相互理解しはじめた話 あと気持ちの変化とかそういうの
「その辺の話、した方がいいですか?」
盗賊退治の時に、あとでしよう、とは話していた。
でも、ここに来て話すことに怖気付いてしまう。
「君が話したいなら、話していいよ。
話したくないなら、無理に聞かない。
君には君の考えがあって、今まで過ごして来たんだろうし。
僕は君の考えを尊重する」
「そう、ですか」
「でもこれだけは言わせてほしい。
僕は、君が本当に嫌がることはしたくない。
だから、あんな形で君を抱きたくなかったんだよ」
とニクスさんは続けた。
「もう二度と今回みたいなことはしないでほしい。
僕は君を失いたくないから。
もしも、君を失うくらいなら嫌われてもいいから、僕は君を監禁するくらいはやっちゃうかも。
今後、同じことがあったら今度は君から魔法と自由を奪っても、それをするからね。
君を永遠に失うよりは、ずっといい。
なんちゃって、アハハハ」
冗談めかして声こそ笑ってるけど、目が笑っていなかった。
「すみません」
彼が俺の事を本当に想って、言ってくれてるのが理解出来た。
笑っていない目の中に、怒りと悲しさと恐怖が混ざっていた。
それだけでわかる。
本当にこの人は、俺に死んで欲しくないんだな、ということがわかってしまった。
こんな風に思いを向けられるのは本当に初めてで、だからだろう、本音が滑りでた。
「俺だって死にたくないんです。
まさか、こんなことになるなんて思ってなくて。
あの術式はしばらく封印します。
実験をする時は、ニクスさんがいる時だけにします」
死にかけたのは、術式の扱いに失敗したのが原因だろう。
なにかしら術式に欠陥があったのは間違いない。
ニクスさんが使った時は、彼の部下で魔法にも造詣が深い魔眼保持者さんが術式の書き換えを手伝ってくれたので、おそらく欠陥も書き換えられていたのだと思う。
あとで、魔眼保持者さんともこのことで話をしようと思う。
「二度とつかってほしくないんだけどなぁ。
でも、なんで僕がいる時だけ??」
「そ、それは、その。
監視役ならニクスさんにお願いしたいなぁって思って」
本音のひとつだ。
顔が火照る。
「顔が赤いね。
やっぱり、まだ体調がもどってないんでしょ。
熱が出てきたかな?」
「ち、ちがくて!!
その、えっと、つまりですね?!」
俺はベッドから身を乗り出し、ニクスさんの腕をつかむ。
そして、こちら側へ引っ張った。
ニクスさんが驚いて、俺が引っ張った勢いで倒れこんでくる。
そのまま、俺は彼に抱きつく。
抱きついて、ベッドに倒れこむ。
ニクスさんが俺を押し倒したような形になる。
でも、気にしなかった。
俺は初めて出会った時のように、彼へ唇を重ねた。
ニクスさんが驚いている。
彼を蘇生させた時に見せた、あの時の驚きの顔だった。
ただ唇を重ねるだけのそれ。
すぐに離す。
「ニクスさんは、俺が抱かれるの嫌がってたみたいに考えてますけど。
誤解ですから!!
たしかに、俺、うっすら人は嫌いですよ。
でも、ニクスさんは別ですから!!
ニクスさんは、俺の命の恩人です。
ニクスさんがいると安心できるんです。
貴方は、もしかしたら、俺と同じように死にかけたかもしれないのに、構わず助けてくれました。
だから、ニクスさんは別なんです」
俺、なんでこんなに必死になってるんだろう。
でも、言わないとダメだと思ったのだ。
ちゃんと伝えようと、そう思ったのだ。
そして、伝えるだけじゃきっとちゃんと伝わらないから、こうして行動で示してみせた。
「え、えー、それ、ほんと??
きみの、特別になったってことでいいの??」
顔を真っ赤にしながら、ニクスさんが確認してくる。
頷いてみせる。
「だから、その、掲示板にも書き込んだし。
一緒に住む部屋、そろそろ決めません?」
俺が離宮に引っ越せばいいのでは、という提案もされた。
けれど、ここはいろんな意味で人の目がありすぎて落ち着かないのだ。
とくに、ニクスさんに対して敵対心を持ってるだろう、彼の兄弟姉妹の息のかかったもの達の目だ。
そんな人達に、ニクスさんとのあれこれを報告されていると考えると、やっぱり嫌な気持ちになる。
あとは、これまた掲示板には書き込んだが、俺たちはお互いの粗を確認するためにも二人で部屋を借りて過ごそう、ということになったのだ。
価値観のすり合わせともいう。
ただ、そうなるとニクスさんは公務のために離宮に通うことになる。
これに関しては本人は気にしていないみたいだから、あえてスルーしている。
「そうだね。
君の体調が戻りしだい、探しに行こう」
「もうとっくに戻ってるんですけど」
「ダメ」
なにげにこの人は頑固なのだ。