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友人の異母兄をそうと知らず助けた話

「それじゃ、お疲れ様でしたー」


冒険者ギルドで、手伝い要員として入ったパーティ。

そのパーティメンバーに挨拶した。


「おう、今日はありがとうな。

ほれ、これ今日の分の報酬」


「あざーっす」


パーティリーダーから報酬の金貨を渡される。


「今日はもう帰るの?」


別のメンバーが聞いてきた。

頭の中で、同居人のスケジュールを思い出す。

たしか、明後日までニクスさんは王子としての仕事があるので留守だったはずだ。

じゃあ、酒場でなにか食べていこうかなぁ。

作るのめんどいし。


そのことを説明すると、パーティメンバー達が食事に誘ってくれた。

冒険者ギルドと併設されている酒場で食べることにした。

くだらない話で盛り上がった。


「それじゃ、俺はこれで」


腹も膨れたので、俺は帰路につく。

ニクスさんと一緒に住むようになってから、監視が消えた。

それに伴い、護衛も解かれることとなった。

ニクスさんとしては、もう少し様子見をしたかったみたいだが、向こうからなにもされず、また監視を引き上げさせたのならこちらも護衛を置く理由がなくなってしまった。

もとより、なにかあっても俺は自分でなんとかできる。


ニクスさんもそれをよく知っているから、ゴネずに護衛を引き上げさせたのだった。


さて、そんな帰り道の途中。

近道しようと、裏路地を通ることにした。


ふと、殺気に気づく。

俺に向けられたものでは無い。

裏路地の奥から、刃物がぶつかり合うような音が聞こえてきた。

持っていたランタンで、先を照らす。


何も見えない。

でも、ずっとずっと向こうで戦闘か、喧嘩が行われている事が察せられた。


好奇心を擽られ、俺はそっちへ走り出した。


音が段々近くなる。

やがて、その戦闘をしている場所に出た。

街の外れで、開けてはいるものの民家はない。

そこで黒づくめ数人に取り囲まれ、タコ殴りよろしく暴行を受けている者が見えた。

と、黒づくめの一人が剣を一閃する。

なにかが宙を舞った。

手首だ。

それを黒づくめの一人が回収する。

同時に血も舞う。

被害者が倒れる。


助けようと俺は、スピードをあげる。


しかし、間に合わなかった。

黒づくめの一人が、倒れた者へ剣を振り下ろしたのである。

黒づくめ達は、それで満足したらしい。

俺に気づいたものの、町民だと考えたのかその場から去ってしまった。


俺は倒れている人へ近づく。

ランタンを使ってその場を照らす。

男性だった。

どこにでもいる、一般人にみえる。

年齢は、ニクスさんと同じか少し上くらいだろうか。

すでに事切れているのがわかった。

周囲は彼の血が広がり、血溜まりを作っている。

切り取られたのは左手首だった。


仕方ない、か。


「ニクスさん、すみません」


ここにはいない友人へ、謝罪する。

そして俺は、かつてニクスさんを助けた術式を使うことにしたのだった。


久しぶりだな、これ使うの。

あれから、魔眼保持者さんと改良を重ね、欠陥も無くした術式だ。

けれど、俺の命を使うことと、そして唇を重ねるのは変えることができなかった。

それでも、前のに比べれば俺の負担はだいぶ減るはずだった。


これは人助け。

これは人命救助。


そう自分に言い聞かせつつ、俺は術式を発動しこの見ず知らずの人へ口づけをしたのだった。


あとでニクスさんには、ちゃんと説明しよう。

怒ったり、不機嫌になるかもしれないけれど。

でも、目の前で人が死んでいくのを見逃すことは、俺には出来なかった。


「……っう」


男性が呻く。

ちらり、と左手首を見る。


再生が始まっていた。


もう少し。

出血が多い。

もう少しだけ、俺の命をわける。

もう一度、左手首を見た。

光の粒子があつまり、再生が完了しつつある。


あと、もうちょっとだけ。


男性の瞼が震えた。


うっすらそれが開く。

俺と目が合った。


よかった、意識が戻った。

俺は唇を離す。

彼の傷口を確認する。

完全に塞がっていた。

彼を背負う。

少し、ふらついた。


「おっと」


でも、倒れることなく俺は歩き出す。

ここからだと、住んでいる部屋より冒険者ギルドの方が少しだけ近い。

俺は、来た道を戻ることにした。



――――――――



――――



――……


結局、遅くなったー。

まぁ、今日はニクスさんいないからいいけど。

あと明日は休みにしてあるからゆっくりしよう。


あの後、俺は冒険者ギルドの受付に意識が朦朧としている男性を投げてきた。

あそこなら部屋があるので、一晩くらい泊めてくれるからだ。

実際、こういうことは多い。

夜勤の受付さんたちは慣れたもので、テキパキと部屋を用意し、彼を運び込んだ。

簡単に起きたことを報告して、俺は今度こそ帰宅したのだった。


さて、寝るかー。


そう考えて家に着いてみて、驚いた。

灯りがついている。


え、まさか、ニクスさん帰ってきた??

仕事明後日までじゃなかったの??


俺は家に入る。

すると、共有スペースに置いた食事用のテーブルと椅子、その椅子に座って彼が待っていた。


「あ、おかえり、おそかった……」


ニクスさんがにこやかに迎えてくれたが、その言葉が途中で止まる。

あ、やべぇ、気づかれた!!

ゆらり、とニクスさんが立ち上がる。


「え、えっと」


こちらにゆっくり近づいてくる。

説明しないと!


「あの魔法つかったね」


声はおだやかだ。

けれど、やはり目は笑っていなかった。


「説明します!!説明しますから!!」


「説明は後……」


そう言ったかと思うと、ニクスさんは唐突にキスしてきた。

口でやるやつだ。

同時に、魔法が発動したのがわかる。

先程、俺があの男性を助けるために使ったものと同じものだ。

ニクスさんの命が俺の中に流れ込んでくる。


やがて、ニクスさんが唇を離した。


「はい。終わり。

今にも倒れそうなくらいふらついてたから驚いたよ。

それで、なにがあったの?」


テーブルを挟んで向かい合って座り、俺は何があったのか説明した。

でも、めんどくさかったので、左手首のこととかは話さなかった。

ざっくりと説明しただけだ。

暴漢、おそらく強盗に襲われて死にかかってた人を助けた、という風に話した。


「なるほどね」


「あの、すみません。

俺から言い出したことなのに、ニクスさんがいない時にあの魔法を使ってしまって」


「……まぁ、君がそういう性質だから僕も助かったわけだし。

そのことを怒るつもりはないよ」


今度は目が優しくなっている。

良かった。


「ところでニクスさん、たしか帰宅するの明後日って言ってませんでしたっけ??」


「予定より早く終わらせたんだ。

君が明日休みにするって言ってたしね。

一日でも早く、君と過ごしたかったから頑張って終わらせたんだよ」


「なるほど」


「だから、これからゆっくり出来るよ」


ニクスさんはニコニコ笑顔でそう言った。


「そうですね。

じゃあ、もう休みましょうか」


俺は椅子から立ち上がる。

つられるように、ニクスさんも立ち上がった。


「そうだね」


ただ普通に寝るだけ、と思っていたのだが、このあと彼にそっちの意味で食われた件。

元気すぎやしませんか、ニクスさん。

あと、なんていうかニクスさんの様子が変だった。

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