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友人の異母兄をそうと知らず助けた話3

※※※


昼過ぎのことだ。


「王子!!大変です!!」


バタバタと、アンさんが俺たちの借りている部屋へ駆け込んできた。

思い思いにのんびりと過ごしていた俺たちは、突然の来訪に目を丸くする。


「大変なんです!!

エレヴォス様が!!」


エレヴォス?

誰だ??


「エレヴォス様がお亡くなりに!!」


途端に、ニクスさんの表情が凍りついた。


「すぐに王宮へ!!」


「兄上が??

それは……本当か?」


なるほど、お兄さんの一人か。

しかし、ニクスさんのこの動揺っぷりからすると、もしかして仲がいいお兄さんだったとかかな?


「えぇ」


ニクスさんが、ちらりと俺を見る。

もう少ししたら、夕食の買い物にでも行こうかと話していたのだ。

そのことを気にしているのかもしれない。

しかし、身内の不幸があったなら仕方ないだろう。


「俺も行った方がいいやつですか?」


俺はニクスさんとアンさん、二人に訊ねる。

二人は微妙そうな顔をした。

まぁ、だろうな。

俺はニクスさんとは、まだ【友達】でしかない。

これが、正式な婚姻関係があったりしたら別なのだろうが。

まだ、正式に婚約すらしていないのだ。

だから、関われることではない。

朝のやり取りは、口約束でしかない。

俺は、現時点でニクスさんとは家族でもなんでもない、他人だ。

そして、友達であることを最初に望んだのは、他ならない俺自身である。


「夕飯、ニクスさんどうします?

帰ってきます?」


「……たぶん、帰れないと思う。

だから、いらないかな」


「了解しました」


「あと、もしかしたらまた数日は帰れないと思う」


だろうなあ。

急な身内の不幸ってなるとなぁ、そういうこともある。

そんな短いやりとりのあと、二人はバタバタと部屋を出ていった。

その背中を見送って、俺はシンっと静まった部屋を見回した。


「どうしよう」


家事は終わってるので、あとは本当に夕食の買い出しに行くくらいしか予定がなかった。

しかし、その夕食も自分一人だけなら、どこかで食べた方がいい。

作らなくていいから楽だ。


外食候補はいくつかある。


冒険者ギルドに併設されてる酒場。

ちょっと歩いたところにある商店街、そこに立ち並ぶ飲食店。


「なに食べようかなぁ」


と、呟いた時だ。

家のドアがノックされた。

同時に、ドアを叩いた者は、冒険者ギルドからの使いだと口にした。


「はいはい、今あけまーす」


ドアを開けると、冒険者ギルドで雑用を任されている新人が立っていた。

何度か顔を見たことがあるし、時折会話も交わした事がある人物だった。

俺と同じか、一、二歳ほど下の少女である。

俺が顔を出すと、少女はほっとしたらしい。

けれど、すぐ気まずそうに視線を外す。


「ご在宅でよかったです。アルトさん。

ギルドマスターがお呼びです」


こうして俺は、冒険者ギルドに呼び出しをくらったのだった。

なにか悪いことしたっけ??

報告書に不備があったか??

呼び出しをくらう心当たりがなく、首を傾げる。


もしかしたら、仕事の話かもしれない。

俺は身支度を整えてから、冒険者ギルドへ向かうと伝える。

少女は恥ずかしそうに、去っていった。


なんなんだ。


その疑問は直ぐに解決した。

身支度を整えるには必要だから、とニクスさんが購入した姿見。

共有スペースの端っこにおいてあるそれで、俺も身支度を整えようとしたときに気づいた。


見える場所にこれでもか、と昨夜彼に愛された痕が付いていたのだ。


っとに、包帯!!

包帯どこだ!?


見えるとこには付けるなって言ってんのに!!


――――――――



――――



――……


冒険者ギルドに着くと、打ち合わせ用の一室に通された。

そこで、ギルドマスターと昨夜助けた人物が待っていた。

昨夜助けた人物は、【エレヴォス】と名乗った。

ニクスさんの亡くなったお兄さんの名前も同じだったなぁ。


と、のんびり考えた時、色々繋がってしまった。


生きてるじゃん、ニクスさんのお兄さん。

しかし、ギルドマスターがいる手前、このことを指摘するわけにもいかない。


さて、エレヴォスさんは俺を見るなり顔をひきつらせた。

あ、キスマーク隠しきれてないのか??

ちゃんとチェックしてきたのに。

いや、ギルドマスターは普通だ。

じゃあ、なんなんだ、エレヴォスさんのこの反応。

しかし、エレヴォスさんは直ぐに引きつった表情を消した。


「昨夜は本当にありがとうございました」


丁寧に頭を下げられる。

続いて、


「少ないですが、どうぞお受け取りください」


謝礼の金貨をテーブルに置かれる。


「え、でも、昨日のは仕事じゃないので」


お金はほしいが、そうひょいひょいと受け取れるものでもない。

ましてや、兄弟揃って魔法の実験台にしたことに少しだけ後ろめたさがあるのだ。


「受け取ってください。

おかげで俺はこうして生きているのですから」


なるほど、たしかに兄弟だ。

面差しがよく似ている。


「……わかりました」


俺は金を受け取った。


「それで、本題はなんですか?」


昨夜のこと、今朝のこと。

それぞれが妙な繋がりをみせている。

くわえて、この謝礼金。

こんなもの、冒険者ギルドの受付嬢にでも預けておけば、俺がクエストを受注した時にでも渡してくれる。

なんなら、謝礼を渡したいと伝えた時に、そのことも説明されるはずだ。


けれど、そうしなかった。

つまり、なにかしら別件で話があるということだ。


「話が早くて助かります。

貴方に護衛を頼みたいのです」



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