ってくれた。


そして今、兄は彼の目の前にいた。


アリステア家が所有する、建物。

元々は、アリステア家に魔法を学びに来る者たちの住居として使用されている建物である。

しかし、今は誰も使用していない。

管理こそしているので、掃除は行き届いている。

その一室に、兄は寝かされていた。

目隠しをされ、腱を切られている。

その上で、手足を特殊加工した魔法の紐で拘束している。

しかし、最大限の無力化と指示を出していたため、体を動かせないよう、特別製の魔法薬も飲ませたらしい。


意識はとうに戻っていることがわかった。


「こんの、クソアニキがー!!!!!」


開口一番、どんな言葉をかけるか、テナーは自分でも分からなかった。


「起きてんの丸わかりだ!!」


怒鳴りつけ、猿轡を外す。


「ぷは、あー、えーと。

あはは、捕まっちゃったか。

久しぶり~」


「てめぇ、ふざけてんのか?!

なんで、どうしてっ!!」


そこから先の言葉が続かない。

それでも、絞り出した。


「どうして、こんなこと(死んだフリ)をした?」


「……俺はここにいちゃいけない人間だっただろ。

忘れたのか??

役目が終わったら、それで人生終了は決まってた」


その言葉を受けて、無意識にテナーは自分の胸、心臓のある部分に触れていた。

この兄、アルトゥスの魔核が移植された場所だ。

移植されたあと、魔核は彼の体に適合した。


「生きたまま移植できる方法を使ったんなら、なんでっ」


さらにテナーは怒鳴る。

けれど、アルトゥスのことを見て、気づいた。

アルトゥスに知らない気配が重なっている。


「……テナー?」


アルトゥスが不思議そうに名前を呼んだ。

瞬間。

服が破かれた。

乱暴に、破かれてしまう。


「は?」


流石にアルトゥスも慌て出す。

しかし、体が動いてくれない。


「はっ、自分は死んだフリしてよろしくやってたのか」


テナーは、兄の体中に所狭しと刻まれた、キスマークを見て皮肉を口にする。

余程、情熱的で独占欲の強い恋人を見つけたらしい。


それなら、色々納得できる。

きっとすでに、四年前にはもう恋人がいたのだ。

もともと、アルトは大人びていた。

いや、大人にならざるをえなかったのだ。

当時から、そんな相手がいても不思議ではないほどに、彼はひどく大人びていた。


「だから、セナを置いていったんだな」


「セナ?」


「お前が拾ってきた、お前の護衛だろ!!

忘れたなんて言わせないからな?!」


「いや、忘れてないけど。

なんでここでアイツの名前が出てくるのかなーって不思議で。

俺の事に、アイツは関係ないだろ」


「……は?」


「いや、たしかにアイツを拾ったのは俺だけど。

んで、俺の護衛というか身の回りのお世話係ではあったけど。

でも、だからってなんで俺のことにアイツを付き合わせなきゃいけないんだ?

無関係なのに」


「おまえ、なに、いって……??」


テナーは知っている。

アルトがセナを拾ったところに、彼も居合わせたからだ。

血まみれで、今にも死にそうなセナにもう一度人生を与えたのがアルトだった。

そんなアルトに、セナは忠誠を誓っていた。

だから、テナーはセナに嫌われていた。

アルトがテナーの予備品と知られてから、向けられる嫌悪感は増した。

別にそれでよかった。

テナーはセナに好かれようと思ったことなど無かったから。


ただ、セナのアルトへ向ける感情は忠誠や敬愛とは違うことに気づいていた。

長じてから、同性同士でも異性のように愛し合う形があることを知った。

セナがアルトへ向ける感情はそれだった。


それを知っていたからこそ、アルトのセナに対する扱いというか感情に戸惑ってしまう。

アルトはセナのことを何とも思っていなかったのだ。

あれだけ分かりやすい感情を向けられていたのに、欠片も伝わっていなかったのだ。


目隠しをされたまま、アルトはきょとんと返す。


「俺みたいななんの価値もないヤツと一緒にいたら、アイツが可哀想だろ」


呆れてしまう。


「バカにすんのもいい加減にしろよ!!」


アルトが消えてから、セナはずっと生きた屍だった。

テナーの護衛になってからは、彼に殺気をむけるようになり、元気になってきた。

けれど、やがて気づいた。

セナは死に場所を求めていた。

そうしてアルトの後を追おうとしていたのだ。

それが理解出来てしまったから、テナーはセナを暗殺部隊へ所属させた。


価値がないなんてことはない。


少なくとも、セナにとってアルトはかけがえの無い存在だった。


けれどきっと、いくらそれを説明して訴えたところで、この兄には届かない。


兄は、いつだって奪われて来たから。

他人のことが嫌いなのだ。

テナーを含めて、嫌いなのだ。

けれど、それは仕方ないことだとわかっている。


(俺に、家に、両親たちに、生まれた時からなにもかもを搾取される人生だったから)


そのことに責任を感じているからこそ、こうやって保護したのだ。

無理やり、乱暴なことをした自覚はある。

こうして勢いにまかせて、服まで破いてしまった。

言い訳の余地はない。

もとより、そんなことをする気もない。


しかし、あの人嫌いな兄が体を許すなど驚いたのも事実だ。


とにかく、両親、とりわけ先代当主とセナに兄が生きていることが伝わる前に保護しなければならなかった。

先代当主は今度こそ兄を殺すだろうし。

セナは、なにをするかわからない。


アルトに恋人がいるとなったら、なおのことどんな行動に出るかわからない。

急いで、せめてこの気配だけでもなんとかしなけらばならない。


子供だまし程度だけれど、やらないよりはマシだ。

そう考えて、テナーはアルトの体に触れた。


「……え」


アルトが絶望的な声を出した。

なにをしているのか、理解したのだ。


(ニクスさんの痕跡、消してる?!)


「やめろ、やめてくれ……」


なんとか声を絞り出す。

けれどテナーは、淡々と作業を進めていく。

ベタベタと、弟とはいえ他の男に身体を触られる不快感にぞわりとする。


「……やめろ、って!!」


作業を進めてる途中で、兄がおそらく最後の力を振り絞って使えないはずの魔法を使った。

その際、テナーは蹴り飛ばされてしまう。

一方、兄の方は目隠しがとれた。

一瞬だけ、2人の視線が絡みあった。

直後、アルトは自分自身をクリスタルに封じ込める。


その魔法がどうやって発動したのか、テナーにはわかった。

わかってしまった。

だからこそ、青ざめてしまう。


「死にたいのか、このバカ!!」


兄の命そのものが魔力に変換され、クリスタルを創造していた。

テナーは、すぐに魔法の解除にかかる。

こんな寿命を削るだけの、自傷行為以外の何物でもない魔法など、いったいいつ開発したのか。


兄らしくない、魔法だ。


怒りとともに呆れるしかなかった。


完全版的な方は、pixivとムーンライトのほうに投稿中です。

年齢制限に引っかからない方はそちらもよろしくお願いします。

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