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雪幻の刻印  作者: oriibusan
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Episode01 「提案」


ここは様々な人達が住み行き交う国、クルス王国。

その国の端に、小さな一軒家が建っている。

その家には、ある二人が住んでいた。


______________________________________________________


キュノ「おはよう、スコーニさん」

スコーニ「ああ、おはよう」

階段から降りてきた彼に、キュノは軽く挨拶する。

キュノ「もうすぐ朝食が出来るから、先に座って待ってて」

スコーニ「わかった、ありがとう」

彼はそう短く言うと、椅子に腰掛け出来上がるのを待つ。


キュノがここに来ておよそ二年の時が流れた。

二年前に出会い、拾った時はかなり衰弱していて、

それこそ家に着いた途端に倒れ、三日も寝たきりになる程だった。

幸い、軽い栄養失調が原因だったらしくキュノが起き後、少しずつ飯を食べさせていたら、次第に回復していった。

暫くして体調が回復してからは、キュノは条件どおり家事をして過ごしていた。

と言っても、スコーニと家事を分担している様な形になっているので、イト家とは違い比較的精神的余裕をもって過ごせていた。

それに加え、間を見てキュノに体術や魔術の扱い方、文字の読み書き等の様々な事をスコーニが教えてくれた。

そのおかげでキュノはある程度、知見を深めることが出来た。


そうしたおかげか、この二年間でキュノは見違えるほどの成長を遂げていた。

勿論、年齢的に成長期真っ盛りだったため体の成長もあった。

背はかなり伸びており、体格も以前と比べてしっかりとした体つきに。

髪も伸び、今は後ろで束ねて肩から掛けるような形になっている。

そんな成長をしたキュノが、飯を乗せた皿を持ってくる。

キュノ「できたよ、スコーニさん」

机の上に皿を乗せ、対面の椅子に腰掛ける。

普段は手を合わせた後、二人は黙々と食べるだけなのだが、今日は違った。

黙々と食べるキュノを見ながら、スコーニは口を開く。

スコーニ「キュノ、お前って今十五歳だったよな?」

キュノ「そうだけど…いきなりどうしたの?」

キュノがそう尋ねるとスコーニは少し言いづらそうにしながら話す。

スコーニ「キュノ…お前、学校についてどう思う?」

彼の発言に、キュノは少々驚きながら正直に答える。

キュノ「どうって…はっきり言うと怖い…かな。人が多いし何より、拒絶されるのは嫌だから」

スコーニ「そうか」

そう言うと、暫く考える様な仕草をしてからキュノの方に向き直り言う。

スコーニ「実はキュノ、お前を学校に行かせようと思っている」

キュノの体がピクリと動く。

スコーニ「お前には今まで色々な事を教えてきた。が、

俺の教えられる事には限界がある。そこで、お前には学校で様々なものを見て、学んで来て欲しい」

それを聞いたキュノは、目線を落とし不安げな声で聞く。

キュノ「…わかった。で、それは…どこの学校?」

スコーニ「サリア魔術学校だ」

キュノ「え…」

サリア魔術学校。

そこは、とにかく志望する者が多い事で有名な学校だ。

毎年優秀な魔術師を排出しており、世界でも有数の学校とも言われている。

だが同時に、この学校に入った生徒の3割は生きて帰って来ないとも言われている危険な学校でもある。

その理由の一つに、年に一度の進級試験が挙げられる。

サリア魔術学校の進級試験は学年によって異なるが、どれも過酷なものだと聞く。

例を上げると、フェニックスの爪の回収、ウルハウンドの討伐、ピクシーとの友好の証の入手等、どれも手練れの冒険者でも難しい様な試験ばかりと聞く。

そしてその3割のおおよそが、この進級試験で帰らぬ人となるらしい。

しかしキュノにとって、そんな事は正直どうでも良かった。

キュノが不安を感じている理由は、様々な者達と共に学び生活するという学校そのものにあった。

この二年間の中でキュノはかなり人と接せる様になってきていた。だが、根底にある人に対しての恐怖心やトラウマは決して消えた訳ではなく、人から拒絶されるという事に対して強い恐怖を持っていた。

それ故に、学校という多くの人が団体で過ごす様な所に恐怖という感情を向けていた。

キュノ「サリア魔術学校って、どうしてなの?」

キュノは出来る限り冷静に見える様スコーニに聞く。

スコーニ「どうして、か…。一言で言えばキュノが色々学ぶにはそこが一番良いと思ったからだ」

キュノ「そう…でも、学校って事は人が沢山居るんでしょ?」

スコーニ「ああ」

キュノ「…それじゃあ僕を否定する人も居るかもしれないって事でもある?」

スコーニ「そうだな」

キュノ「…………それは怖いな…」

キュノがポツリとそう言うと、スコーニは少し怪訝な顔をして話し出す。

スコーニ「怖い、か…そうだろうな。だがデメリットだけをを見ていても良くないぞ」

そう言った後、いつにも増して真剣な顔でスコーニは話す。

スコーニ「それに、俺はあの学校で大切な物を幾つも見つける事が出来た。そしてそんな大切な物たちをお前にも見つけてほしいと思っている」

そう言ってキュノの方を見る。

スコーニ「行くかどうかは明日の朝に聞こう。自分の思った方で良い。だが、今の話を加味して是非考えて欲しい」

そう言って、スコーニは食器を片付け何処かに行ってしまった。

キュノ「大切な物を見つけて欲しい、か」

一人残ったキュノは先程言われた言葉を思い返していた。

大切な物、自分には正直あまり理解ができない。

自分が守りたい、そばに感じていたいというもの。

それが何なのかは自分には分からない。

だが、それを見つける事が出来るのなら、どれ程喜ばしいことなのだろうか。

それが出来るのなら、見てみたい、感じてみたい。

そうキュノは思う。

多分それを見つける事はそう簡単にはいかないだろう。

でもそれがそこで、サリア魔術学校という場所で見つけられるなら。


行ってみよう。


そうキュノは意思を固めた。


―次の日―

いつも通りの食卓で、キュノは意を決して口を開く。

キュノ「スコーニさん。この前の学校の件だけど」

スコーニ「ああ…返事を聞こうか」

キュノ「僕は…行こうと思う」

スコーニが少し驚いた顔をするのを気にせずキュノは続ける。

キュノ「僕は、大切な物が何かは理解出来ない。けど、それが見つけられるのなら、僕は行ってみたい。そしてその素晴らしさをこの身で感じてみたいんだ」

それを聞いたスコーニは少し笑い、

スコーニ「そうか…分かった」

とだけ言った。

その日の食卓は心無しかいつもより温かい雰囲気になっていた気がした。

その後の動きは早かった。スコーニが入学の手続きをし、キュノは入学の日まで出来るだけ周りに遅れを取らないよう勉学に励む。

そんな生活をしている内に時は過ぎ、ついに家を出る日となった。


キュノ「じゃあ、スコーニさん。そろそろ行くね」

キュノがそう言うとスコーニは何処か懐かしさを感じる様な優しい顔で

スコーニ「ああ、行って来い。たまには帰って来るんだぞ」

と言った。

それを聞いたキュノは

キュノ「わかったよ、スコーニさん。それと、絶対に大切な物を見つけてくるよ」


キュノ「それじゃあ、行ってきます」


そう言ってキュノは玄関の扉を開けた。




あとがき


皆さん今日は、oriibusanです。

前回から投稿が遅れてしまい申し訳ありません。

遅れたのは単純に創作意欲がほぼなかっただけなので煮るなり焼くなり好きにしてもらって構いません…。


さて、今回はサリア魔術学校についてちょっとだけ話そうと思います。

まず、この学校に入った者の3割は帰らぬ人になるというのに関してですが、その死因は昇級試験の他にも少ないですがあります。

例えば模擬戦時の事故や実験の失敗、生徒間での争いなど様々です。

ただ、どれも昇級試験に比べると微々たるもので、全体の5%程にしかなりません。

どれ程昇級試験がヤバいかが再確認出来ますね。

次に、サリア魔術学校には寮があり、そこで生徒達が私生活を行います。

そのため、教師から許可を貰わないと外出はできず、基本的に学校内で暮らす事となってます。

スコーニが「たまには帰って来るんだぞ」と言っていたのはこれがあるからだったのですね。


それでは、最後まで読んでくれて有難うございます。

またいつか更新するのでその時はぜひ読んで貰えると嬉しいです。

それではまた。


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